連日の猛暑…冷たいものが欲しい、とお店に走った人も多いのではないでしょうか。今回注目したのは、バニラアイスにチョコをコーティング、ひと口で食べやすい「ピノ」。超定番ともいえる「ピノ」はなんと1976年生まれのアラフォー! ロングセラー商品の裏側で活躍するアイス開発のお仕事について伺いました。

お話しいただいたのは、森永乳業 食品総合研究所の井上恵介さん。1999年の入社以降アイス開発に取り組み、「MOW(モウ)」などを担当、現在は「ピノ」を担当しているそうです。なんと2011年に「多変量解析を用いたアイスクリーム及びホイップクリームの品質設計に関する研究」というテーマで博士号を取得したという本物の「アイス博士」なんです。

誕生以来、基本設計は変わらない

森永乳業 食品総合研究所の井上恵介さん。本物の「アイス博士」だ

--ピノが今年で39歳というのは、驚きでした。

井上さん「かわいい名前なんですけど、もうすぐ40歳なんです(笑)」

--開発にアイス博士がいらっしゃるのも面白いです。

井上さん「あまりいないですよね、アイスで学位をとるというのは…(笑)。私の場合は、アイスクリームのおいしさを数式にすることがテーマでした」

--もとからアイスの研究をされていたんですか?

井上さん「実は、学生時代は蚕の研究をしていたんです。遺伝学をやっていたので、会社に入って一からアイスの研究をすることになりました。物事を論理的に解するための基本的な知識は一緒なんですが。下積みからやっていくという仕事ではないので、アイスをどう科学的に見ていくか、という視点でやっていきましたね」

--ピノは誕生39年ということですが、最初に開発されていた方は社内にいるんですか?

井上さん「発売当初に関わっていた人はほとんどいないと思います。私が1歳のときからある、幼なじみ的存在です(笑)。基本設計はまったく変えていないですね。ずっとひと口サイズの形状、チョコでコーティングされたアイスクリーム、6粒です」

これは貴重!? 発売当初のパッケージ

--資料によると、海外へ視察に行った際に見つけた一口サイズのアイスクリームから発想を得たとか…。

マーケティング担当「元々、子供でも食べやすいサイズとしてこの形が発案されたようです。その当時の日本のアイスは今のようにバリエーションが多くなかったため、、アイスクリームの技術が発達していたアメリカへ視察に行ったそうです」

--それから39年、どんな歴史があったんですか?

マーケティング担当「いくつか転換期はあります。ずっとバニラ1品で展開していたのですが、『いろんな味が食べたい』というお客さまの声から、1992年にマルチパックを発売したのもそのひとつ。2004年には、期間限定フレーバーとして『いちご』を発売して、これまでに49品目発売してきました」

井上さん「お客さまから1番支持していただいているのは味なんですよね。いつ食べても『ピノの味だ』『おいしいよね』と言っていただけるんです。実は時代の嗜好(しこう)にあわせてちょっとずつ味を変えているのですが、お客さまからは変わったねと言われないようにブラッシュアップしています」

--古くならないけど、変わりすぎず…

井上さん「古くなって年をとったブランドだと思われたくないですね。本格感とか、リッチ感、濃い味といった時代のトレンドを少しずつ取り入れています」

毎日朝イチでアイスを試食!

--今たくさんのフレーバーが出ていますが、開発のときにはたくさん試食しているんですか?

井上さん「そうですね」

--おなかがいたくなったりしないんでしょうか!?

井上さん「それはないです(笑)。でも相当食べますよ! 会社に行くと、朝イチの仕事が試食なんですよ。研究所のメンバーがみんな試作品をつくるので、ずらーっとテーブルに並べて食べていく作業になります」

--朝一番にアイスを試食…すごいですね

井上さん「お昼のごはんのあとにもあります。1日2回、みんなのアイスを評価する時間があるので。ちょっとした食事朝食みたいなものですよ。だからたまに試食がないと『おなかが減ったな…』と思ってしまいます。

ただ、おいしいものだけではなくて…みなさんはおいしいアイスしか食べたことないでしょうけど、われわれはそうじゃないのでつらいことがあります。あまり詳しくは言えないですけど、食べた瞬間に吐き出されるものもありますよ(笑)。いいものだけじゃなくて、だめなものも評価しなければいけないんです。アイス以外の開発をしているメンバーも『楽しそう~』と来るんですが、つらいサンプルもあります(笑)」

--両方食べないと評価できないということですか?

井上さん「そうですね。他にも品質保証のための試食もありまして…例えば抹茶って、熱や光に弱いんですよ。光にあたると抹茶の色が変わって、劣化してしまうんです。どれくらいの抹茶が風味的に悪くなるか、見なければいけないんです。

よく言われるのが、当社のアイス開発者には太ってる人が全然いないこと。『アイスをそんなに食べてるのになぜ太らないのですか』と聞かれますが、理由はわからないんですよ(笑)。試作をするのにけっこう体力がいるからかもしれません。やっぱり大量の原料を溶かしたりとか、肉体労働に近いですから。汗かきながらやっています」