昨年、一世を風靡したTVドラマ『半沢直樹』オネエキャラの金融庁統括官・黒崎の好演から一転、歌舞伎界初の仮面ライダーへの変身――仮面ライダーの毎年恒例夏の劇場版、今年のトピックは、やはり歌舞伎俳優の片岡愛之助が変身するということだろう。仮面ライダーの劇場版は、毎回さまざまなゲストが出演する。今人気の俳優、芸人、タレント、スポーツ選手。皆、子供の頃の熱い想いや憧れを抱きながら演技に挑んでいく。もちろん愛之助も、少年時代に仮面ライダーやキカイダーなどの活躍に声援を送った、かつての子供たちの一人だった。

現在公開中の映画『劇場版 仮面ライダー鎧武/烈車戦隊トッキュウジャー THE MOVIE』より

現在公開中の『仮面ライダー鎧武 サッカー大決戦!黄金の果実争奪杯(カップ)!』にて、愛之助は仮面ライダーマルスに変身するコウガネ役を演じている。『仮面ライダー鎧武/ガイム』における鍵「黄金の果実」を完成させようと企む最強のライダーであり、注目の変身シーンはもちろん、アクションや立ち回り、彼の十八番と言える眼力など見どころも多い。しかし、愛之助がライダーのオファーを受けた理由は、ただ少年時代に抱いた想いや憧れだけではない。仮面ライダーへの憧れが、現在の片岡愛之助として牽引する歌舞伎への想いに繋っていく、ひとつのエピソードがあった。

片岡愛之助
1972年3月4日生まれ 大阪府出身
1992年、片岡秀太郎の養子となり、『大阪・中座勧進帳』の駿河次郎ほかで六代目片岡愛之助を襲名。歌舞伎はもとより、2013年にTVドラマ『半沢直樹』、2014年に三谷幸喜監督の舞台『酒と涙とジキルとハイド』などドラマや映画、舞台、現代劇などでも活躍の場を広げている。
撮影:大塚素久(SYASYA)

――「仮面ライダーマルス」の変身シーン、拝見させていただきました。どことなく歌舞伎を思わせるつくりで、存分にタメが効いていました。動きもスローで、昭和ライダーっぽいというか。平成ライダーではちょっと珍しい動きですよね。

伝わってよかった(笑)。ある意味古風ですよね。そこが歌舞伎っぽいといえば、歌舞伎っぽい。確かにゆっくり腕を回転させるのは、1号をはじめとした昭和ライダーの変身! を彷彿とさせますね。平成ライダーの変身は、バーッ、ビャーッ、ババーン! と高速で動くか、あるいは最小限に留めるかどちらかの印象がありましたから。

――その初の変身ポーズ、皆さんがお聞きしたいところだと思います。

正直言うと、最初は恥ずかしかった(笑)。ただ、やっているうちにどんどん癖になる自分もいて。驚いたのは、ライダーはどんな場所でも変身できてしまう。こうして(体を動かして実際に変身ポーズをとる)変身する……するとスタッフさんが「はい! ここでストップしてください!」と手と顔の位置を合わせ、「はい! では、愛之助さんはこちらに」と僕は掃けます。

そこでスーツアクターさんが入ったマルスが同じ位置に入り「よーいスタート! はい!」とライダーが動き出して撮影が再開する――特撮の現場では当たり前のことかもしれませんが、これには驚きました。面白いな、どこでもできるじゃん! って。スタッフさんは「これ原始的な形なんで……」って言っておりましたが(笑)。

――愛之助さんが演じたコウガネは、ひと癖あるというよりは、ストレートな悪役でした。

最初から"悪"という存在感を全面に押し出すべきなのか、徐々にせり上がってくるものなのか、金田監督に聞くと「出てきたらドーン!」とおっしゃっていたので(笑)。ただ、ちょっとしたストップモーションでぐっと睨みを効かせる――歌舞伎で言うところの"見得を切る"ようなことを期待されていたので、眼力はかなり入っています。あとは、動き。ボスキャラのような大きな存在になればなるほど、あまり動かない。仁王立ち。あまり動かず、動じず、堂々とすることで役は大きく見えてくる。ストレートな悪役が組み上げられていきます。悪役は楽しいですよ。

――以前から悪役を演じるのが楽しいとおっしゃっていましたよね。

人に悪いことをするという行為は日常的ではないでしょう? 例えば、蹴り飛ばして、踏みつけて、高笑いすることって普通はない。非現実的なんです。歌舞伎の役でも同じで、だいたいの正義、だいたいの主人公は(演じていると)けっこうストレスがたまります(笑)。演じる上でも実際の主人公の心情でも。主人公がどれだけ痛めつけられるかで、お客さんも「あーかわいそう! がんばれ!」と感情移入する。だから、いかにして主人公に負荷をかけるかというのが、悪の定義。こらえるという抑止はいらず、むしろ発散することが"悪"の心情に繋がります。実は、悪役こそストレスがたまらないんですよ。

――歌舞伎俳優が根底にある愛之助さんにとって、役作りのプロセスとはどういうものでしょう。

役作りはオーソドックスだと思いますよ。内面、中から構築していって、プラスアルファでどれだけ色づけしていくか。役柄によりますけども。ただ、やはり芝居というのはひとりでできるものではなく、相手の役者との受け答えの連続なので、どんなトーンなのか、相手の立場や心情はどうなのか……自分の役柄だけではなく、外的要因も関係してきます。今回のライダーは、所謂アウェイ(笑)。こういうのは現場に入らないとわからない部分はあるので、もう現場との駆け引きにもなりますね。

――外的要因というのは、例えば衣装のような。

そうです。イメージや雰囲気というのは、自分が見せようと思っても見えない場合もありますから、とても難しい。ですが、衣装というのはひとつあります。衣装を実際に着る――その過程で自分の中のイメージが覆され、新たな発見もあったりして、イメージや雰囲気がより具体化していく場合もあるんです。衣装と自分があり、台本があり、相手の役者がいて役が完成されていく。今回だとツメを深緑に塗ったり、ちょっと指輪をつけてみたりとか(笑)。それらが頭の中でガチャガチャっと組み上がっていってできたのがコウガネです。