2007年に設立された米ルビコン・プロジェクト。独立系の会社としてロサンゼルスに本拠を置き、同社が提供するデジタル広告向けのリアルタイムトレーディングプラットフォームは業界大手の一角を占めている。同社のSSP(Sell Side Platform)はグローバルで多くのメディアに採用されており、月間で数兆件にも及ぶという広告取引は、comScoreの調査によると米国のネットユーザの96%にリーチし、Googleをも凌ぐ規模となっている。

テクノロジーをベースに成長を続けるルビコン・プロジェクトは、2014年4月にニューヨーク証券取引所への上場を果たした(NYSE: RUBI)。その直前の2月には日本市場への本格展開を発表し、データセンターの設置や京セラコミュニケーションシステム(KCCS)のDSP(Demand Side Platform)「デクワス.DSP」との接続を開始するなど、日本市場への参入を推し進めている。

セルサイドのSSP、バイサイドのDSP、そして両者の間で広告枠をリアルタイムに自動売買するRTB(Real Time Bidding)、さらにファーストパーティやサードパーティの属性データを広告配信に利用するDMP(Data Management Platform)の登場など、メディア広告枠のかたちは大きく様変わりした。一昔前であればWebメディアの広告"枠"がターゲットされていたが、近年は、メディアに訪れた個々のユーザに焦点が当てられている。

ルビコン・プロジェクト
ジェイ・スティーブンス氏

このような流れの中で、SSPやアドネットワークに流すのは余り在庫のマネタイズ……といった考えをメディア側も変えていかなければならないだろう。すでに、米国では広告の自動取引(プログラマティック)に純広告も加えていこうという流れができつつある。また、国内SSPにおいても、純広告枠をビッディングの一入札者として取り扱うことによって、より収益化を高めようといった試みも行われている。

デジタル広告がテクノロジーによって新たな展開を迎えつつある中で、ルビコン・プロジェクトの日本進出にはどのような意味があるのだろうか。「すべての日本のメディアへの導入を目指す」と笑顔で語る同社のジェイ・スティーブンス(Jay Stevens)氏に話を聞いた。同氏は、ルビコン・プロジェクトにおいてイギリスなど欧州の支社をゼロから立ち上げた人物だ。

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ジェイ・スティーブンス氏 : 我々の事業はパブリッシャーの広告売買を自動化することからスタートしました。例えば、アドネットワーク収益を最適化するといったことです。そして4年前にはRTBをうまく統合し、マーケットを作ってきました。現在、パブリッシャーでは30のマーケットをカバーし、プレミアムパブリッシャーの数も700を超えています。

ーー日本市場への参入理由を教えて下さい。

ジェイ・スティーブンス氏 : まず日本の市場規模が挙げられます。そしてタイミングです。パブリッシャーのニーズや広告在庫などの面からも非常に時期を得たタイミングでした。また、グラムメディアのようなグローバルパブリッシャーがいることもそのひとつです。

日本市場への参入にあたっては、全社をあげて体制を整えました。人的リソースもかなりの投資を行い、日本国内に専用のデータセンターも構築しています。請求書なども日本語化し、日本の法規制にあった対応ができる組織など、すべての面において日本で日本の方のために運営できる組織を整えました。これらは、日本市場へのコミットメントとも言えるでしょう。

ーー日本市場における競合他社をどのように意識していますか?

ジェイ・スティーブンス氏 : 日本のSSPは、SSPとDSPを兼ね備えているところが多くあります。その中で両方を洗練されたかたちで戦っていかなければならない、このことは大変だと認識しています。重要なのは、我々は(資本関係などがなく)独立した会社であること。例えば、あるパブリッシャーのみに肩入れするとか、大手広告代理店の意向を汲んで……などといったことなく、あくまでも独立性を保つことを重要視しています。

この独立性は非常に重要です。どこかに偏ってしまうとパブリッシャーのニーズや意を汲めなくなってしまうこともあります。パブリッシャーの収益を最大限に上げるためには独立した存在であることが重要だと考えています。

ーー日本市場での現状は?

ジェイ・スティーブンス氏 : すでにに契約が完了しているパブリッシャーが10社あり、9月には8社がまとまる予定です。ほかにも話を進めている会社が多数あり、ターゲットはすべてのパブリッシャーだと思っています(笑)。

DSPではFreakOutとKCCSと提携し、統合も完了しています。グローバルではCriteoやMediaMath、Googleなど150社と提携しています。

イタリアでの例ですが、当初、我々のプラットフォームに乗っているパブリッシャーの数は0でした。それが18ヶ月のうちにトップ50サイトのうち28サイトが我々のプラットフォームを利用しています。この数字をみると市場がどれぐらい急速に変わっていくのかがわかると思います。このような変化は日本においても起き得ることです。

日本に関しては、素晴らしいそして魅力のある市場だと考えていますが、商習慣や取引など独特の部分もあり、市場における電通や博報堂の存在は大きなものです。一方で、グローバルではメディアの取引は自動化が進んでおり、効率化が必要だと言われています。テクノロジーを使うことで、日本においても効率のよいそして正確な取引を担保できると思います。

ーープログラマティックな世界においてデジタル広告の効率化を支える仕組みは整ってきましたが、実際の現場においては非効率な運用がまだまだ行われています。なにが課題となっているのでしょうか。

ジェイ・スティーブンス氏 : このような状況はグローバルにおいても同様で、まったく非効率な現実です。重要なことはもっとも効率的な方法を取り入れることで、包括的なオークションの場を作らなければならないでしょう。現状では、アドサーバのプライオリティ設定で純広告が高くなっており、それよりも高単価なビッドがもしあったとしても、入って来られなくなっています。

我々は2つのAPIを提供することで、この課題を解決しようとしています。つまり純広告も、オークションの場に参加することになります。純広告とSSPは対峙するものではなく、プログラマティックで相互補完していく。純広告とSSPが鎬を削っている会社もありますが、競争ではなく補完しないといけないと思います。

ひとつの例ですが、オランダのとあるパブリッシャでは、Webサイトに我々のタグを直接設定しています。パブリッシャーがDSPを抱えており、これは純広告をオークションに引き込むためになります。このようにして、キャンペーンの優先順位を無くし包括的なオークションを行えるようにしています。

ーーこのような課題を解決するには?

ジェイ・スティーブンス氏 : 私もパブリッシャーの立場にいたことがあります。その経験も踏まえ、このような課題を解決するには効率性が鍵になると思います。少額の純広告売上に時間を費やしている……そういったことはどんどん自動化してしまえばいいでしょう。フォーカスすべきは利益が高いところにすべきですが、視点が違っていたために効率的な運用ができていなかったのではないかと思います。

例えば、1000ドル~2000ドル規模の純広告売上があったとして、それに関わるパブリッシャーのコストが1500ドルほどの場合もあります。まったく利益もなく赤字。我々の製品はこのような課題も解決します。

一方で、DSPはエコシステムはどのユーザがどのインプレッションであるかを選ぶことができ、広告主にとってなるべく安価に価値を提供することがひとつの目的となります。SSPは、逆にパブリッシャーのインプレッション価値の最大化するアルゴリズムで動いています。DSPとSSPをひとつのソリューションとして統合するという考え方は受け入れにくいことですが、頭の構造を変えていく必要があるでしょう。