菅賢治という名前は知らなくても、"ガースー"と聞いたらピンとくる人も多いのではないか。『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!!』(以下『ガキ使』)や、大みそかの『笑ってはいけない』(以下『笑いけ』)シリーズに自ら出演する、あの名物プロデューサーだ。

そんな"ガースー"が今年3月で26年勤めた日本テレビを退職し、現在はフリーとして活動しているという。聞けばすでに「ずっとやりたかった番組」を動画配信し、8月には初の著書『笑う仕事術』を出版するなど、精力的に活動しているとのこと。

日ごろ、「くだらないが最上のホメ言葉」と話す"ガースー"は、大きな肩書が取れた今、どんな番組を作り、どんな本を書いたのだろうか? さらに、なぜ日本テレビを退職したのか? 今後『ガキ使』や『笑いけ』はどうなってしまうのか? など気になることは多い。ダウンタウン、太田光、上田晋也らとのエピソードを交え、3回にわたって尋ねていく。

25年間、オリジナル一本勝負!

初の著書『笑う仕事術』を出版する"ガースー"こと菅賢治氏
撮影:大塚素久(SYASYA)

第1回のテーマは、著書『笑う仕事術』とダウンタウンとの裏話。"仕事術"と言われると、何だか難しそうで"ガースー"のイメージからほど遠いが……と思っていたら、「本の内容は失敗談ばかりだから」と笑い飛ばされた。「視聴率をとる方法なんて知っているやつはいないし、いたらそいつは嘘つきだから(笑)。僕らは失敗している経験則でものを言うしかないんですよ。まあ、飲み屋で若手に話しているようなものですね」と話す。何とも力の抜けた人なのだ。

まず聞きたかったのは、プロデューサーとして番組出演する理由と心境。ディレクターの"ヘイポー"(斎藤敏豪)とともに何度となく『ガキ使』に出演しているが、"内輪ネタ""楽屋オチ"というアンチの声があるのも確かだ。

しかし、"ガースー"は、「僕ら裏方は浜ちゃん(浜田雅功)が瞬時に凄いツッコミをしてくれるから出るし、成立しているわけです。僕や"ヘイポー"なんて単体で見たら面白くも何ともないのは分かっているし、保険がかかっているから出演できるんですよ。そういう関係性があるから内輪ネタや楽屋オチではなく、ダウンタウンの笑いだと言い切れます」と冷静に返した。

思い出すのは網浜直子を迎えた"ヘイポー"のガチお見合い企画。"ヘイポー"の尻にローターを仕込むなどダウンタウンの容赦ないイタズラやツッコミが炸裂していたが、もしこれがタレントだったら"ガチ感"が薄れていただろう。つまり裏方が出演するのは、「タレントよりもスタッフを起用した方がずっと面白くなる企画だけ」なのだ。

"ガースー"は、その『ガキ使』が約25年間も続いている理由を「オリジナルにこだわっているからだと思います。絶対に人マネはしたくないし、この番組にしかない笑いがあるから続いてきた」と分析する。そんなスタンスだからこそ、「山崎邦正vsモリ夫」「ハイテンション・ザ・ベストテン」「七変化」「ピカデリー梅田」「お金がないから屁を出そう」など、『ガキ使』でしかありえない企画が生まれてきたのだろう。

そういえば、『笑いけ』が大みそかに進出したとき、「カウントダウンではなく、録画放送で年越しするのは日本テレビ開局初」という斬新さが話題になっていた。"ガースー"にしてみれば、「だって『カウントダウンしなきゃいけない』ってのもおかしいし、『ダウンタウンの方が絶対に面白い』と思ったから」という理由でしかないようだ。

『笑いけ』は40~50回見てチェック

"ガースー"は、自ら手がけるコント番組やマジック番組の「リハーサルに行きたくない」と言うらしい。その理由は、「決して駄々っ子だからではなく、心の底から『すげえ!』と言ってハシャぎたいから。だから、よくあるマジックの"ネタばらし"番組って大嫌いなんですよ。バラしてどうすんの? 誰も得しないし、ハシャいだ方が幸せじゃないですか」と力説する。「視聴者の人って初見ですよね。だから初見のインパクトが一番大事だし、何度も見ると何が面白いのか分からなくなっちゃう。大みそかの『笑いけ』はまさにそうで、最初に見る画質の粗いものは、僕自身ひっくり返って笑っています(笑)」。"視聴者目線を意識するためにプロデューサー自らハシャぐ"という姿勢は、いかにも"ガースー"らしい。

しかし、ここからがプロの仕事。「『笑いけ』は放送までに40~50回は見ます。収録は11月中旬で、12月20日くらいまでに最初の映像が上がってくるのですが、最近は一回6時間分ありますからね。でも、ホンネはロケにも行かないで、『大晦日に酒とつまみを用意して初見で見たい』という気持ちです。『だったらスタッフじゃねえよ!』って言われるけど(笑)」。実際、当初は"ガースー"と"ヘイポー"が中心で作っていたが、最近はネタ選びにすらほとんど口を出さないらしい。それでもすさまじいスケジュールには違いない。

「あの撮影は生で24時間撮るようなもので、撮り直しは一切ありません。それで1千万くらいのセットがパアになってもしょうがないし、『ごめんなさい。もう一回』はないんですよ。過去に大仕掛けのネタでシャレにならないスベり方をしたことが何度かありますが、それはオンエアしてないですもん(笑)」。撮影当日は打ち合わせどころか、あいさつすら一切なく、ダウンタウンらを現実に引き戻すことのないようにカメラを回し続けているという。要は「ハイ、ここで休憩入れるんでカメラ止めます」がなく、スタッフもトイレなどで顔を合わせないように徹底しているらしい。