ドラマ『HERO』(フジテレビ系毎週月曜21:00~)第9話では城西支部のチームワークと笑いが際立っていたが、第10話は一転してシリアスな展開。久利生(木村拓哉)と麻木(北川景子)は、特捜部で国交大臣と建設会社の贈収賄事件を、田村(杉本哲太)と遠藤(八嶋智人)は、通り魔事件を調べていた。それらの事件が城西支部の未来を左右する決断につながっていく。

江上と特捜部は"前振り"に過ぎなかった

ドラマ『HERO』でヒロインを務める北川景子

今回、最も目立っていたのは、特捜部の押坂副部長(手塚とおる)。『半沢直樹』でも話題になった右の口角だけが上がる"小物ヒール顔"は健在で、久利生に「そんなどうでもいいことで捜査止める気か? お前何年検事やってんだ! 若造じゃあるまいし、特捜の経験がなくてもそのぐらいのこと分かるだろ!!」、麻木に「事務官のクセにえらそうなことを言うな! お前みたいな小娘に捜査の何が分かるんだ!!」と上から目線で毒を吐きまり、二人をクビにした。

一方、もう1人の主役……であるはずだった江上(勝村政信)は、あっけなく胃潰瘍で入院。プライドが高く、器が小さいキャラは相変わらずだったが、ほぼ見せ場はなし。あれだけ雨宮(松たか子)を追いかけていたから、今度は麻木にホレたりして、と思っていたら、「久利生が来る前、麻木は江上の事務官だった」という程度の絡みに過ぎず肩すかし。

この2人をフェイクにした理由は、今回の事件がシリーズ初の"大ピンチ"であり、"2話またぎ"だから。そして、より重大なのは、田村と遠藤が担当している通り魔事件であり、久利生と麻木が特捜部をクビになったことなど、単なる前振りや伏線に過ぎなかったのだ。

自らえん罪を暴けば、検察内部やマスコミからの大バッシングは間違いない。それどころか職を失う可能性もある。しかし、それでも城西支部のメンバーは、川尻部長の「起訴しよう。とことん真実を追い求めるのがわれわれの仕事だ」という号令のもと前へ進んでいく。

秀逸だったのは、その決断と団結に至る流れ。ひと晩考えたあげく、翌朝出勤したメンバーたちがいつものフリースペースへ集まるのだが、事情を知らない久利生と麻木が最後に入ってくるまでの2分間、セリフが一切なかった。ここはふだん軽口を叩き合い、食事を楽しむ憩いのスペースなのに、あいさつすら交わしていない。セリフが飛び交い、カット割が細かい『HERO』では珍しい静かな長回しのシーンで、最終回への期待感を大いにあおられた。

元ヤン・麻木は「恋愛ベタ」確定

もう1つの見どころは、久利生に対する麻木の思い。いつになくストレートな言葉と表情で、素直な気持ちを伝えていた。

初の特捜部応援に「ありがとうございます。頑張ります!」とテンションが上がる麻木。前髪を留め、おでこ全開の顔で乗り込むなど、明らかに気合が入っていた。しかしその理由は、「特捜部に呼ばれたとき、久利生さん、私が張り切ってるって笑ってましたけど、あれ、違うんです。私がワクワクしていたのは、久利生さんが特捜部で活躍するところを想像してたから。久利生さんなら特捜部でもすっごくいい仕事して、絶対認められるんだろうなって」という思いから。つまり、「活躍しているところを見たい」「認められて欲しい」という気持ちが爆発していたのだ。

だからこそ特捜部をクビになった久利生に、「私があんな生意気なこと言わなきゃ……ごめんなさい」と涙ぐんでいたのだろう。ただ、元ヤンの麻木はここからが違う。久利生が「謝んなくていいって。麻木」とフォローしようとすると、「ほっといて」とまさかの拒絶。自分に嫌気が差したのか、久利生を遠ざけてしまった。日ごろ"一人飯"の麻木が、「せっかくのチャンスを自ら逃してしまう」恋愛ベタなのは間違いない。

さらに夜の仕事中、2人の接近シーンがあった。ついウトウトしてしまった麻木が、「寝てません。大丈夫です。納得がいくまでこだわりたいんでしょ。私もつき合います。久利生検事の事務官ですから」と言ったとき、久利生が麻木のアゴを持ち、引き寄せてキス……と思いきや、顔についていた映画館の半券を取っただけ。かつて仕事を優先して雨宮をさんざん待たせた久利生の思わせぶりな態度は全く変わっていなかった。

ただ、アゴをつかまれても、なすがままの状態だった麻木は、そういう気持ちがあるからなのか……。それにしても、久利生にわざわざ「あっちー」と言わせて上着を脱がせ、白タンクトップのちょいエロ感を出した演出はあざとかった。

麻木は第4話で暴漢に襲われそうになったとき、久利生の後ろから抱きついていただけに、進展に期待した人も多かっただろうが、最終回での進展はあるのか。それとも、噂される映画版や続編への持ち越しなのか。雨宮絡みの展開も含め、もったいぶっているのは確かだ。

メンバーの名言、通販、「あるよ」は?

今回も最後に、"メンバーの名言"と"通販グッズ&「あるよ」"をおさらいしておこう。

名言は久利生の2つ。1つ目は、特捜部の押坂副部長に放った「こいつ(麻木)の言う通りでしょ。さっき『どうでもいいこと』っておっしゃいましたけど、そんなどうでもいいことで止まっちゃうような捜査は最初から無理があるんじゃないですか? この映像見つかっちゃったんだから、桂川さんが無関係なのは明らかですよね。なのに『調書にサインさせろ』って言うんだったら、それ、法を犯すことになりますよね。特捜ってそういうこと平気でやるんですか?」。2つ目は、「『嫌われたらマズイんだろうな』とか、『周りの人とうまくやらなきゃな』というのはオレん中でも一応ありますよ。でも事件に関わっている人にしてみたらそういうの全然関係なくないですか。事件の当事者は人生かかってるんですよ。下手したら命かかってるし。ウソつけないでしょ、オレたち検察なんだから。やっぱ事件には真正面に向き合っていかないとダメでしょ」。

通販グッズは、前回に続いてまさかの「なし」。一方、マスター(田中要次)の「あるよ」は胃の調子が悪い江上に出した白湯。さらに、気づかった麻木から「胃薬あります?」と言われて探し出すと、江上から「何探しちゃってるんだよ、ゴリラ! イタタタ……ゴリラ、ください」と言われるアドリブもあった。また、遠藤から「田村検事がお出かけ捜査なんて『前はこんなこと絶対なかったな』と思って」と言われた田村が「あるよ」と返すシーンも。


注目の視聴率は、22.3%と前話から2.1%アップし、最終回はさらなる盛り上がりが予想される。10話のラストは、警備員の「みなさん、今日も一日よろしくお願いします」に、久利生が「よろしく」のひと言で締めくくるというシーンだった。いつもの「よろしこ」ではなかったのは、厳しい勝負に挑む覚悟の表れか。そして、シリーズ初の法廷シーンはどんなものになのか。今から月曜が待ち遠しい。

■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ評論家、タレントインタビュアー。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴する重度のウォッチャー。雑誌やウェブにコラムを提供するほか、取材歴1000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書は『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。