ニュージーランド航空は、世界で初めてとなるボーイング787-9を受領した。これは787ドリームライナーの胴体を約6m延長して座席数を増した最新モデルで、エコノミークラスならば約40席多く、また、床下の貨物コンテナも8個多く搭載することができる。ニュージーランド航空は787-9を10機発注しており、10月からニュージーランドのオークランドとパース(豪)を結ぶ路線に投入。11月には成田線にも就航させる予定である。

世界初の787-9には、ニュージーランドのナショナルカラーである黒を全面にデザイン。ニュージーランド航空では、各機種の特別な機体だけを全面黒にしている

またニュージーランド航空は、787-9の導入に伴って機内のシートなども一新した。今回はボーイング社の工場がある米ワシントン州エバレットからオークランドへのデリバリーフライトに同乗する機会を得て、その快適さをひと足早く体験することができた。

日本製複合材料により大幅な軽量化を達成

昨年4月にオープンしたボーイング社デリバリーセンター。ここからオークランドに飛ぶ

787の最大の特色は、従来の旅客機よりも燃料消費が約20%も少ないということだ。高騰する燃料費は旅客機の運航費の約半分を占めるほどになっている。それを2割も削減できる787は極めて魅力的であり、ボーイングの歴代ワイドボディ旅客機の中でも記録的なペースで受注を伸ばしている。

787がこれほど燃料消費を削減できたのは、高効率の新型エンジンに加えて、軽量強固な複合材料の多用により機体を軽量化できたからだ。それまでの旅客機は主にアルミ合金で作られており、複合材料の使用率は767で3%、777でも11%にすぎなかった。それが787では一気に50%に増加したのである。

それでもまだ半分と思うかもしれないが、例えば発砲スチロールの模型飛行機を想像してみればいい。小さくとも重いモーターや電池を組み込むと、機体全体を発砲スチロールで作っても重量比は50%程度になってしまう。787も同じで、重いエンジンや脚を除いた機体のほとんどは複合材料になっていると考えてよい。

複合材料の主体は炭素繊維を樹脂で焼き固めたCFRP(炭素繊維強化プラスチック)で、原料は日本の東レによって独占供給されている。またCFRPは金属と違って腐食しない(さびない)ため、膨大な手間と費用がかかる腐食対策も不要となっている。787は燃料費だけでなく、こうした維持整備コストも低く抑えているのである。

787-9の高性能を支えるロールスロイス・トレント1000エンジン。787-8用よりもさらに燃費が向上している

経済性だけでなく快適性も追求した新型機

787の経済性は航空会社には極めて魅力的だが、それだけで乗客にとっても魅力的であるとは限らない。しかし787は乗客の快適性にもよく配慮した旅客機となっている。そのひとつが機内環境だ。

旅客機が飛ぶ高度1万2,000mの上空では、気圧は地上の5分の1以下となる。そのままでは人間は生きることができないので、機内には圧力をかけて高度2,400m相当の気圧になるようにしている。さらに地上に近い気圧とすればより快適だが、そのためには高い圧力に耐えられるよう胴体を強化しなければならず、重量が増して性能が低下してしまう。

787は快適性も追求し、窓は従来の旅客機よりも約1.5倍大きくした

しかし、炭素繊維を使った787ならば、さほどの重量増加なしに胴体を強化できるため、機内高度を1,800m程度に抑えることができた。また、787の窓は従来の旅客機よりも約1.5倍も大きく開放的だが、これも炭素繊維ならではといえる。従来の旅客機ではやはり機体強度の問題から窓をあまり大きくすることができなかったのだ。

もちろん炭素繊維を使っても機内高度や窓を従来並みにすれば、さらに機体を軽く作ることができるだろう。しかし787では、経済性だけでなく乗客の快適性も大きな目標とされた。これは航空会社にとってだけでなく、乗客にとってもドリームライナー(夢の旅客機)なのである。

新型機のローンチカスタマーとなる技術力

セレモニーでスピーチするニュージーランド航空のロブ・マクドナルドCFO(最高財務責任者)

787の標準モデルである787-8は、2011年10月に日本のANAが就航させた。しかし、新技術を意欲的に盛り込んだだけに開発は難行し、初就航は当初の予定よりも3年半も遅れ、就航後もバッテリー出火問題により半年も運航が停止された。現在ではこうした問題も解決されているが、華々しいローンチカスタマーにはこうした問題と向き合う覚悟と技術力が要求される。

787-9は基本的には787-8の胴体を延長しただけの機体だが、やはり新型機としての難しさはある。それでもニュージーランド航空が世界で最初に787-9を発注するローンチカスタマーとなったのは、もちろん自信があったからだろう。

それは、「世界中のいかなる主要都市からも遠く離れている」というニュージーランドの地理も関係している。とりわけかつての宗主国であるイギリスは地球の反対側であり、これだけの長距離を安全に飛ぶために、極めて高い技術力が要求されてきた。そうした厳しい環境で鍛えられた航空会社からこそ、新型機を世界で初めて使いこなすことにも不安はないのである。