グーグルは9月4日、帝国データバンクと共同で実施した「被災企業の外部支援活用実態調査」の集計結果を報告した。これによると、東日本大震災での被災地企業の約8割が「商業に関する外部支援」を受けたことがない実情が明らかになったという。

「被災企業の外部支援活用実態調査」は、岩手と宮城、福島の3県に位置する企業の経営や業績、支援の実態を明らかにするために実施されたもの。4月21日~6月11日にかけて、対象条件をクリアした企業に対しアンケートの郵送・回収を行った。

対象範囲は、「被災前に本社所在地が指定の3県いずれかに属し」「被災後も同県内に立地している」ほか、「農業や漁業、製造業、卸・小売業、運輸・通信業、サービス業のいずれかに属しており」「被災前後の決済が判明」している企業。約3000社が該当し、その約3割となる730社より回答が得られたという。

被災企業の外部支援活用実態調査の要項

グーグルによると、「回答時点の景況感として、40%の企業が『悪化したと感じる』と回答したが、震災前と比べ、実際に業績が悪化していたのは全体の35%であったほか、36%の企業は業績が良化している」という。その要因を、「震災後に、機械設備などの事業環境面や教育研修など人事面に積極的に投資した企業は、業績が好転している傾向がある」と分析した。

業績は悪化したかという問いに関するグラフ

業績が好転した企業の取り組みに関するグラフ

震災から3年。被災した企業は、外部支援を利用したのか

グーグル SMBマーケティング統括部長 伊佐裕也氏

同調査では、被災企業に対し、「震災後に、(商業に関する何らかの)外部支援を受けたか」という質問も実施。有効回答670社分のうち、約80%となる526社が「受けたことがない」と回答した。これに対し、グーグルでSMBマーケティング統括部長を務める伊佐裕也氏は、「調査を実施した3県内でも、支援の対象外となる企業も含まれるため、必ずしも100%正しい数値とは言えないが、非常に驚く結果であった」という。

また、同社は、支援の有無に関して更に掘り下げたデータも提示。業種別で見ると、「支援を受けていない」と回答した割合が多いのは漁業で、「支援を受けた」と回答した割合が多いのは農業であったほか、企業規模としては、売上が高い企業ほど「支援を受けた」企業の割合が多く、売上が低い企業ほど「支援を受けていない」と答えた割合が多い結果となった。

支援を受けなかった理由としては、「借金返済で精一杯となり、外部支援の存在を知る機会がなかった」や「情報が入ってこないため、調べることもできなかった」など、「外部支援の存在を知らなかった」という声が多く挙がったという。

外部支援の有無に関するブラフ

同結果を受け同社は、「支援を受けていない」と回答したうちの55社に対し、追加で電話調査を実施。これによると、「自らの事業に有用な外部支援を知らない」と答えた企業は、56%にあたる31社であったほか、「知っている」と答えた24社も、その半数は「利用手続きの仕方が分からない」とした。「やはり、外部支援の存在や、手続きの方法が分からないことが、外部支援の活用が促進していない背景にあるのでは」と、伊佐氏は述べた。

外部支援の存在を知っていたかどうかを示すグラフ

被災企業と支援者を繋ぐ、グーグルの「イノベーション東北」

被災企業に対し、グーグルはどのような取り組みをしているのか。その答えは、「イノベーション東北」にあるという。

イノベーション東北とは、東北の被災企業や、震災を機に新しいことに挑戦しようとする企業などと、それをサポートしたいと思っている人(サポーター)を繋ぐためのプラットフォーム。2013年5月にスタートし、9月時点の登録サポーター数は約800名、マッチング件数は400以上を突破している。

イノベーション東北サポーターに関して

サポーターの約90%は、岩手・宮城・福島以外の都道府県に所属しており、そのうち約40%は、東京など関東圏となる。職業やスキルも多彩で、コンサルタントやデザイナー、大学教員、管理栄養士、トラック運転者など。復興支援だけでなく、自らのスキル向上や新たな出会いの場としても活用する人もいるという。

伊佐氏は、落語家でサポーターとして参加した人を例に挙げ、「仮設住宅に笑いをもたらしたいという想いで参加し、実際にプロジェクト化に至っている」と説明した。

日本電気 経営企画本部所属 土屋氏

日本電気(NEC)の経営企画本部に所属し、中小企業診断士としても活躍する土屋氏もサポーターの一人。2013年10月に参加し、12月から宮城県・亘理町にある「みやぎのあられ」という家族経営の米菓メーカーの経営支援を行っている。

支援開始当時、支援先企業は、オンラインショップの改善や新パッケージのデザイン、販路開拓などを支援希望内容としていた。同氏がサポート役となり、「Web会議システムやメールなどのやり取りの中でヒアリングをすると、財務面の強化や生産設備の更改、原価整理など、『更に良くなるであろう点』が見えてきた」という。

同氏は、9月時点での成果として、「気軽に相談できる環境の整備」と「助成金などの申請・獲得」を挙げた。同氏が声をかけ参加に至った中小企業診断士とデザイナーの計5名で構成されたチームにより、さまざまな視点でアドバイス可能な環境を実現したほか、助成金申請に必要な書類の作成ノウハウなど知識を活かしたサポートを行っているようだ。同活動を通じて、「インターネットを利用し、地方に価値を提供することができるという実感を得た」と同氏は語る。

グーグルの提供するプラットフォーム「イノベーション東北」が、外部支援の導入を促進する1つの要素となることを期待したい。