毎年この時期になると気になってくるのが、新しいiPhoneの話である。ここ数年、iPhoneは秋に発売されており、7月ともなればリーク情報なども出揃ってくる時期なのだ。

iPhone 6はiPhone 5sからディスプレイサイズや端末の大きさが変更になると予想されており、2年ぶりの大型モデルチェンジが期待できそうでワクワクしている。

その一方で、もうひとつ気になることがある。

それは、iPhoneのケースなどを販売するアクセサリメーカーの動向だ。

新型のiPhoneがどんな形になるのかは噂レベルであり、まだ誰も正確なところを知らないし、Appleも教えてくれないはず。そうなると、iPhone 6のケースを作るのは、iPhone 6が正式に発表になるまでできないということになる。

……なのだが、実際のところは、iPhone本体発売と同時にキャリアショップやアクセサリーショップに新型に対応したケースが並ぶのである。いったいどういう魔法を使っているのだろう。

なぜ情報がないはずの新型iPhone用ケースを開発できるのか。秋葉原のiPhoneアクセサリー専門店「SHOWCASE」や、同名のオンラインストアを運営する株式会社KODAWARI代表取締役・田村洋祐氏に話を伺った。

田村洋祐 株式会社KODAWARI代表取締役。1985年生まれ。2006年に渡米、帰国後はSoftbankでの勤務を経て、2010年2月に株式会社KODAWARIを設立。PATCHWORKSほか、複数のスマートフォンアクセサリーブランドの日本総代理店として、現在に至る。2014年4月からは、秋葉原の直営店SHOWCASEで取り扱い全商品の無償永久保証サービスを開始し注目を集めた。永久保証サービスにおいては、ユーザーの過失による落下やケース割れ、フィルム破損等においても交換ができる。

――さっそくですが、そろそろ次期iPhoneの噂が聞こえてくる頃ですよね。この時期になると、機種変更を見据えてiPhoneケースの売れ行きも落ちてくるのでは?

田村 iPhoneケースがというよりも、iPhone自体が今は売れてないですよね。さすがにiPhone 5s/5cも発売からかなり経ちますし、値下げもありません。以前はSoftBankが1月にiPhoneを値下げしたことがあり、そのときは売れたんですけどね。今回はそれもないので、iPhone 5sそのものの売れ行きが落ちている状態です。そうなると、アクセサリ関連の売上でダメージを受けるのはキャリアショップなんですよ。

――それはなぜでしょうか?

田村 キャリアショップのiPhoneアクセサリは、iPhoneを契約したお客さんがその場で購入することがほとんどだからです。iPhoneが売れなければ、キャリアショップ内のアクセサリも売れなくなります。逆に、雑貨屋やモールなどにあるアクセサリショップの売上は、本体の売上減と比較してあまり落ちていない印象ですね。

――なるほど。しかし、iPhone 6で形状が変わると噂されている今、新製品は投入しづらいですよね。となると、この時期に御社では何をされているのでしょうか。

田村 弊社は海外から厳選したiPhoneアクセサリをブランドのコンセプトごと輸入して広めていくという輸入代理業と、株式会社KODAWARIの取扱製品を店舗でセレクトショップとして販売する小売業の二つの業態を持っているのですが、今は輸入代理店としてはとても忙しい時期なんですよ。というのも次のiPhoneのアクセサリについてメーカーはすでに開発のスケジュールを立てていますから、僕たちもどうそれを販売していくかの準備を進める時期なんですね。

――メーカーはすでに開発を進めているのですね。ということはAppleから新型iPhoneの情報が伝わっているということですか?

田村 いえ、Appleから情報はもらえませんね。

――えっ。そうなると、形状が変わってしまう新型iPhoneのケースは作れないのでは……。

田村 Appleからは漏れないのですが、AppleがiPhoneを生産する工場などからCAD情報などが漏れたりすることがあるんですよ。メーカーはそれを購入して開発を進めます。大手だといろんな工場から手に入るだけ全部を買うこともあるみたいですよ。

――なるほど、工場から漏れるとなると、情報の信ぴょう性はかなり高そうですね。

田村 今は少なくなりましたがフェイク情報も多いですよ。正確な情報ではないですし、数種類のデータが出回ったりします。CADにしてもあくまでも設計図なので、たとえばセンサーの場所などはわからないんです。また、もちろんメーカーがそうやって情報を買っているのではなく、お金を出さないメーカーもたくさんあります。そういうところには工場の営業がケースを売りにくるんです。データではなく、ケースを、です。

――工場がケースの完成品を売り込んでくるんですか!?

田村 ええ。OEMというやつです。そこで購入して、自社の工場に持って行って、パッキングして、ブランド名を入れて、iPhoneの発売に間に合わせるわけです。買い取る側としては特に開発もデザインも必要ないのです。

――不確かな情報をもとに、iPhoneケースのような精密な商品を作らないといけないのは大変ですね。

田村 だからなのか、最初に発売されるケースはどれも多少アバウトなデザインのものが多いですよ(笑)。ただし、うちは別のルートがありまして、まったく違う開発の仕方をしています。詳しくは言えませんが、今年はかなり精度の高いものをラインナップに加えてiPhoneの発売に間に合わせられると思いますね。

――KODAWARIさんは高級なiPhoneケースも含めて、高い品質のアクセサリを厳選して販売されているわけですが、今回も最初から高級・高品質ケースを販売される予定ですか?

田村 先程申し上げたように、最初はどうしても不確かな情報をもとに開発するという事情があるので、普通はいきなり高級なケースは作りにくいです。しかし、弊社では今回そこに挑戦していきます。

――期待しています! しかし、開発から発売までぜんぜん時間がありませんね。

田村 そうなんです。情報ががらりと変わったりするので、臨機応変にトップダウンですばやく方向転換するような仕組みが必要ですね。機動力のある人間が率先してやっていかないとダメなマーケットです。iPhoneアクセサリの市場ってね、大手でも潰れることがあるんですよ。逆に後発でもチャンスがあるんです。

――そうなんですか? 先行者有利な市場かと思っていました。

田村 たとえば、僕らのブランド「PATCHWORKS」は完全後発です。でも売上を伸ばしている。実は売上を伸ばしている会社って後発が多いんです。なぜかというと、売上が上がった会社は資本を投下して巨大化していきますが、そうすると意思決定が遅れ、品質が追いつかなくなり、新しく出てきてちゃんと開発をやっているベンチャーに取られてしまうんです。そうこうしているうちに大量の返品を食らって倒産したり買収されたりします。これは実際にアメリカで起きていることです。日本では大手メーカーさんもうまくやっていて、ほとんど大丈夫なんですけどね。

――新興市場の難しいところですね。ところで、話をがらりと変えて、田村さんが今後iPhone以外のスマートガジェットなどで注目されているものはありますか?

田村 Pepperくんですね。

――SoftBankが開発したロボットですね。

田村 発表のときは鳥肌が立つほど興奮しました。Pepperくんで重要なポイントは二つあります。ひとつは、「PepperSDK(ソフトウェア開発キット)」が配られることで、開発者が自由に参加し、アプリを開発できること。第三者がアプリを開発できることで、可能性は無限に広がります。

――iPhoneがまさにそうでしたね。

田村 もう一つは、20万円ほどで販売することです。Pepperくんは部品代だけで明らかにその値段を超えているはずです。それを組立製品として20万円なんて金額で売ることは通常ありえないです。なぜそれをやるかというと、ビジネスモデルが全く違うんですね。安価にすることで大量に売り、開発者がアプリを開発する意欲をかき立てるのが目的の一つでしょう。より広まればより開発者も増える。開発者が増えればより広まる。この相乗効果を見込み、最終的には通信料やアプリストアの売上手数料で利益を取るんです。iPhoneは世界を変えましたが、Pepperくんも世界を変える可能性があると見ています。

――未来のプラットフォームになりうる可能性を秘めているというわけですか。

田村 弊社でも間違いなく購入するでしょうし、僕も自宅に置くと思います。なぜかというと、圧倒的にコスパが違うんですよ。たとえば会社のゲートに顔認識をして挨拶できるロボットを置くとしますよね。普通は、そのロボットはそれしかできないんです。ところが、Pepperくんでは第三者がアプリを開発することで、できることが無限に広がります。アプリを使い分けることで複数のことをこなせるようになるんですよ。

――iPhoneが時計であり、カメラであり、ゲーム機であるのと同じように、ですね。

田村 そうです。あとこれは余談ですが、Pepperくんに服を着させると面白いかもしれませんね。今のところ服は認識しないようですけど、服ごとに認識させるためのタグを埋め込んで、着たことをPepperくんが認識できるようなチップアクセサリがあると面白そうです。「その服似合ってるね」って言っても会話にならなかったらつまんないですからね。でも僕はたぶんやらないので、誰かがやってくれたらいいな(笑)。

――iPhoneとはまた違ったところでアクセサリ市場の可能性が伸びそうですね。

田村 今って、アプリ連動型のアクセサリが少ないんですよ。先日アプリ連動型のヘリコプターを買ったんですけど、だいたいリモコンとして使うか、発信機として使うかしかない。そこで今後はPepper連動型とか、Pepperくん以外のロボットと共用できるとか、そういうものが出てくると面白いですね。すぐには無理かもしれませんが、今後もしかしたら量販店に並んでいる掃除機に「Pepper対応」とか書かれたりする時代がくるかもしれません。

――最後に、先日スタートされた「永久保証」サービスのその後の反響についても教えていただけますか。

田村 それが、嬉しいことに良い声しかないんですよ。また、お客様が満足しているか満足していないかの違いがわかるという、思わぬ副次効果も得られました。

――それはなぜわかったのでしょうか。

田村 永久保証があると、お客様も気兼ねなく壊れたりしたときに持ち込まれるのですが、それはつまり「その商品にどれだけのお客様が満足したか」という数字でもあるのです。これは日本人の気質だと思うのですが、「自分で落として割った」というような場合は来ない方が多いんですよ。なぜかというと、自分自身に責任があると思われているからなんですね。逆に、「身に覚えがないのに壊れた」というような場合は来られます。この違いはお客様の満足度を測る上で非常に大きいです。

――なるほど。品質を売りにしているKODAWARIさんだからこそできることですね。

田村 そもそもiPhoneアクセサリ市場は最近できたばかりの業界で、最初は秩序もありませんでした。粗悪品も多かったですし、充電器なのに充電できないとかありましたからね。普通あり得ませんよね? 充電器なのに充電できないんですよ(笑)。そんな中で安心をどうやって届けるか。「永久保証」をつけることで、売る本人が自信をもってオススメしているんだということを伝えていきたいですね。

――ありがとうございました。

形状が変わると予想されるiPhone 6の発表を控えて、慌ただしく動き始めたアクセサリー業界。異例の「永久保証サービス」を打ち出し、高品質なアクセサリーを販売する株式会社KODAWARIが、どんな商品を準備してくるのか。iPhoneアクセサリー市場の動向から目が離せない。