9月29日の放送をもって、さまざまな話題を振りまいた『テラスハウス』(フジテレビ系)が終了。これによって「憧れる」「応援したい」の肯定派、「バカバカしい」「ヤラセだ」の否定派に分かれてネット上で繰り広げられた舌戦も、幕を閉じることになった。

振り返ってみると、『テラスハウス』のフィーバーは凄まじかった。昨年の「YAHOO!検索ワードランキング・テレビ番組部門」で『あまちゃん』『半沢直樹』に次ぐ3位を記録したほか、今井華や筧美和子などの出演者が続々ブレイク。

さらに、スペシャル動画が1億再生突破、番組Facebookページでは約15万「いいね!」、ムック本は7万部、CDは15万枚などのヒットを連発。Twitterなどのネットでも、「感動した」「うらやましい!」などの熱狂的な書き込みが見られ、10~20代を中心にファンを楽しませてきた。

しかし、かつて同じ月曜23時から放送された『あいのり』は約10年続いたのに、『テラスハウス』はわずか2年で事実上の打ち切り……予想以上の早い撤退にはどんな理由があったのか? 週刊誌に報道されたやらせ疑惑ではなく、"リアリティショー"の抱える問題点がネックになった気がするのだ。

そもそもリアリティショーって何?

最終回では涙を流した"てっちゃん"こと菅谷哲也

"リアリティショー"とは、無名の出演者たちをある設定に投じ、その反応を見て楽しむドキュメンタリーに準じたコンテンツ。現場には台本がなく、彼らを隠しカメラやハンディカメラで追いかけることで自然な様子を映し、視聴者に臨場感を味わってもらおうというものだ。

『テラスハウス』のようなシェアハウスが舞台のものもあれば、『あいのり』のように旅を追いかけるもの、日本を含め世界中で放送された『サバイバー』のように無人島でサバイバル生活を送るもの、あるいは、オーディションの様子を追いかけた『ASAYAN』も、その1つに含まれる。

見どころとなるのは、出演者の生々しい葛藤と人間関係。恋愛、友情、対立、裏切り、別れ、絶望。感情をむき出しにしたり、苦しさや悔しさをじっと耐えたり、そこから何かをつかみ取る姿などを楽しむものなのだが、これらの扱い方が『テラスハウス』に批判を集め、終了させる大きな原因となった。

「対立や裏切り」のない消化不良

ではなぜ『テラスハウス』は、否定的な人が多かったのか? その答えはリアリティショーにはあるまじき、「リアリティがほとんど感じられないから」だろう。家、服、会話、海、仕事風景など、映像にはキレイなものしか映さず、恋愛も友情も仕事への姿勢ですら感情表現は乏しく、どこか軽さを感じるシーンが多かった。つまり、リアリティショーに不可欠な人間くささがなく、なかでも最大の見どころである「対立や裏切り」は全くなかったのだ。

現実の厳しさを隠し、「オレたち、ワタシたち、カッコイイでしょ」の映像ばかりなのだから、マジメに働く社会人が素直にハマれるものではない。必然的に「ありえない!」とツッコミながら見るコントのような形になる。出演者に憧れを抱き、ワクワクしながら見ていたのは、学生やタレント志望者がほとんどだったのではないか。

やらせの有無以前に問題なのは、「キレイなものしか見せない」演出スタンスだったのだが、これは制作サイドにしてみれば「ある程度の批判は織り込み済み」だろう。しかし、そのような演出スタンスを選んだ理由の中にも、番組終了の引き金があった。なかでも最大のものは、出演者のプライバシーに対する配慮だ。

容赦ないバッシングと警備予算

ネットの普及で、視聴者のシビアな反応がすぐ発信される時代になった。SNSやニュースのコメント欄では批判の声も多く、なかには「攻撃する前提で見る」「ほとんど見ていない」人からの理不尽なクレームも目立つ。このような環境下で、本来リアリティショーでよく見られる「人を蹴落とす」「本気のケンカ」見せたら、アッという間に安心して生活できないほどのバッシングを受けてしまうだろう。

制作サイドは、そうした状況から出演者を守らなければいけないのだが、狭い日本で撮影する以上、プライバシーの保護は難しい。実際フジテレビの亀山千広社長は、「人気が出るほど彼らのプライベートがなくなり、警備費用もバカにならない」とコメントしていた。それならば無人島や海外で長期撮影するしかないが、予算的に難しいだろう。

また、録画機器やオンデマンドの発達で、「リアルタイム視聴そのものが減っている」という事実も無視できない。リアリティショーは、リアルタイムで見てこそ楽しめるコンテンツ。「時間の経過がズレると、素直に感情移入できない」という側面がある。「よほど見逃せない番組でない限り、録画してまで見る」人は少ないジャンルだけに、今後も苦戦必至なのだ。

一般人が「テレビに出たがらない」

今後リアリティショーは、どんな方向へ向かっていくのだろうか。「キレイなところしか見せない」「出演者を守る」というスタッフなりの配慮を入れた『テラスハウス』ですら続かなかったとなると、見通しは厳しいと言わざるを得ない。「面白い」「面白くない」の問題ではなく、制作サイドがわざわざお金をかけ、リスクを冒してまで制作する理由がないからだ。

制作サイドの事情がある一方で、「テレビに出たい」という一般人も減っている。かつては、カメラを向けると、喜んで前に出る人ばかりだったが、最近は「やめてください」と顔を隠されてしまう時代。「出たがりのタレント志望者しか出演者がいない」という現実がある。

ただ、そうは言ってもリアリティショーに需要があるのは事実。特に恋愛系の過去を振り返ってみると、『ねるとん紅鯨団』『未来日記』『あいのり』『今夜はシャンパリーノ』らの人気番組があり、最近でも『恋んトス』など形を変えながら続いてきた。また、『ナイナイのお見合い大作戦』のように"コンセプトが極めてガチなもの"は好意的に受け止められている。現在は特番放送のみになったが、ここに何らかのヒントがあるのかもしれない。

リアリティショーを取り巻く環境は厳しくなる一方だが、それでも一般人の喜怒哀楽が見られる番組はやはり面白い。それだけに、ここで挙げた問題点をうまくすり抜ける番組が現れたら、大ヒットするのではないか。

■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ評論家、タレントインタビュアー。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴する重度のウォッチャー。雑誌やウェブにコラムを提供するほか、取材歴1000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書は『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。