日本航空(JAL)は8月28日、三菱航空機が開発中の三菱リージョナルジェット(MRJ)を導入すると発表した。今回の購入は、日本の産業に貢献しつつ運航にも影響なしな「JALの上手なお買い物」と言えるだろう。

植木社長(左)と三菱航空機・江川会長。手前の模型はJALペイントのMRJ機(写真提供/三菱航空機)

「パイロットから見てすばらしい飛行機」

MRJはYS-11以来約50年ぶりの国産旅客機であり、初の国産ジェット旅客機だ。座席数70~90クラスの1通路(ナロウボディ)タイプの小型機で、導入されればJALグループの比較的乗客数の少ない区間を運航するジェイエアが使用する。

MRJは、「このクラスのジェット機として最高レベルの運航経済性と客室の快適性、それに環境適合性を持つ」(三菱航空機)。つまり、航空会社にとっては燃費効率に優れ、乗客にとっては機内を広く使えるなど快適性に優れ、社会的には静かで排出ガスを抑えた優れたエンジンを搭載しているということで、この3点は現代の旅客機製造において最も重要視されるポイントだ。

JALの機長を長年勤めてきた植木義晴社長が記者会見で、「パイロット(機長)であり航空のプロである私から見ても、MRJはすばらしい飛行機だと確信した」と語ったのも一定の説得力があった。

航空機はオーダーメイド生産されるものだが、MRJは2008年にANAが25機をオーダーしたタイミングで開発が本格化した。そして、今回のJALからの32機のオーダーにより受注機数は407となり、100席弱の旅客機の採算ラインとされる400機の大台に乗ったとされる。

このクラスの旅客機市場は現在、エンブラエル社(本社ブラジル)とボンバルディア社(カナダ)の2社がほぼ独占している状態だが、「今後は5,000機の需要が見込まれている。日本航空という超一流のエアラインと購入の基本合意に至ったことでプロジェクトへの信頼は飛躍的に高まり、これまで以上に受注に弾みがつく」(江川豪雄・三菱航空機会長)とMRJ側は期待感を表した。

フジ・ドリーム・エアラインズのエンブラエルERJ170。胴体を延長したタイプがERJ190で基本的に同じ機種

ライバル機を発注し開発遅れのリスク回避

ただ、同会見である記者が指摘したように「MRJはまだできてもいない飛行機」である。実際には、飛行試験用初号機の強度をテストしている段階であり、初飛行は2015年春と発表されているが、新造機の開発には遅れが付き物ともいえ、近年の例でいえば2011年に初就航したボーイング787は当初の予定より4年近く遅れた。MRJも2011年の初飛行を予定していたが、すでに2年以上遅れていることになる。

飛行機の導入が遅れれば航空会社側の運航に影響が出かねないが、JALはそのリスクを上手に回避している。MRJがJALに引き渡されるのは開発・製造が順調に進んだとしても2021年の予定で、それまでは運航実績があり、また現在JALグループも使用しているエンブラエル社とボンバルディア社の飛行機を使う予定だ。

また、MRJの購入を発表したのと同じ日、JALはエンブラエル社のERJ170を追加発注し、ERJ190を新規発注している。つまり、たとえMRJの開発が遅れても大きなリスクはないといえる。MRJにとっても、前述したようにJALからの発注には大きなメリットがあり、両社にとって今回の合意は、「Win,Win(ウィン・ウィン)」。ビジネス界で理想とされる発展的な取引となったと言っていい。

一方でMRJは初の国産ジェット機であり、日本経済への貢献が期待されている。経済産業省も関わる「国家プロジェクト」でもある。JALの発注額は定価で見積もって1,500億円とされるが、機材の購入という航空会社にとっての必要経費(コスト)の支払いを通じて「国家プロジェクト」にも大きく貢献できるわけである。

こうした意味で、JALは「上手なお買い物」をしたといえるだろう。  

写真提供/三菱航空機

筆者プロフィール : 緒方信一郎

航空・旅行ジャーナリスト。旅行業界誌・旅行雑誌の記者・編集者として活動し独立。25年以上にわたり航空・旅行をテーマに雑誌や新聞、テレビ、ラジオ、インターネットなど様々なメディアで執筆・コメント・解説を行う。著書に『業界のプロが本音で教える 絶対トクする!海外旅行の新常識』など。