日本科学未来館(未来館)では10月1日より、本田技研工業(ホンダ)製の座乗型パーソナルモビリティ「UNI-CUBβ」(画像1)の来館者向け有料レンタルサービスを開始した(画像2)。その模様をお伝えすると同時に、実際にUNI-CUBβに乗ってレンタルサービスによる未来館体験ツアーに参加してみたので、その模様をお届けする。また、UNI-CUBシリーズの生みの親のひとりである本田技術研究所 スマートモビリティ開発室の小橋慎一郎主任研究員にも話を伺うことができたので、それも併せてお届けしたい。

画像1(左):UNI-CUBβ。UNI-CUBよりも小型化したことで、条件の身長が緩和され、145cm以上となった。画像2(右):体験ツアーでの移動中の様子。メインエントランスを背にして、未来館の1階をエレベーターに向かって進んでいくところ

さて、これまで何回かUNI-CUBシリーズに関する記事は弊誌でお伝えしており、UNI-CUBβについても既報の通りだ。一応、簡単におさらいしておくと、UNI-CUBβは、2009年発表の「U3-X」に始まるホンダの1輪車型パーソナルモビリティの最新機種で、2013年11月に発表された。もちろん、ASIMOなどのロボット開発で培われたバランス技術などが応用されている「ホンダ ロボティクス」に属する1台である。

なお、UNI-CUBのことを初代、UNI-CUBβを2代目、とする見方もされてきたのだが、ホンダとしては、UNI-CUBをリプレースするのがUNI-CUBβではなく、同じUNI-CUBシリーズというモデルの中のタイプの異なる派生型というのが正しいそうだ。車に例えるなら、同じ車種のノーマルモデルとスポーティモデルというような違いといえばいいだろうか。ホンダ車でいえば、例えば「フリード」と「フリードスパイク」のような関係である。未来館でUNI-CUBからUNI-CUBβに置き換わったので、旧型モデルと新型モデルに見えてしまうのだが、UNI-CUBが旧型モデルというわけではないのである。

パーソナルモビリティは大別して、座って乗る「座乗型」と、立って乗る「立乗型」(画像3・4)の2タイプに分かれ、座乗型にはさらに(筆者個人の考える分類だが)バックシート(背もたれ)があってボディが搭乗者の左右や上方を囲む比較的大きめの「コックピット型」(画像5)、さらにはボディ内に乗り込む形のパーソナルモビリティとしてはかなり大型になる「車両型」(画像6)、バイクのようなハンドルを前傾姿勢で握って操作する「バイク(ライディング)型」(画像7)、電動車いすを発展させたタイプの「車いす型」(画像8)などがあるが、U3-Xを含むUNI-CUBシリーズは他に類を見ないタイプで、腰掛けて座り、ハンドルやジョイスティックなどの手でつかむ操縦装置がない「腰掛け型」である点が大きな特徴だ。

画像3(左):元祖パーソナルモビリティにして、立乗型の代表ともいるセグウェイ。かなり大型で、屋内での使用ももちろん可能だが、どちらかというと屋外向きで、車輪径が大きいのでオフロードに関しては独壇場に近い。画像4(中):トヨタ自動車の立乗型のWinglet。車輪径が小さいので、屋内、もしくは起伏のない街路などが対象。未来館のような屋内で乗り様にも向いているはず。画像5(右):トヨタのコックピット型「i-REAL Kei」。i-REALシリーズの警備用途型で、セントレア(中部)空港で実際に利用されていた

画像6(左):車両型のトヨタ「i-ROAD」。「i」シリーズの最新モデルとして、2013年のジュネーブ国際モーターショーで初めて出展された。パーソナルモビリティというよりは、シティコミューター(次世代都市交通)を狙った小型EVで、2人乗り。前2輪後1輪のリバーストライク型だ。画像7(中):バイク型のテムザック「ロデム」。形状というよりも、乗り方が前傾姿勢でバイク風なので、どちらかというとライディング型という方が合っているかも知れない。画像8(右):車いす型の産業技術総合研究所「Marcus」。電動車いすにGPSやレーザーレンジファインダなどを搭載し、周辺環境の認識やナビゲーションを行う

日本科学未来館では2012年5月の「UNI-CUB」(画像9・10)の発表会に始まり、翌6月からは館内での科学コミュニケーターが利用する形での共同実証実験がスタート。さらに、その共同実証実験の1つとして、抽選で選ばれた未来館友の会の会員が参加した館内ツアーイベントなども行われ(画像11)、その様子もレポートさせてもらった通り(この時に筆者もUNI-CUBに搭乗させてもらった)。

画像9(左):UNI-CUBを正面から。画像10(中):UNI-CUBの側面。画像11(右):2013年に行われたUNI-CUBを用いた館内ツアーの様子。5階から3階へオーバルブリッジを下っている最中

こうして乗り心地や使い勝手などの情報が、小橋氏ら開発チームへのフィードバックされ続け、それを基にハードウェアを一新したのがUNI-CUBβだ(前述したように、UNI-CUBとUNI-CUBβは旧型モデルと新型モデルの関係ではなく、UNI-CUBがノーマルモデルなら、UNI-CUBβは低年齢対応モデルといった感じ)、未来館では2014年4月にUNI-CUBと交代し、現在も共同実証実験が続けられている。そしてUNI-CUBβの実験開始から半年が経ち、一般の来館者が利用しても問題ない安定感などを得られたこと、未来館側の準備が整ったことなどから、今回の商用サービスがスタートしたというわけだ。

さて、これまでもUNI-CUBシリーズは未来館での館内ツアーや、東京モーターショーなどでの体験試乗など、一般向けの試乗が行われたりしてきたわけで、今さら商用サービスがスタートしたところで、それのどこにニュースバリューがあるのか? と疑問に思う方もいることだろう。

しかし、少し考えてほしい。これまでは、搭乗条件を満たした人で、さらに運のいい人、例えば、未来館友の会の会員中で、さらにツアーに申し込んで当選した人という具合で、ごく一部の人しか試乗できなかったのである。東京モーターショーでの試乗も、希望者に対して用意されている台数が限られていたため、乗りたい人全員が乗れたわけではない。あくまでも、これまでは「運がよければ乗れる」だったのだ。

それが今回は、ついにビジネスとして有料のレンタルサービスとしてスタートしたのである。つまり、定員に空きがありさえすれば、あとは料金の700円を払いさえすれば、身長・体重などの条件を満たした来館者なら誰でも乗れるのだ(体験ツアーは入館料の必要はない)。ホンダのパーソナルモビリティ事業、広く見れば同社のロボット事業としては初めての一般向けサービスであるし、屋内施設でのパーソナルモビリティのサービスという面で見ても、おそらくは日本初のサービスであり、これは実に大きなトピックなのである。

もちろん、いくらパーソナルモビリティ後進国の日本とはいっても、一般道以外でなら一般向けのパーソナルモビリティのサービスがないわけではない(例えば、埼玉県の国営武蔵丘陵森林公園では8000円(+入園料400円)で、セグウェイによる約7kmの園内ツアーが実施されている)。

しかし屋内施設では今のところ、セントレア空港でトヨタのi-REALシリーズを警備(i-REAL Kei:画像5)や案内(「i-REAL Ann」:画像12)に導入していた(現在はすでに終了)という具合に業務用途のみで、一般向けで利用されてはいない。パーソナルモビリティを普及させるためのビジネスモデルは現在のところ模索中で、道交法の縛りもあって日本ではなかなか難しいとされているが、そうした中で今回の未来館における一般向けの有料レンタルサービスは、今後を占う上で非常に重要なサービスなのである。

画像12。i-REALの案内用途型、i-REAL Ann