教育現場での3Dプリンター活用の実情は?

10月16日から17日にかけて、ローランドDGは自社の運営するローランドDG東京クリエイティブセンターにおいて、3Dプリンター&切削加工機「monoFabシリーズ」の発売を記念した体験イベント「monoFab Experience Day」を開催した。当日は工業デザインやデスクトップファブリケーションの著名人による講演に加えて、新製品の紹介も実施。会場には最新の3Dプリンターや切削加工機が展示されており、実機の確認や具体的な質問なども行える有意義なイベントとなった。

熱心に話を聞く参加者が集まった「monoFab Experience Day」

17日は特別講演として慶應義塾大学准教授であり、総務省の研究会である「ファブ社会の展望に関する検討会」の座長も務めている田中浩也氏が「教育現場での3Dプリンター活用」と題して、教育現場やコミュニティにおける、3Dプリンターをはじめとしたデジタルツールの活用事例の紹介を行った。

慶應義塾大学准教授 総務省「ファブ社会の展望に関する検討会」座長 田中浩也氏

3Dプリンターや切削加工機といった各種工作機器を個人が手軽に利用し、ものづくりに取り組めるようになってきた。PCと工作機器が接続され、素人でも子供でもものづくりができるような「パーソナルファブリケーション(ファブ)」を楽しめる場として「ファブラボ」を増やし、広げることに田中氏は取り組んでいる。

講演の冒頭では、慶應義塾大学SFCの図書館内に設置されたファブスペースを学生がどう活用しているかについての紹介が行われた。無料でものづくりが楽しめるファブスペースは、工業系の学科ではない学生にも多く活用されているという。

「iPhoneカバーなどは毎日かなりの数が作られている。椅子に取り付けて荷物をかけるフックなども作られ、快適さが増してきた。こうしたフックは100円均一ショップ等で手に入るかもしれないが、この椅子にぴったりのものというのは売っていない」と田中氏は自分にとって必要なものを直接作り出せる状況を学生が楽しんでいる様子を紹介。「親戚の小学生が漢字の書き取り練習に苦労しているのを見て、1度書けば3回書ける鉛筆ホルダーを作った学生がいる。このデータをインターネットで公開しておいたところ、海外でも利用されるようになった。さらに5本の鉛筆をセットして五線紙がさっと書けるペンを作った音楽家もいる」とインターネットとものづくりが融合することで、新たな展開があることも語られた。

すでにアメリカでは3Dデータをオープンにする取組みが始まっており、インターネットからダウンロードしたデータを実際に成形してみることもできるようになっているという。また教育現場では地形データなどを使って、触ることのできる教材を作ることもあるという。

「これまでパーソナルコンピューターとインターネットはつながっていたが、ファブによって情報・通信・物質化の社会が完成する」と田中氏は語った。

ICF(T)による情報・通信・物質か社会の完成

地域に1つ欲しい、ものづくりのできる「ファブラボ」

地域で利用できる場として設置される「ファブラボ」については、特に鎌倉の例が紹介された。田中氏は学生に、できるだけ地域のファブラボへ向かうことを推奨しているという。海外ではあらゆる年代の人が大学にいるが、日本では20歳前後の非常に狭い年代の人だけが集う場になっている。地域のファブラボは幅広い世代の人と交流できる場として貴重な存在なのだ。

自分のおもちゃを作りに来ている小学生から、十分な技術を持っているが時間に余裕のあるリタイアしたエンジニアまでが集う場で、技術や知識の交流が行われている様も紹介された。また、研究室の学生と行っている「ハンディ3Dスキャナ・フィールドワーク」の様子も紹介。地域にある様々な物の形やテクスチャをデータ化しているのだという。3Dスキャナーと3Dプリンターで作られた土偶に、漆塗りを行ったものの実物がセミナー会場で披露され、最新技術と伝統技術が融合したものの手触りを楽しむこともできた。

3Dプリンターで出力したものに漆を塗った土偶のモデル

ローカルなコミュニケーションに対して、グローバルなコミュニケーションとして挙げられたのが「ファブアカデミー」だ。インターネットを通じて世界中から同時刻に同じ講義に参加する形で進められる12週間のカリキュラムでは、3Dプリンターだけでなく、あらゆる工作機器やソフトウェアの使い方を週替わりで学ぶことができる。

「毎回宿題があるが、これがなかなか大変で燃える。日本人らしさを出してやろうとか、いろいろ考えはじめてしまう。最後の課題は、今まで学んだ全てを使った作品を作ることになるが、そこで出てきた作品は、これは何とはっきり言えないようなものもある」と田中氏は各国参加者の制作作品を紹介したが、途中、熟考して言葉を探すことも多かった。それほど、これまでの概念では名前がつけられないようなものが生み出されているのだ。

「3Dプリンターというのは電子レンジのようなもの。一番手軽な調理として、電子レンジでお弁当を温めるだけというのはある。しかし休日に凝ったものを作ろうとした時、電子レンジだけで済ませることはない。多くの調理器具の中の1つだ。3Dプリンターも同じような立場にある」と田中氏。日本でもインターネットを介して学ぶ場として「gacco」でのオンライン放送大学「3Dプリンタとディジタルファブリケーション」を開催することを告知し、興味のある人にとっての良い学び場となるだろうと結んだ。

講演後の質疑応答も活発に行われたが、その中で3Dプリンターはいずれ家庭に1つあるようなものになるか、という質問には「海外ではそういう例も増えているが、そもそも海外は家が大きく、街から遠い。私の家とは大分環境が違う。日本の家だと置き場はないし、買い物をできる場も多い。買ってくるよりも作る方が手間がかからないというのとは違う。だから、地域に1つというのがよいと思っている」とファブラボ形式での普及が日本の事情に合っているのではないかとも語った。

最新のデスクトップで使える「monoFab」も紹介

特別講演終了後には「monoFab製品紹介セミナー」も開催された。これは最新の3Dプリンターである「ARM-10」と、3D切削加工機「SRM-20」のプレゼンテーションでは、それぞれの技術的な特徴やスペックから、付属ソフトウェアやサプライ品まで紹介された。

3Dプリンターである「ARM-10」と、3D切削加工機「SRM-20」を紹介

休憩時間や終了後には、実機を前にかなり踏み込んだ質問をする参加者の姿も見られ、”小規模なものづくり”への関心の高さが窺えるイベントとなった。