14歳の時に原宿でスカウトされたことがきっかけで、芸能界に足を踏み入れた市川由衣。グラビアアイドルとして人気を博し、一時は歌手としても活動するなど順調に活躍の場を広げていった。すべては"女優"になるため。2001年にドラマ『渋谷系女子プロレス』で女優デビューし、2003年には『呪怨』で映画初出演。その後も数々の作品に出演し、市川の女優人生は順風満帆かに見えた。しかし、ふとあることに気づく。「同じような役に偏っている」

8年ぶりの単独主演作となる映画『海を感じる時』(9月13日公開)は、自身を覆った"市川由衣"というイメージを打破するには打って付けの作品だった。少女・恵美子(市川由衣)が一人の男性・洋(池松壮亮)と出会い、大人の女性へと目覚めていく姿を描いた物語。ところが、多感な少女期の性体験が描かれる作品のため、過激な濡れ場は必要不可欠だった。この難役に躊躇しながらも、市川は姉の一言で挑戦する決意をする。女優として生きていくことの不安と葛藤。そして、仕事との向き合い方を変えたマネージャーの存在。"女優・市川由衣"の転機とこれからを探った。

映画『海を感じる時』で主演を務めた市川由衣 撮影:大塚素久(SYASYA)

――相手役の池松壮亮さんは「よくこの役を受けたな」と驚かれていましたが、やはり決断までに時間がかかったのでしょうか。

そうですね。お話をいただいてから決めるまでは…1カ月ぐらいかかりました。脚本を読んですごく面白いと思いましたし、恵美子という役に惹かれましたし…。たぶん、その時点でやりたいと思っているんですけど。やっぱり、肌を露出することもそうですけど、恵美子を演じている間に自分が病んでしまうんじゃないかと思って(笑)。精神的に身を削ってやる役という印象があったので、そこで闘う覚悟はあるのかと自問自答していたら…1カ月経っていました(笑)。

――今までさまざまな作品に出演されていますが、ここまで悩むことはありましたか。

初めてですね。そうやって、自分が「やる」「やらない」の選択を求められるのも、今まではそんなにありませんでした。だからこそ、「やる」ことの責任の重さをより感じます。

――どなたかに相談は?

お姉ちゃんにだけは相談しました。恵美子の役柄、肌を露出しないと成立しない作品であることを説明したら「やればいいじゃん。役者だし」って言われて。結構あっさりでした(笑)。そうやって相談したのは姉だけ。3つ離れた姉なんですけど、仕事以外でも何かに迷った時はよく相談しています。大人になってからの方が何でも話せるようになりました。

――お姉さんは作品をご覧になったのでしょうか。

完成披露に呼んだんですが、2時間ぐらい電話で感想を言われました(笑)。すごく好きだったみたいです。姉は恵美子の気持ちも分かるし、洋(池松壮亮)の気持ちも分かるし、お母さんの気持ちも分かると。そういう話を聞くと、この映画はお姉ちゃんにとって、いい映画だったんだなと感じました。良くも悪くも、そうやって話せる映画って良い映画ですよね。自分の過去にあったことを思い出したりだとか。相談した相手だったから一番最初に観てほしかったですし、何よりもそういう反応だったことがうれしかったですね。

――今まで出演作でそれだけ語り合うことはありましたか。

なかったですね。初めてです。こんなに熱く語る、姉(笑)。もちろん、私の覚悟とか、そういう悩んでいたことを知っているから、その分いろいろ感じることもあったと思いますけれども。1人でもこの作品に救われたとか、つらい時にこの映画を観るとか。そうやって、人と寄り添える作品に出たいと常に考えています。そう思うようになったのは…デビューした時からかもしれません。「人を励ませる役者」になりたいとよく口にしていました。

当時のマネージャーに勧められてグラビアをはじめたんですけど、女優さんになるためのステップだと思っていました。実際、グラビアを機にいろいろなお仕事をいただくようになりましたので、それはそれで大切なことでしたし、楽しくやらせていただきました。一時期は歌手もやらせていただきましたが、事務所の方の「歌をやらせたい」という意向もあって、それも女優になるための経験として考えていました。

――今が一番充実してそうですね。

一番自分がやりたかったことを、少しずつやらせていただいているという感じです。今までドラマや映画、いろいろな作品に出させていただいて、どうしても自分が同じような役に偏っている気がしたんです。私のイメージに近い役というか。そこは変えたいと思っていました。去年はタイミングがよくて、舞台や映画などいろいろな作品に出させていただくチャンスが増えて。その中で、この作品にもすごくいいタイミングで出会うことができました。安藤監督の作品もすごく好きで、今まで演じたことがないような役だったので。

――こういうタイミングを待っていたわけですね。

そうですね。私としては縁を感じました。20代後半になってきて、今後どういう風に自分がなっていきたいかとか、ふと考えた時に…思い浮かんだのは「役の幅を広げていきたい」でした。でも、それをただ思っているだけでは意味がないので、自分から飛び込まないといけないなと。最近公開された『TOKYO TRIBE』もそうですけど、去年はオーディションにもあらためて挑戦しました。