ETロボコンは、組込みソフトウェアの技術を競う競技大会だ。参加チームは、同じ走行体(レゴ社の教育版レゴマインドストーム)で、決まったコースを走る。毎年開催されるこのコンテストの魅力と、ロボコンを通じた教育の在り方について、ETロボコン実行委員長の星 光行氏にお話を伺った。

ソフトウェア・モデリング技術教育のためのロボコン

ETロボコンは、その走行タイムだけでなく「ソフトウェアの内容がモデルで正しく表現されているか?」「機能を実現するための構成・方法が十分に検討されているか?」といった、分析・設計モデルの品質も審査対象になり、総合的なソフトウェア技術の腕が問われる。

ETロボコン実行委員長 星 光行氏

「世の中には色々なロボコンがありますが、私たちは"教育のため"のロボコンであるという事を徹底しています。ETロボコンの前身であるUMLロボコンが始まったきっかけが、『日本にモデリング技術を普及させるため』だったからです」

そのため、ただの競技会では終わらない。大会前に、制御要素技術やモデリングの基礎を教える講習会が開催される。競技会後は審査員によるワークショップが行われ、さらに懇親会に続く。このように、参加者が学ぶための仕組みが非常に練られているのだ。

「今では300名を超える実行委員の多くが、ETロボコンの"卒業生"です。ロボコンを通じて経験を積んだ方が、続く人たちの教育にまわるという、良い循環ができていると思います」


発想のブレークスルー

運営側が思いも寄らなかった発想や、新たな技が出て来るのも、大会の魅力の一つだ。

「去年優勝したチームも圧倒的な走りを見せました。通常はコースのラインをトレースするのですが、彼らはそれに、コースを地図データ化した情報のみで走るマップ走行を融合させたのです。ある所で、ラインを追わずにショートカットして走っていったのです」

どこからその発想が生まれたのだろう。優勝チームの答えは、意外なものだった。

「もともとは、コースアウトした時いかに早く戻れるか、リカバリの研究をずっとしていたそうです。それが研究を重ねるうちに『いっそのこと、コースを外れて走ってもいいよね』と、彼らは発想を逆転させたのです。これが見事な走りに繋がりました」

プロと学生が同じ土俵に! 交流の場としてのロボコン

参加者の割合は、企業と学生がおよそ半々だそうだ。プログラミングに初めて触れる学生と、プロフェッショナルの社会人が同じ土俵に立つというユニークな場所である。

「学生にとって勉強になるだけでなく、企業の方々にとっても、優秀な学生と出会うきっかけ作りになっています。ETロボコンを通じて会社を知り、就職を決めたという学生が、結構いるのですよ。それから、学生の時にコンテストに出て、会社に入ってからまた参加する人もいます。そういう人が増えると、嬉しいですね」

"技術教育"を越えて

ETロボコンチャンピオンシップ2013の様子

去年の大会からは「アーキテクト部門」を設立した。この部門には、大きな意図が込められている。

「ETロボコンは、"モデル教育"を目的にスタートした大会ですが、近年、『これだけでは世界に通用しないのでは?』と考えるようになったのです。かつてウォークマンを作った日本が、なぜiPodを作れなかったのでしょうか? 技術そのものの有無ではなく、技術の"使い方"に差が生まれてしまったのだと思います。技術だけでは新しいものは作れない、ということです」

アーキテクト部門は、競技時間中になんらかのパフォーマンスを披露し、参加者はマイクを持ってプレゼンをする。審査員は会場の観客だ。技術ではなく、結果をスゴイと思わせるかどうかが評価の分かれ目になる。

「特に日本の技術者は、プレゼンテーションがあまり上手ではありません。ですが、良いものを作るためには、例えば、会社の上司を説得するための提案ができるかどうか、という事が重要になってきます」

さらに今年から、デベロッパー部門が「プライマリークラス」と「アドバンストクラス」に分割され、初心者が参加しやすいクラスがはじまる。こうして、ETロボコンに入門して技術を学び、切磋琢磨して鍛え、新しいものを生み出すという一連の流れが誕生した。

「将来的には、国際大会も見据えています。とはいえ、競技会だけなら現地に運営を任せればいいのですが、モデル審査やワークショップをするためには、審査員が本格的に英語を学ばなくてはなりません。それから、使用するキットも、各国の購買力の差を考慮する必要があります。越えるべき課題は多いですが、世界と競い合えるように、準備をはじめているところです」