あの時代の空気までも詰め込んだ、香港を回憶する緻密でリアルすぎる「香港ミニチュア展」が、10月23日まで池袋サンシャインシティ(東京都豊島区)で開催されている。香港で活躍するミニチュア作家14人の計39点の中には、この展示のために作られたものもあるとか。その見どころを作家たちに聞いてみることにした。

バス模型の設計士である陳鴻輝氏が作り上げた「回憶徙置區(再定住団地の思い出)」。バスや住宅はもちろん、道端のゴミまで忠実に再現

1960~70年代の香港が蘇る

今年の3月には、東京に先駆けて大阪で日本初の「香港ミニチュア展」が開催され、3万人以上の来場を記録。今回の東京展示では、1/12サイズ~1/76サイズというスケールのミニチュアがそろえられている。テーマは祭りから田舎の台所、映画の舞台、住宅街、市場など、さまざまな香港の姿をミニチュアから垣間見ることができるのだが、ここで初めて香港に触れる人でもきっと"懐かしさ"を見いだすことになるだろう。

それもそのはず。作品の多くは1960~70年代の香港の日常を描いており、今ではその姿を見ることができないものも多い。例えば「郷郊路上(田舎の風景)」では、今の香港にはないディーゼル車が走り、伝統的な服装をした村の娘に畑を耕し鴨の世話をする農民の姿など、1960年代の香港新界の村人たちの様子が生き生きと表現されている。

「郷郊路上(田舎の風景)」には今はなきディーゼル車の姿も

特に注目したいのが、バス模型の設計士である陳鴻輝氏が作り上げた「回憶徙置區(再定住団地の思い出)」。会場には3つの作品がつなぎ合わされており、全てを完成させるのに8年かかったという。一つひとつが陳氏の手仕事で、路上のゴミまで忠実に再現。「コストはそんなにかかっていないんですが、当時の生活を知らない人にも古き良き香港の様子を伝えたいと思い、ひとりで作り上げるのは大変でした」と語ってくれた。

陳鴻輝氏が「回憶徙置區(再定住団地の思い出)」に込めた想いを語る。貧しい市民のために建てられた再定住団地の周りには、駄菓子屋や安価な衣服を売る屋台などがあり、当時の住民の生活の様子が見てとれる

素材からリアルさを追求

ここまでリアルに見せるためのポイントとして、ミニチュアの素材の多様さも上げられる。例えば、レスリー・チャン主演の映画「覇王別姫」からインスピレーションを受けた舞台ミニチュア「覇王別姫(覇王項羽、王妃との別れの舞台)」では、実際の家具と同じ天然木をミニチュアの素材に使用。また、「大坑舞火龍(大坑村の火龍の舞い)」の目玉である巨大な火の龍は、実物の火の龍と同じ素材を用いるのみならず、0.5mmの光ファイバーで火龍の胴体の線香を模し、ランプが光るとしっぽが揺れる細工がされている。

「覇王別姫(覇王項羽、王妃との別れの舞台)」。劇場の床にはスナックとして食べた瓜の種の殻がよく残されていることから、ミニチュアでも瓜の種の殻を削って床に散らしている

100人の男性ミニチュアが龍を抱える「大坑舞火龍(大坑村の火龍の舞い)」は光って動く

さらに、1960年代を描いた「香港氷室(伝統的な香港式アイス・カフェ)」では、当時放映されていた番組を動画にしてミニチュアに組み込んでいる。ほかにも、漢方店では漢方を、楽器のミニチュアには楽器と同じ素材を、竹で作られた舞台は竹を用いるなど、そのシーン・その時代に合った素材を用いているのだ。

「時計屋を作るのに、結局、500個の時計ミニチュアを作ることになった」などと、その作業の緻密さにびっくりさせられてしまう。こうしたミニチュアは香港から飛行機で日本に運ぶ際にもいろいろと苦労が絶えなかったようで、中には手荷物として機内持ち込みしたものもあったそうだ。

同展を主催する香港特別行政区政府 駐東京経済貿易代表部は、「香港は日本とも近く、経済的にも密接につながっています。香港の文化や歴史、風土、空気を幅広い年齢層の方にもっと近くに感じてもらえたら」という想いをこの展示に込めているという。

このチャンスを逃せば2度と見られない可能性もあるミニチュアたちは、誰でも無料で見ることができる。期間は10月13日~23日の10時~20時、会場は池袋サンシャインシティ地下1階の噴水広場。東京に広がるノスタルジックな香港をぜひのぞき見してみよう!