多くのメーカーが、試作品づくりに利用している3Dプリンタ。そこから生み出される造形物の品質は大幅に向上し、いまやDDM(Direct Digital Manufacturing)、つまりプリントアウトされたものを、そのまま最終的な製品として利用できるまでになっている。

アルテック株式会社 取締役 執行役員 第2産業機械事業部長 兼 デジタルプリンタ事業部長 兼 情報マネジメント営業部長 陶山(すやま)秀彦 氏

進化を続ける3Dプリンタは今後、産業界にどんな影響を与えていくのか、そして企業は3Dプリンタをどう利用すれば、どのようなベネフィットを得ていくことができるのか ―― 3Dプリンタ・メーカー大手、ストラタシス社の日本販売代理店であり、産業機械の輸入商社であるアルテック株式会社 取締役 執行役員 陶山(すやま)秀彦氏に、3Dプリンタ先進国であるアメリカの最新動向を交え、その展望を語ってもらった。







「物珍しい先進技術」から、「実用的な工法」へ

取材場所となったのは、第25回 設計・製造ソリューション展(東京ビッグサイト6月25日~27日開催)に、ストラタシスとアルテックが共同出展したブース。

「3Dプリンタによる造形が物珍しいという時期はもう過ぎました。これからは『何のために使うのか』が問われます。今回のブースもそれをコンセプトにしました」ブースの一角に設けられたステージでは、3Dプリンタでつくられたバイオリンによる生演奏が行われ、通りかかる人々の耳目を集めていた。DDMによるバイオリンでエンターテイメントを成立させ、集客という目的を果たした実例と言えよう。

ボディは、ほぼプリンタから出てきたままというバイオリン

3Dプリンタで製作されたバイオリンの生演奏


このイベントに先立って、陶山氏はアメリカ各地でストラタシスの3Dプリンタがどのように利用されているのか、またストラタシス社の一部門であるDDMサービスを手がけるレッドアイの実績などを、1週間にわたって詳細に視察してきた。そして「アメリカでの3Dプリンタ活用は、これまでのラピッド・プロトタイピング(迅速な試作品づくり)から、次のステップに踏み出そうとしています。日本の3~4年先を行っていることを肌で感じました」と語った。アメリカでは多品種・小ロットという特性を活かし、3Dプリンタ活用の場は大きく広がっているという。

活用の場は開発部門だけでなく、生産部門にも広がる

「とある自動車工場では、自社で導入した3Dプリンタで治具(部品や工具の位置合わせなどに使う器具)の原型をつくっていました。木材で原型をつくるよりも簡単で、大幅なコスト削減と短納期を実現できたと聞きます」

治具は、効率的で正確な大量生産に欠かせないものだが、治具そのものを生産するためにコストや時間をかけるのは非効率だ。3Dプリンタがその問題の解決に大きく貢献し、ラピッド・ツーリング(道具づくり)を実現した好例だろう。

この事例でもうひとつ注目すべきは、製品の開発部門ではなく、生産部門、しかもその最前線である“現場”の効率化のために、3Dプリンタが活用されているという点だ。「日本ではまだ、R&D部門やデザインセンターといった部署が、製品のプロトタイプづくりに使うことがほとんどですが、アメリカでは部署という壁を越えて、全社的に3Dプリンタを活用するところが増えてきています」

多品種・小ロットでも低価格という特性が、各分野での活用を促進

アメリカでは自前の3Dプリンタを持たない企業でも、DDMの活用が進んでいる。DDMをサービスとして請け負っているレッドアイには、月に約3,000件もの相談があり、その半数近くが受注に結びついているという。レッドアイはこの膨大な仕事に、100台以上のプリンタを24時間稼働させることで対応しているが、作業のほとんどがコンピューターによって制御されているため、オペレーターはわずか2人にすぎない。

大量受注への対応力を持ちながら、大規模な工場のような設備は不要、人件費も最小限という仕組みが整っているため、製作費は安く抑えられるのだ。発注の多くは航空業界からのもので、他に自動車、農業機械、医療機器なども多い。どれもパーツには高い精度が要求されるものだが、何千万個もの需要はない。だからこそ、データをそのまま再現できる正確さと、小ロットでも低価格で生産することができるDDMサービスが重宝されている。

「かつては利用できる樹脂の種類や、強度を不安視される方もいらっしゃいました。しかし現在のFDM※式プリンタは、ABSやポリカーボネート、ナイロンをはじめ、熱や衝撃に強いULTEMのように飛行機や車両に使えるものまで、利用できる樹脂の幅が広いのが特長で、DDMにも適しています」※FDM:熱溶解積層法。ストラタシス社が商標・特許を保持する造形技術。

レッドアイで製作された車のバンパー

近い将来、日本にもDDMサービスビューローが?

これから日本にも浸透していくと考えられるDDMだが、アルテックではまず、自社工場・取引先の工場で使用するパーツや、そこで製作する産業用機械のパーツ製作にDDMを活かしていくことを検討している。

「弊社の他部署も含め、お付き合いのある取引先の工場だけで全国に650ヶ所以上ありますので、導入メリットは大きいと考えています。産業機械の専門商社としての視点からDDMというものを把握した上で、将来的にはサービスビューローとして、私たちのお客さまに優れたサービス・製品を提供できるようにしていきたいですね」

最後に陶山氏は身近な例を挙げて、DDMが根付いた社会について語ってくれた。「電化製品などを買うと、パーツの3Dデータを焼いたDVDが付いてくるわけです。もし壊れたときはそのDVDを持って近所の3Dプリントショップに行くと、翌日には交換用のパーツができあがる…というようなサービスが展開されているかもしれません」

これが実現すれば、消費者はお気に入り製品を、修理しながらずっと使い続けることができるようになる。一方メーカーは、現在のように数年間にわたってパーツの在庫を持ち続けなくて済むので、ストック用のスペースや管理費が不要になり、その分を新たなビジネスに割り当てられるようになるだろう。

「DDMがもたらす恩恵の裏には、いくつもの課題があることは否めません。しかし、かつてインターネットやパソコン、デジタルカメラなど、産業構造を変えてしまうような製品の登場にも社会が対応してきたように、DDMもいずれ当たり前の技術・サービスとして、私たちの生活に、そして仕事に欠かせないものとなるでしょう」

その時のためにもDDMの活用方法や、普及時の対応についてロードマップを描いておくことが、企業の当面の課題になると言える。

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46色/マルチ素材に対応3Dプリンタの新たな適用分野とは?


46色/マルチ素材に対応した米Stratasysが先日発表した『Objet500 Connex3』は、3Dプリンタの適用範囲を大きく広げる製品として大きな注目を浴びています。

では、Objet500 Connex3の新たな用途としては、具体的にどういったものが考えられるのでしょうか。

マイナビニュースでは、その詳細について、同製品の販売代理店を務めるアルッテックに詳しく伺いました。こちらの記事(およびダウンロード資料)にて紹介していますので、ぜひともご一読ください。

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