2001年に「全話視聴率30%超」の伝説を残したドラマ『HERO』(フジテレビ系毎週月曜21:00~21:54)が帰ってきた。放送前から「キムタクとフジの威信を賭けた続編」として大きな話題を集めていたが、初回視聴率はいきなり26.5%をマーク。絶好調のNHK朝ドラ『花子とアン』を上回る今年ナンバーワンの視聴率を叩き出し、順調なスタートを切った。同一俳優による13年ぶりの続編は、ドラマ界にとって異例のことだけに、「何が変わらなくて、何が変わったのか?」初回放送から検証していきたい。

『HERO』でヒロインを務める北川景子

時間を超えた久利生公平

13年ぶりでも、放送時期が冬から夏になっても、木村拓哉演じる久利生は何も変わっていなかった。服装こそダウンジャケットからポロシャツやTシャツになったが、「自分で確かめなければ気が済まない」"お出かけ現場捜査"や、そのためなら周りの空気を読まないスタンスは健在。つまり、いい意味で進歩していなかったのだが、それにしても13年前の役柄を"ほぼ完コピ"できてしまう木村拓哉の"見た目力"はスゴイ。「キムタクは年を取らない」を自ら証明した形になっていた。

終盤では、「真犯人を逃がしたとしても、無実の人だけは絶対裁判にかけちゃいけない」のポリシーもバシッと決まり、一方で通販マニアの顔もバッチリ。さらに、キャラのバージョンアップを意識してか、通販番組MCのモノマネも飛び出す自在ぶりを見せていた。

前作ファンが気になってしまうのは、松たか子演じる雨宮との関係もしっかりふれていたのは好印象。恋人同士になれたが、現在は「全部が全部うまくいくわけないでしょ」(久利生)という状態とのこと。雨宮は念願の検事になれたが、そのことで離ればなれになってしまったようだ。ただ、「こんなんじゃ絶対ツッコまれるって。あいつ言ってくるんだろうな~『もうあきらめちゃうんですか?』って」(久利生)と話すように、心はつながっている様子。終盤にかけて雨宮の再登場や進展はあるか。

現代版のキャラドラマとして進化

続編で最も変わったのは、城西支部のメンバーたち。小日向文世演じる末次と、八嶋智人演じる遠藤の事務官コンビを除いて総シャッフルされたため、「松たか子や阿部寛がいない『HERO』なんて……」と不満の声も大きかったが、なかなかどうして。北川景子、杉本哲太、吉田羊、濱田岳、松重豊ら新キャストの存在感は全く負けていない。

というより、むしろキャラクターの棲み分けが明確になり、あれだけの人物がひしめき合いながら、蚊帳の外はゼロ。末次のどん臭さ、遠藤の合コン好きと軽口は、より強調され、杉本哲太演じる田村検事の「特捜部に戻りたい」上昇志向、吉田羊演じる馬場検事の毒舌独身キャリアウーマン、松重豊演じる川尻部長の暴言と後悔を繰り返す小心者ぶりなど、いずれも苦笑い必至の愛すべき人物像ばかりだった。

各キャラの輪郭と上下関係を強調した分、やり取りはさらにテンポアップ。法廷コメディ『リーガルハイ』を思い起こさせるスピーディーなセリフの応酬が見られ、みんなでバナナを食べる息抜きカットや、「な~に~やっちまったな!」のパロディも含めて、現代風のキャラクタードラマに仕上がっていた。ちなみに、初回の犯人だった演技経験の浅い森山直太朗だけが、その輪に入れなかったのは、当たり前なのかもしれない。

「ただの美人ではない」北川景子の魅力爆発

新メンバーの中で、最も目立ち、アクセントになっていたのは北川景子演じる麻木。「私は人気ナンバーワンなんです。みんな担当事務官にしたがってるんだから。私には凛とした気品があるみたいです」と、自他ともに認める美人事務官ながら、随所にキレ癖が見られた。

怖い顔でガンを飛ばし、やたらバイクに詳しく、「いいかげんにしな!」の怒声、「殴った理由なんていちいち覚えてられませんよ。私だって……」「盗めばいいだけじゃん」の失言など、元ヤン要素がてんこ盛り。前パートナーの雨宮は、超堅物だっただけに久利生とのやり取りは真逆の面白さがあった。

そもそも、「ただ美人なだけではなく、毒があふれてしまう」キャラは、北川景子の十八番。映画化もされ、演技への評価が高い『悪夢ちゃん』の武戸井彩未役がまさにそうで、「ただの美人」を演じるときより魅力があふれていた。温厚な久利生と激情家の麻木は、いいコンビになりそうだ。

カメラワークで見えた『HERO』らしさ

その他、変わらなかったものとして挙げたいのはカメラワーク。法廷をイメージさせる正面アップとシンメトリーの多用。エレベーター内で見上げるアングル、料理のふかんショットなどを多用することで、「『HERO』が帰ってきた!」ことを実感した人は多かっただろう。

また、あの何ともインチキくさい通販番組『Rocky's Online Shop』もファンにはうれしいところ。初回は『アブサイクロンX』『クラブワイパー』なる珍品が飛び出したが、次回以降も楽しみだ。

そして、田中要次演じる『St.George's Tavern』のマスターは、久利生以上に完コピだった。見た目も「あるよ」しか言わないキャラも、2人のやり取りだけを見ていると前作なのか新作なのか分からないレベル。それだけに、名酒『くまごろし』で再会を祝ったシーンは、続編ものにしか出せないような静かな感動があった。


けっきょく久利生以外の検事3人も起訴しなかったのは、「ビビったから」ではなく、彼と同じHEROの魂を持っているから。「バラバラなように見えて、正義感と団結力がある」という前作メンバーがファンから愛されたポイントも無事にクリアしていた。「変えなかったところと、変えたところ」のバランスは上々で、続編も「見てよかった」と思わせるものが確かにあった。

■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ評論家、タレントインタビュアー。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴する重度のウォッチャー。雑誌やウェブにコラムを提供するほか、取材歴1000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書は『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。