高速通信のLTEは、今やスマートフォンでは当たり前の存在となっているが、早くも次世代通信規格である"LTE-Advanced"に向けた動きが出始めている。KDDIが2014年夏モデルから搭載を始めた「キャリアアグリゲーション(CA)」や、NTTドコモが6月より提供開始した「VoLTE」など、データ通信や音声通話の新技術が続々と登場している。これらの新技術を導入することで、各社は優位性をアピールしているが、ユーザーにとっては逆に分かりづらい側面もある。

アップルの新型iPhoneも間もなく発表と噂されるが、今後、ユーザーがスマートフォンのキャリアを選ぶときには、どのような基準でキャリアを見極め、選べばよいのだろうか。本稿では、新型iPhoneのキャリア選びについて考えてみたい。

新型iPhoneのキャリア選びはどうするべきか?(写真はiPhone 5s)

新型iPhoneは、CA・VoLTE・TD-LTEに対応するのか?

スマートフォンのLTEに関して、ここ最近、話題になっているのがCA、VoLTE、TD-LTEという3つのサービスだ。新型iPhoneがこれらの新技術に対応するのか、気になる人も多いだろう。

新型iPhoneは、VoLTEなどの新技術に果たして対応するのか?

CA(キャリアアグリゲーション)は、LTE-Advancedの主要技術のひとつで、複数の周波数帯域をまとめて、1つの帯域のように使って通信速度を向上させるという技術。KDDIが2014年夏モデルよりCA対応端末を投入しているほか、ドコモも2014年度中にCAを開始する予定。また、ソフトバンクはAXGPネットワーク(TD-LTE)の「SoftBank 4G」で2014年9月以降にCA(165Mbps)を導入する予定だとしている。

一方、VoLTEは、LTE通信を利用した音声通話サービス。従来の音声通話と比べて高音質であり、通話の発着信もすばやいのが特長だ。VoLTEについては、ドコモが2014年夏モデルから対応端末を販売し、6月後半よりVoLTEサービスを開始。また、KDDIとソフトバンクの両社も近い将来のVoLTE導入を予定している。

一方でTD-LTEは、一般的に"LTE"と呼ばれるFDD-LTEとは通信方式が異なる高速通信サービス。ソフトバンクがSoftBank 4Gとして提供するAXGPネットワークはTD-LTEに互換性がある通信サービスとなっているほか、KDDIおよびUQコミュニケーションズ陣営による「WiMAX 2+」もTD-LTE方式の通信サービスとなっている。

新技術だけでは判断できないキャリアの優劣

各社が導入を進めるCA、VoLTE、TD-LTEといった新技術だが、注意したいのは、キャリアのネットワークが新技術に対応しているとしても、必ずしも全ての機種でそれらの新技術を利用できるわけではないことだ。

たとえば、ドコモが提供するVoLTEは、2014年夏モデルの6機種にしか対応しておらず、その他の夏モデルや以前発売された機種では利用することができない。さらに、VoLTEの特長である高音質通話ができるのは、VoLTE対応端末同士のみであるため、実際のところ、対応端末が普及するまでは、利用する機会はあまり多くないと考えられる。

また、機種ごとに対応する周波数帯などのスペックが異なることも問題を複雑にしている。とりわけ、グローバルに販売されるiPhoneの場合、日本仕様にカスタマイズされるAndroidスマートフォンとは異なり、キャリアが提供する全ての周波数帯に対応しているとは限らない。

加えてドコモでは、800MHz/1.5GHz/1.7GHz/2GHz帯という4つの周波数帯でLTEネットワークを運用しているが、現行のiPhone 5s/5cの場合、1.5GHz帯には対応しておらず、他の3つの周波数帯しか利用することができない。また、KDDIのLTEネットワークでは、800MHz帯のLTEがアピールポイントとなっているが、前機種であるiPhone 5の場合、2GHz帯のみ利用でき、800MHz帯は非対応となっている。

また、ソフトバンクのiPhone 5/5s/5cでは、2.1GHz帯と1.7GHz帯の「倍速ダブルLTE」や随時拡大中の900GHz帯のLTEを利用でき、同社のAndroidスマートフォンでは、さらにAXGPネットワーク(TD-LTE)を加えた「Hybrid 4G LTE」を利用することが可能。新型iPhoneでは、現行のiPhoneでは利用できないAXGPネットワークにも対応し、Androidと同様のHybrid 4G LTE対応になるかどうかが気になるところだ。

このように、機種によっても対応する技術やネットワークが異なるため、新型iPhoneのキャリア選びの際には、キャリアが提供するネットワークだけでなく、まずは機種自体のスペックを確認してから、よく吟味する必要があるだろう。

結局、頼りになるのは実測データ?

各キャリアのネットワークを比較し、機種のスペックを確認したとしても、まだ判断材料としては不十分だと言える。たとえば通信速度については、ネットワークと機種のスペックから下り/上りの最大通信速度が導き出されるが、それらの通信速度はあくまで理論値であり、実際の通信速度とは異なっている。

そこで、スマートフォンの実際の通信速度を確認したいときに参考になるのが、通信速度調査の実測値だ。マイナビニュースをはじめとする各メディアや調査会社などが実施している通信速度調査では、特定の端末を使い、同一場所、同一条件で通信速度を計測しており、各キャリアのスマートフォンの"実力"を確認することができる。

また、スマートフォンのネットワークは複雑であり、通信速度調査の結果を見てみると、スペックでは説明できない事象が起きていることもある。たとえば、マイナビニュースが3月に都内で実施した通信速度調査では、同じドコモ端末の平均下り速度について、iPhoneが16.7Mbps、Androidが10.9Mbpsと、iPhoneのほうが下りのスピードが速かった。しかし、前述の通り、対応する周波数帯としては、iPhoneよりもAndroidのほうが多いため、スペック的にはAndroidのほうが速くなりそうに思える。だが、実際には逆の結果となった。

このことからも、新型iPhoneのキャリア選びにおいても、ネットワークや機種のスペックだけで判断するのではなく、通信速度調査などの実測値を参考にするのが、最も堅実で賢明だと言えそうだ。ちなみにAgoop社によるビッグデータ解析においては、ソフトバンクの通信速度がトップとなっている

*  *  *

9月9日(現地時間)のスペシャルイベントにおいて、新型iPhoneが発表されることが予想されている。今後、発売日までに各キャリア周辺からネットワークに関して様々な情報が飛び交うことが推測されるが、実際の通信速度などのネットワークの優劣をしっかり判断したいのであれば、発売後にはなるものの、各種速度調査の結果を待ったほうが良いだろう。ひとまず今は、新型iPhoneのデザインや新機能、連携する新デバイスなどに期待しながら、スペシャルイベントに備えておくのがベストかもしれない。