寒い冬に重宝するのがアツアツの麺類だ。中でも土鍋でぐつぐつ提供される「鍋焼きうどん」は最高のあったまりフード。そんな冬専用といってもいいこの一品が、愛媛県の松山市ではなぜか1年を通して大活躍しているのだという。一体どんな「鍋焼きうどん」が待っているのか、現地でリポートしてみた。

松山の「鍋焼きうどん」とは!? 写真は「みなと食堂」の鍋焼きうどん

昭和の時代からある温かい味

最初に足を向けたのは、老舗中の老舗「アサヒ」だ。ココは昭和22年(1947)創業の、鍋焼きうどんオンリーの店だという。聞くところによると松山の鍋焼きうどん店は、「アサヒ」と「ことり」が両巨頭。しかもこの2店、50歩ほどの距離しか離れていない。

インターネットで「鍋焼きうどん松山風」と検索すると、大抵ヒットするのはこの2店で、残りはこれに追随する店舗2、3店がひっかかることもあるといった感じだ。

さて、そのアサヒはどんな店かというと、かなりのレトロな趣きで一瞬たじろぐ。出てきた「鍋焼きうどん」は、これもなんとも時代を感じさせる小ぶりのアルミ鍋で調理されている。フタを開けると、うどんの上に牛肉の煮物、油揚げ、ネギ、ナルト、カマボコといった具材が敷き詰められて昔懐かしい雰囲気だ。

ホカホカの湯気が立ち込める中、まずはつゆをひと口、ズズズ。うん、シンプルで甘めのつゆだ。そして麺は意外と柔らかい。やさしい味わいがじわじわっと口の中に広がる。ポイントは牛肉の煮物。シンプルなつゆに肉のエキスが染み出して、じんわりとコクを出している。

店舗「アサヒ」の「鍋焼きうどん」は500円

店内には、「まだ甘い物が貴重だった昭和22年に、曽祖父の考案でアサヒの鍋焼きは誕生しました」という張り紙が。「時代が変わっても変わらないものを提供すること。それをいつも心がけています」と言うのはアサヒの川崎哲子さん。ちなみに「鍋焼きうどん」は500円。この時代にワンコインで食べられるありがたさもうれしい。

●information
アサヒ
愛媛県松山市湊町3-10-11

讃岐うどんとは違う柔らか麺

続いて訪れたのは「みなと食堂」。こちらは創業48年の老舗で、「鍋焼きうどん」は580円。さきほどの店と同じく、料理はアルミの鍋で出てくる。

ちなみに、四国というとコシの強い讃岐うどんのイメージが強い。でも、松山の「鍋焼きうどん」は、どちらかというと関西風のやわらかタイプといっていいだろう。つゆは甘いが、北海道産昆布やサバ、アジ、いりこなどから取ったダシなので、魚介の風味が強い。更に、うどんはつゆをよく吸って、いい意味でくたくたになった柔らかさがある。

店舗「みなと食堂」の「鍋焼きうどん」は580円

既に「これこれ、この味だよ」と思わせる恐ろしい中毒性。「四国のうどんはコシの強い讃岐うどんのイメージが強いけど、松山は柔らかいうどんが普通だよ。それに柔らかい方が、煮込みに適しているんだ」と2代目主人の松岡秀樹さん。

アルミの鍋に関しては、「鍋焼きうどんが誕生したのは、戦後の物のない時代だったから、丈夫で長持ちするアルミ鍋を使うようになったんだと思うよ」とのこと。

●information
みなと食堂
愛媛県松山市堀江町1759

ダシにとことんこだわった一杯

最後は、あえて松山を離れて郊外の店にターゲットを絞ろう。向かったのは、松山から遠く離れた伊予郡砥部町の「なかまる」だ。「うちでは、自分が食べたいうどんを作っているんだよね」と、店主の中村洋一さん。

「鍋焼きうどん」は550円。素材にはトコトンこだわっているそう。普通はシンプルに昆布と煮干しでダシを取るものだが、ここでは、利尻昆布、地元のイリコ、干しシイタケ、そして"あるところ(ヒミツ)"から仕入れたカツオブシでダシを取っているという。

店舗「なかまる」の「鍋焼きうどん」は550円

実食してみると、なるほど、甘いつゆや柔らかめの麺は確かに松山風だ。しかし、全体としては深みを感じさせるつゆが印象的で、柔らかくてもくたっとはしてない麺が、ちゃんと存在感を放っている。中村さんは、「夏場でも、ぜひ鍋焼きうどんを食べて欲しいですね」と爽やかな笑顔を見せてくれた。

●information
なかまる
愛媛県伊予郡砥部町川井868

愛媛を訪れる際は、たとえ暑い夏の季節だったとしても、現地ではアツアツのうどんを汗をかきつつ食してみてほしい!

※記事中の情報・価格は2014年4月取材時のもの。価格は税込