というわけでそのPatinだが、自律行動するAIを搭載したプラットフォーム型の移動ロボットである。上部にさまざまなサービスユニット(アプリケーション)を接続することができ、このサービスユニットを変更することで、さまざまな用途や機能を実現できるというわけだ。

ちなみにPatinとはフランス語で「スケート」という意味になる。松井氏は、ロボットの魅力の1つが「移動する機能」と唱えており(もちろん移動しないロボットも多数あるのだが)、家電や家具などの既存プロダクトにスケート靴的に移動ロボットを履かせたら、これまでにない新しいプロダクトが生まれるのではないかという発想からPatinは誕生したという(画像6)。「既存機能の自律移動化」がコンセプトの家庭内用サービスロボットなのである。

画像6。さまざまな家電+スケートという発想からPatinは誕生

Patinの構成は、本体とサービスユニット、充電や通信用のユニットである「ピット」(本体とはWi-Fiで接続し、ここからインターネットに接続、クラウドとデータ連係する)、そしてクラウドという具合だ(画像7)。サイズは、家庭の中で使用するのにどの程度のサイズがいいのかを調べているところもであるので、製品版では変わる可能性があるそうだが、プロトタイプは全長340mm×全幅330mm×全高193mmとなっている(画像8)。ルンバの直径と同程度だ。上部にサービスユニットを接続するため、いうまでもないが重心の低い安定した形状だ。外装は硝子入りナイロン(粉末造形)となっている。

また家庭内で使用することから小回りできることを重視して、車輪にはオムニホイールが採用されており(画像9)、前進後退、左右への平行移動および旋回、信地旋回(その場での旋回)なども自在だ。また2cm程度の段差を乗り越えられるという。畳の縁などがあったり、畳自体がうねっていたりすることもある和室での使用もOKというわけである。

画像7(左):Patinの構成。本体とサービスユニットとピットに加え、クラウド上の情報も利用する。画像8(中):Patin本体と人との対比。画像9(右):プロトタイプの内部機構

モータはDCモータ(プロトタイプはマクソン製を採用)で、プロトタイプでは4~5kgのサービスユニットを搭載しても動作可能だ。Patin本体内部は3層構造になっていて、モータは最下層にある。バッテリはリチウムイオン電池だ。メインCPUボードは画像処理に長けていること、消費電力が少ないといったことからNVIDIA製「Jetson TK1」(画像10)で、制御用ボードにはワンボードマイコンの「Arduino」が採用されている。ちなみに、Jetson TK1をロボットに採用するのは世界で初めてだろうという。

プロトタイプに搭載されているセンサ類は、深度カメラはASUS製「Xtion PRO LIVE」、熱画像カメラはパナソニック製「Grid-eye」、単眼カメラはLeopard Imaging製「LI-OV5640-USB-72」、落下防止センサはシャープ製「GP2Y0D210ZOF」、障害物検出用センサはシャープ製「GP2Y0A21YK0F」、接触センサはパナソニック製「AZ3512」などで構成(画像11)。製品版は量産を考慮して、この組み合わせではなくなる可能性が高いという(価格を下げるため、数を減らしたり性能を落としたりといったことが考えられる)。そのほかにはWi-FiとUSBコネクタ、スピーカー、などを装備。Wi-Fiはピットとの通信に利用される。

画像10(左):Jetson TK1。NVIDIAの公式サイトより抜粋。画像11(右):センサなどの配置を示したCG

外見のデザインのコンセプトとしては、さまざまな場面での違和感のないプラットフォームとしての在り方などが考慮されており、機能と使用環境との親和性が配慮されているという。オムニホイールで信地旋回できることから、上方から見ると円形に見えるようデザインされた、円形と車輪の配置が合わさった構造体となっている(画像12)。Patinはシステムとして本体+サービスユニット、ピット、クラウドが円環をなしてつながって循環していることから、本体の円形のデザインはそれも表しているそうである(画像13~16)。

画像12(左):内部図面CG。画像13(右):後方上部から見たところ。円形の感じがわかる

画像14(左):Patinの高さで正面から。画像15(中):同側面から。画像16(右):同後方から

Patinの上部にさまざまなサービスユニットを接続できることは説明した通りだが、どのようなイメージかというと、例えばユーザーが読書をしようとしていたらその生活行動を理解して照明ユニットを載せているPatinなら近寄ってきて点灯して明るくしてくれるというものが紹介された(画像17・18)。さらに、植栽(鉢植え)のユニットを載せているPatinなら日中は窓際などに移動して植物に日が当たるようにしてくれたりするという使い方もある(画像18)。要は、「考える照明」や「考える植栽」が誕生するというわけだ。

画像17(左):照明ユニットを接続したイメージ。画像18(右):植栽ユニットを接続したイメージ

そのほかにも、ユーザー自身が近づくのではなく、さまざまな機器の方からユーザーに近寄ってきてくれるということで考えれば、夏場の扇風機、テレビやスピーカーなどのオーディオビジュアル機器、独居老人の見守り用機器など、色々なものが挙げられる。要はスケートとしてPatinを履かせることで、家電やオーディオビジュアル機器、PCなどがペットのように自分に近寄ってきてくれるようになるというわけだ。