米Tabulaは米国時間の9月10日、同社の「ABAX2デバイス」を用いた100Gソリューションを発表すると共に、新たにIntelのSilicon Photonicsグループとの協業を発表した。これに先駆け、同社は8月27日に都内で事前説明会を開催し、これに関する詳細の説明を行ったので、この内容をお届けしたいと思う。

Tabulaは2012年2月にIntelの22nmプロセスを利用したABAX2の製造を表明し2013年3月にはリファレンス・デザイン・スイートを発表したが、ここで発表されたリファレンス・デザイン・スイートの現物がやっと出てきたことになる。

Photo01:説明はおなじみAlain Bismuth氏

さて、簡単にプレゼンテーションに沿って説明すると、今回発表された1つ目は、Pre-Engineered Solutionである(Photo02)。Pre-Engineering Solutionとは要するに製品のリファレンスデザイン+αで、基本的な機能はすべて搭載されているので、このままでも製品化は可能なレベルに仕上がっている。ただ当然そのままだと差別化要因が無いので、あとは顧客が差別化に繋がる機能をそれぞれが盛り込む形だ。

Photo02:前回の説明会では具体的なリファレンスボードはまだ存在しなかったが、今回は現物が出てきた

今回用意されたソリューションは3種類で、100GbpsのEthernet Bridge、40Gbpsの検索アクセラレータ、それと100GbpsのSwitchである(Photo03)。それぞれのソリューションであるが、まずBridgeは10Gbps×12ポートを100Gbpsにするブリッジ(Photo04)で、リソース利用率は20%前後とされており、これも以前のStylusでの評価結果とほぼ一致している。プラットフォームとしては、ABAX2P1開発ボードをそのまま使うことになるようだ(Photo05)。

Photo03:左下が開発キットのパッケージである

Photo04:構成そのものは以前と変わっていない

Photo05:実機ではABAX2にファンが搭載されていた。さすがにヒートシンクなしは無理っぽい

2つ目のリファレンスは、「RegEx Accelerator」である。これはtitan ic systemsとの共同開発の模様で、同社の持つ正規表現をサポートした「RXP」という検索エンジンのIPを実装したものになる(Photo06)。これはtitan ic systemsのIPを実装する形になるためか、FPGAではなく「ASAP(Application Specific Accelerator Processor)」と称されている。同社の説明によれば、これはARM/MIPSなどをベースとしたネットワークプロセッサにInterlakenで接続され、ここでパケットのコンテクスト解析などの高度なフィルタリング処理を行う事を前提としており、ここにさらにユーザーの回路などを追加することは(不可能ではないのだろうが)あまり考慮していないようだ。実際この製品のみ、Heliosという別の製品名がつけられてオーダーするようになっており、その意味ではABAX2を利用したASSPという扱いと考えたほうが正解かもしれない。

Photo06:リファレンスボードとしては、Photo02右下のPCIeカードの形のものと思われる

最後が100Gbps×4のSwitchである(Photo07)。こちらは以前、FPGAで実装した例が示されており、これに比べるとずっと現実的に実装が可能とされている。実際に、スイッチ開発ボードとして100Gbps×8ポートの構成を2つのABAX2で実装した例が紹介された(Photo08)。

Photo07:もっと多数のポートを、ということになれば当然複数のABAX2が必要になるだろうが、それでも他のソリューションよりもずっと小規模かつ低レイテンシというのが同社の主張である

Photo08:上に載っているのは、Core i7ベースのEmbedded SBCを利用したスーパバイザモジュール。別にCore i7でなくてもいいのだろうが

さて、ここからが2つ目の発表である。Photo08のボードは従来型の光トランシーバを基板上に実装しているが、Photo09の右側はちょっと異なる。Photo10はこれをもう少し拡大したものだが、従来の光トランシーバに換えて、小さなデバイスがそれぞれのコネクタ部に搭載されている事が判る。これは(明言こそされなかったが)IntelのSilicon Photonicsを利用した新しい光トランシーバのようだ。規格などは当然未公開だが、同社によれば100Gbpsで最大300mの伝達範囲を持つとしており、すると100GBASE-SR10あたりを考えているのかもしれない。IEEE802.3ba-2010によれば、100GBASE-SR10はOM3 MMF(Multi-Mode Fiber)で100m、OM4 MMFで125mという伝達距離になっており、これを超えるといきなり10Kmの100GBASE-LR4になってしまうからで、OM4 MMFのままで特性を改善して300mまで実用範囲とした、というあたりではないかと思う。

Photo09:左右で基板の構成そのものは良く似ている

Photo10:右4つは従来型の光コネクタを、左4つは内部配線用の小型コネクタをそれぞれ利用している

問題は、では具体的な製品がどうなるのかである。Bismuth氏曰く、今回の発表は両社がSilicon Photonicsの利用に関して協業してゆくという事で、具体的な製品ロードマップとかは発表できないとしていた。例えばPhoto10では光トランシーバがチップの外付けになっているが、将来のABAX2デバイス(なのかABAX3になるのかは不明だが)に光トランシーバも内蔵できるのか、といったことに関しては一切説明がなかった。これによるメリットだが、まずTabulaにとっては低価格・低消費電力な光トランシーバソリューションをABAX2と一緒に提供できるようになり、これは同社の製品の魅力を増すことに繋がる。一方のIntelはSilicon Photonicsの実用例を増やすことになり、より広範に使われるようにするための第一歩になるし、またSilicon Photonicsが(ライセンス料などの形で)収入に繋がる例を増やすのは、株主対策としても良い機会であろう。

ちなみに会場では開発ボードの実物(Photo11)やスイッチのリファレンス(Photo12)、ブリッジの動作デモ(Photo13)などが行われた。

Photo11:当たり前であるがこれはまだSilicon Photonicsは未実装。中央のヒートシンクの下にあるのがABAX2

Photo12:中央の大きなヒートシンクは、スーパバイザモジュールとなるSBCと思われる。ABAX 2にも大きなシロッコファン式のActive Heatsinkが搭載されている

Photo13:これは2台のワークステーションを10GbEで接続し、4Kビデオを転送している。その際のABAX2ブリッジの動作状況を左側のモニターで表示しているというもの

さて、レポートとしてはこの程度であるが、ちょっとだけ補足というか考察など。今回の発表でTabulaとIntelはより緊密に作業を行うことになった訳だが、この結果として少しTabulaの将来が心配、というかIntelの出方が気になっている。実のところTabluraの製品は現在のIntelにとって大変に魅力的であり、補完関係にあるから、もし筆者がIntelの担当者だったら真剣に買収を考えるだろう。Intelは2011年にFulcrum Microsystemsを買収し、同社が持っていた10~40GbE Switchの製品群とテクノロジを入手、これを元に昨年からRSA(Rack Scale Architecture)と呼ばれる再構成可能なサーバラックのソリューション提供を始めつつあるが、TabulaのソリューションはこのFulcrumの製品をうまく補完できるポジションにあるように思われる。しかも製造は何しろIntelの22nmだから量産もコントロールしやすい。おまけにFPGAのテクノロジも入手できる。もしこれが汎用のFPGAだと、Alteraとの協業関係が難しくなるところだが、Tabulaの場合はEthernet Switchに特化したラインアップなのでAlteraとマーケットがモロにぶつかるというわけではないから、すぐに問題にはなりにくい。しかも同社は株式非上場の小規模な会社だから、買収は難しくない。なんか、買収してくれと言わんばかりの好条件が揃っているだけに、今後もTabulaが独立系ベンダとしてやってゆくつもりがどこまであるのか、ちょっと気になった説明会であった。