南半球の島国、ニュージーランド。「羊の国」というイメージを持っている人が多いと思うが、実は、今年から来年にかけての経済成長率が先進国の中で第1位ということを皆さん、ご存じだろうか。その理由は、ニュージーランドが「牛」の飼育に力をいれており、世界でも有数な"酪農大国"であることが挙げられる。今回は、ニュージーランドの"意外な素顔"に迫ってみたい。

人口450万人の小さな島国。でも、今年1-3月のGDP成長率は+3.8%!

冒頭でも述べたが、ニュージーランドというと、オーストラリアと並ぶ南半球の島国、そして羊の国というイメージを持つ人が多いだろう。地勢面だけでなく、経済面でも、オーストラリアとセットで見られることも多く、農業国、観光国といった印象がある。だが実は今、ニュージーランドは、その目覚ましい経済成長が注目を浴びているのだ。

ニュージーランドは、南半球の環太平洋地域に位置し、国の面積は日本の約4分の3。これに対し人口は約450万人と非常に少なく、働き盛り人口の割合も高いことから、その結果、日本のような年金、社会保障の問題が起きにくいというメリットもある(※表1)。

表1 ニュージーランドの概要

このニュージーランド、実はGDP成長率でみると、2014年は+3.254%、2015年は+3.006%と予想されており、先進国の中で最も高い成長率が見込まれているのだ(※表2)。実際、2014年1-3月期は前年同期比で+3.8%と約6年ぶりの高い伸び。この先も、絶好調の輸出を背景に、この水準はしばらく続くとみられている。

表2 主要先進国のGDP成長率(2014年、2015年ともに予想)

ニュージーランドといえば、「羊の国」のイメージがあると前述したが、実は、国策で牛の飼育に力をいれており、現在の2倍の頭数にする計画が進んでいる。実際、同国の輸出品の4分の1は酪農製品となっており、世界の酪農製品輸出ランキングでみると、バターと全粉乳が世界1位、チーズと脱脂粉乳が世界3位となっている。

絶好調の裏に、"ソフト・コモディティ"あり

ニュージーランドは酪農製品などのいわゆる"ソフト・コモディティ"を得意としている。ソフト・コモディティとは、小麦、小豆、コーン、砂糖、綿花など農産物。これに対して、原油、金、銅などの鉱物資源や原油を"ハード・コモディティ"と呼ぶが、こちらは、お隣りオーストラリアの強みとなっている。こうしたなか、景気に左右されない需要を持つソフト・コモディティに軸足を置いていることが、ニュージーランドの好調の理由なのだ(※表3)。

表3 ニュージーランドとオーストラリアの主な輸出品目(2012年)

そしてニュージーランドの酪農製品の強さの秘密には、同国最大の企業である「フォンテラ社」の存在が大きい。

ニュージーランドを支える「フォンテラ社」

フォンテラ社は、ダノン(仏)、ラクテル(仏)、ネッスル(スイス)についで、世界第4位の乳業メーカー。 生乳取扱量は世界一(2200万トン)で、日本の総生乳生産の約3倍もある一大企業だ。オートメーション化が進み、バターや脱脂粉乳、粉ミルクなどの生産では世界一のスキルを持つほか、グローバル化も推進。

フォンテラの本社ビル

ニュージーランド以外にも、オーストラリア、中国、南米などで、 牧場経営から乳製品の生産、販売まで出掛けている。

同社の発展がニュージーランドの経済成長の原動力といっても過言ではなく、2013年の売上高は186億NZドル、約1兆5000億円にものぼる。

地理的に近いことを生かし、アジア各国の成長の取り込みも

もともと乳製品の需要が大きいのは欧米諸国だが、フォンテラ社の大きな輸出先は中国やアセアン諸国。特に中国は経済発展に伴い、食卓が急速に欧米化し、チーズ、牛乳やバターといった乳製品の需要が伸びている。ニュージーランドから中国への輸出量は2008年と比較すると2013年は約8倍弱となっており、中国の全体の乳製品の輸出量の85%を占める。

経済の減速が伝えられる中国だが、食料に関しては早々需要が落ちるものでもない。

ニュージーランド政府は、1983年にオーストラリアとの間で経済緊密化協定(CER)を締結以来、アジア太平洋諸国との自由貿易協定(FTA)の締結を積極的に推進している。中国が先進国と初めて自由貿易協定を結んだのがニュージーランドであり、台湾が国交のない国と初めて自由貿易協定を結んだのもニュージンランドだ。現在、TPPも強力に推進しており、これがまとまれば、フォンテラ社を中心とするニュージーランドの酪農製品はさらにその輸出量を拡大するのは間違いない。

<著者プロフィール>

酒井 富士子

経済ジャーナリスト。(株)回遊舎代表取締役。上智大学卒。日経ホーム出版社入社。 『日経ウーマン』『日経マネー』副編集長歴任後、リクルート入社。『あるじゃん』『赤すぐ』(赤ちゃんのためにすぐ使う本)副編集長を経て、2003年から経済ジャーナリストとして金融を中心に活動。近著に『0円からはじめるつもり貯金』『20代からはじめるお金をふやす100の常識』『職業訓練校 3倍まる得スキルアップ術』『ハローワーク 3倍まる得活用術』『J-REIT金メダル投資術』(秀和システム)など。