2014年9月はJR東日本とJR西日本に新型通勤電車がデビュー。南武線のE233系と広島地区の227系がお披露目された。初陣といえば、鳥取県の若桜鉄道は新しい公募社長が就任している。一方、日本一短いトンネルの廃線やJR北海道の新型特急計画の取りやめなど、寂しい話題もあった。

南武線を走行するE233系8000番台

南武線のE233系お披露目 - もう「お下がり」とは言わせない!

9月28日、JR東日本は登戸駅で新型車両E233系の展示会を開催した。記念ヘッドマークを掲出し、車内では「懐かしの南武線写真展」を開催。川崎市制90周年記念コーナーや沿線各自治体の物産展、記念グッズも販売され、大いに盛り上がったとのこと。タカラトミーからは南武線カラーの「プラレール」発売もサプライズ発表された。

「新型車両」といっても、E233系はすでに中央線や京浜東北線など、首都圏のJR各路線で活躍中だ。しかし南武線に関しては、新製投入された車両もあるものの、他の路線の「お下がり電車」ばかり回ってくるイメージがいまも根強い。イベントの盛り上がりに、沿線の人々の喜びの大きさを感じた。たしかに身近な路線の新車はうれしいよね。

なお、JR東日本は山手線向けに次世代電車E235系の導入を発表しており、E233系の新車投入は南武線が最後になるかもしれない。南武線の35編成(計210両)の導入が完了すると、E233系はJRグループ全体を通じて最も車両数の多い形式になるという。

JR西日本、広島地区向けの新型電車227系を公開

9月26日、JR西日本は新型電車227系を報道公開した。広島地区を中心に運用する予定だ。広島地区も南武線と同様、「お下がり電車」が多かった地域。沿線の人々にとって、「まっさら」な新車は喜ばしいだろう。

新型車両は銀色の車体に赤いライン。この赤は広島の観光地「厳島神社」や、市民球団として親しまれている「広島東洋カープ」のシンボルカラーでもある。JR西日本は広島地区の従来車両を濃黄色に塗り替えており、鉄道ファンの一部から、「真っ黄色(末期色)」などと揶揄(やゆ)されている。227系の登場はそんな声をはねのけ、大きなイメージアップになるだろう。

ただし、この日は車両工場で公開されたため、沿線の人々の喜びの声はまだ伝わってこない。そして運行開始時期もまだ明らかにされていない。なぜかというと、この電車には従来にない新しい保安システムを搭載しているから。福知山線脱線事故を契機に開発がスタートしたシステムで、営業運転開始までに十分な試運転が行われると思われる。

JR西日本は、JR京都線・JR神戸線などで活躍中の207系のリニューアルも発表している。安全性を向上させ、バリアフリーにも対応するとのこと。JR西日本の安全への取組みが続く。

北陸新幹線の未来へ、フリーゲージトレイン実験開始

JR西日本は9月17日、フリーゲージトレインの開発状況と、10月以降に開始する実験について発表した。フリーゲージトレインは新幹線規格の線路と在来線の線路を直通するため、車両の台車に軌間変換装置を取り付けた車両だ。実用化すると、北陸新幹線から北陸本線・湖西線などへ直通でき、大阪と金沢・富山間の新在直通列車を運行できる。

フリーゲージトレインは九州新幹線長崎ルートの導入を前提に開発、実験が進められており、九州では第3次試験車両が実験走行中。この基礎研究をもとに、北陸新幹線版は寒冷地仕様とし、低温および積雪時の耐久試験を実施する。北陸新幹線では敦賀延伸開業以降に導入予定で、まずは敦賀駅構内に実験線を設置し、当初は模擬台車による軌間変換実験を行う。2016年度から、試験車両による走行実験に移る予定だ。

なお、直近の北陸新幹線金沢延伸開業に向けた動きとして、JR西日本は並行在来線区間の定期乗車券の販売計画を発表している。2015年3月14日に在来線区間が第3セクターに移管されるためだ。すでに9月14日以降、6カ月定期券の販売が終了している。3カ月定期券は12月14日、1カ月定期券は2015年2月14日に販売終了予定。JR西日本は定期券の継続利用者向けに、3カ月定期券あるいは1カ月定期券に3月13日までの日数を加えた定期券を販売している。

JR北海道、新型特急気動車の開発を中止

JR北海道の特急形気動車キハ261系

9月10日、JR北海道は新型特急車両の開発中止を発表した。ハイブリッドシステムと進化した車体傾斜システムを採用し、形式名はキハ285系となる予定だった。北海道新幹線と接続し、函館~札幌間、あるいは札幌から道内主要都市への所要時間短縮などが期待されていた。今後は老朽化車両の置換え用として、現行型キハ261系を追加制作するという。

開発中止の理由は、近年に連続して起きた事故などを受け止めた安全対策と、北海道新幹線新青森開業の準備に経営資源を集中させるためという。キハ285系はどちらにとっても必要な気がするし、JR北海道にとっても断腸の思いだろうと推察する。

なお、同日の社長記者会見で、「デュアル・モード・ビークル(DMV)」の実用化を断念する方針とも報じられた。DMVは鉄道と道路の両方を走行できる車両で、JR北海道が開発し、ローカル線の運行エリア拡大を目的としていた。全国のローカル鉄道が導入実験を実施し、国も支援していた。

国土交通省は、「DMVの導入・普及に向けた検討会」を設置しており、JR北海道の記者会見後の10月8日にも「技術評価委員会」が開催されている。その席では次回以降、「運転保安システムについて評価を行う予定」となっていた。今後は国がJR北海道から技術を引き取るか、あるいは技術資料のとりまとめで終わるか、どちらだろう。

日本一短い鉄道トンネルが廃線に

JR東日本の吾妻線の一部区間が経路を変更するため、9月25~30日にかけてバス代行運転を実施した。かつて「事業仕分け問題」で話題となった八ッ場ダム建設工事の進捗により、10月1日から岩島~長野原草津口間が新ルートになるためだ。事実上、同区間の旧ルートは9月24日の運行が最後になった。

この旧ルートに、「日本一短い鉄道トンネル」があった。全長約7.2mの樽沢トンネルだ。旧ルートのほとんどの区間がダム完成後に水没するけれど、このトンネルは水上になるという。観光名所として活用したいという要望も多いようだ。

樽沢トンネル区間の廃止により、日本一短い鉄道トンネルは呉線の川尻トンネルとなった。全長8.7mで、樽沢トンネルより1.5m長い。

若桜鉄道に新公募社長就任、観光列車スタート

寂しい話題が続いたので、最後は明るい話で締めくくろう。9月1日、鳥取県の第3セクター、若桜鉄道に新社長が就任した。由利高原鉄道のITアドバイザーも務めた山田和昭氏だ。大学時代は鉄道研究会に所属し、IT業界に就職してマーケティング業務を担当。そのノウハウで鉄道営業コンサルタント会社を設立して独立したという経歴だ。公募社長の「先輩」ひたちなか海浜鉄道の吉田千秋氏が開催する勉強会にも参加していたという。

若桜鉄道は観光客誘致に取り組んでいる。蒸気機関車C12形を保有しており、短距離ながらエアーコンプレッサーで若桜駅構内を展示運転する。休日には貨車を改造したトロッコを連結するという。隼駅はスズキのオートバイ「隼」のライダーに人気があり、10月12日に「隼駅まつり」も開催した。

新社長が手がける最初のプロジェクトは観光列車の運行だ。11月3日から来年3月末までの土休日に運行予定。定期列車にガイドが乗車し、観光名所や特産品案内などを実施するという。若桜駅のSL、隼駅のイベントなど「点」の取組みに、観光列車という「線」の取組みが加わる。将来はSL列車につながる夢。新社長の手腕に期待しよう。

 南海電鉄、箱根登山鉄道、東京モノレールも元気!

今月のその他の話題として、南海電鉄のニュースが目立った。特急「ラピート」は今夏、「機動戦士ガンダム」シリーズ新作映画とタイアップした赤い塗装が話題となった。その勢いを保つべく、今度はLCC「Peach」とタイアップした塗装が施された。特急「サザン」は10月から、特撮ドラマ『列車戦隊トッキュウジャー』とのコラボ塗装を実施。10月11日には特急車両12000系「サザン・プレミアム」を泉北高速鉄道で走らせた。

箱根登山鉄道は新型車両3000形をお披露目。東京モノレールは東海道新幹線よりひと足早く開業50周年を迎え、記念の催しも開催した。JR九州が一部特急列車の車内販売を終了し、「SLニセコ号」のラストランを予感させるなど寂しい話題もあったけれど、曇り空をぬぐい去るような話題も多かった。秋晴れの10月につながっていく。