パワーMOSFETは数十年にわたってエレクトロニクス設計の基礎として使用され、さまざまなアプリケーションでスイッチング機能を実現する手段として活用されており、簡易型トランジスタ・デバイスを置き換えてきました。

多くの場合、MOSFETはシステム設計の大電力セクションを制御および安定化するために使用されています。技術の進歩と経済的な圧力が原因で、より小型で集積度が高く、よりノイズが少なく、コスト効率に優れたMOSFETが市場に投入される傾向が続き、体積が大きく効率のよくない旧世代の製品を置き換えてきました。オン抵抗(RdsON)が同じ場合、トレンチ構造を採用したデバイスは、プレーナ構造を採用した従来型デバイスに比べてサイズが半分以下で済みます。効率とコストの改善の結果、より小型パッケージで、より利益マージンが優れた製品を実現できるようになります。したがって、製品はより小型の匡体に収容できるようになり、利用者にとって魅力的になります。ただし、一部のエンジニアにとっては、ダイ・サイズの縮小は設計に問題をもたらすことを意味します。以下の説明では、潜在的なリスクを評価する方法を考察します。

DC/DCコンバータ、無停電電源装置(UPS)、モータ制御システムのような多くのMOSFETアプリケーションで、熱性能は重要なパラメータです。UPSやモータ・アプリケーションでは、MOSFETは障害条件下で突然発生する大電流サージに対処する必要があります。パワー・デバイスの過渡的な接合部温度を測定する手段がない状況で、設計技術者が実行できるのは、熱障害発生リスクの大きさを推測することだけです。

接合部温度(図1)は、パワー・デバイス内部の温度です。熱電対または赤外線カメラを使用した熱管理で測定できるのは、ケースの平均温度のみです。MOSFETに供給される電力が分かれば、ピーク接合部温度を導出できます。この方法は、障害ポイントを決定し、障害条件下でのMOSFETの耐久期間を予測するのに役立ちます。データシートに記載されている最大値は、特定の温度範囲を対象として負荷軽減したもので、実際のアプリケーションの状況にそのまま適用できるわけではありません。

図1:代表的なTO-220の接合部温度とケース温度の過渡特性

一般に、デバイスに関する反復アバランシェ・エネルギー定格(EAR)は、無限大ヒートシンク・モデルを前提としています。実際のアプリケーションでは、反復的な大電力イベントが発生した場合、平均消費電力の大幅な増加と、ケース温度の上昇が生じます。また、方形波の電力が供給されることを前提として、規定温度で値が導出されていますが、反復的なアバランシェが発生する状況では、時間軸に対するパルス波形は自然に三角波になります。

大電力を消費する条件下で過渡的な温度上昇曲線を作成する方法はいくつかあります。

  1. Cauer/Fosterモデルを使用し、ヒートシンク/プリント基板を含めたSpiceモデル化
  2. スプレッドシートを使用した熱ネットワークのモデル化

これらの方法のどちらを使用する場合も、ツール/ソフトウェアと情報が必要ですが、それらが常に利用できるとは限らず、また安定状態まで延長するとかなりの処理時間を要します。この結果、設計プロジェクトの全体的なコストが増大し、市場投入までの時間が長くなります。

MOSFETのデータシートに掲載されている熱抵抗グラフに基づく、簡略化した方法を使用できます。単一イベントに起因する過渡的な温度に加えて、平均温度上昇モデルを使用すると、全体的な過渡動作を評価できます。接合部温度の上昇を計算するために、大電力の単一イベントに関連するプロファイルを把握しておく必要があります。非クランプ誘導性スイッチング(UIS)が発生する場合、電力パルスは正三角形の形状をとります。

単一イベント電力損失 = Psingle
通常動作電力損失 = Pd-avg

電力パルス形状が異なると、ピーク温度上昇も異なります。単一イベントに対応する過渡的な温度上昇は、以下のように評価できます。

平均過渡温度 = RthjA(t)*(Psingle+Pd-avg)
全体の過渡 = 平均過渡 + 単一イベント

図2:UIS障害発生時のモータのドリル

単一MOSFETトリガ・アプリケーション、例えばドリル・フライバック回路(図2)では、反復的なUISが発生する可能性があります。ドリルに切り粉が詰まった場合は、MOSFETにオーバーストレスが発生する可能性があります。この条件下でドリルが耐えられるサイクル数または時間の長さが重要です。ドリルに切り粉が詰まった場合は、オン時間の間、寄生インダクタンスによって電流が上昇します。この結果、寄生インダクタ内にエネルギーが蓄積され、オフ時間の間にMOSFETがアバランシェ降伏を引き起こします。デバイスの温度上昇が原因で、アバランシェ降伏電圧(VBD)はその定格電圧より30%上昇します。最後に、次のサイクルが開始される前に、MOSFETのドレイン電圧はバッテリ電圧(VBattery)に設定されます。アバランシェ時間(tAV)は、オフ時間中にIpeakがゼロにまで減少するのに必要な持続時間です。