ソニーのテレビ事業を担う新会社「ソニービジュアルプロダクツ株式会社」が、2014年7月1日に発足するのにあたり、6月30日、同社代表取締役社長に就任する今村昌志氏が、新会社の事業方針などについて本誌の取材に応じた。「新たなテレビ事業および新たなコンシューマー事業に組み立て直していくのが新会社の役割である」と語った。

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ソニービジュアルプロダクツが入居するソニ-シティ大崎

7月1日から営業を開始するソニービジュアルプロダクツは、ソニーの100%出資子会社で、資本金は1,000万円。本社は、ソニ-シティ大崎内(東京都品川区大崎2-10-1)に置き、従業員数は約750人。代表取締役社長に就任する今村昌志氏は、ソニーの業務執行役員SVPホームエンタテインメント&サウンド事業本部長として、2011年8月から約3年間に渡り、テレビ事業を担当してきた。今村氏は7月1日付で新会社の社長とともに、ソニーのグループ役員に就任することになる。

世の中の流れという水平の糸に、ソニーの縦の糸をどう織り込むか

今村新社長は、「私は新会社において、"繊細なタペストリー"を編んでいきたいと考えている。水平型の世の中の動きが横糸だとすると、ソニーの強みは縦糸。これを織り込んでいくことで、繊細で強い布を作っていく」と切り出した。

「コモディティ化が進む中で、ソニーはややもすれば、自分たちの技術や自分たちの主張で垂直型のビジネスを展開する傾向がある。昨今の世の中の流れをみると、それだけでは事業は成立しない。一方で、世の中の水平型の流れにすべてを飲み込まれてしまっては、ソニーの差異化が発揮できない。この複雑な仕組みのなかで、世の中の流れである水平の糸と、ソニーが持つ縦の糸を繊細にどう織り込むかが求められている」とし、4Kへの取り組みと、先ごろ米サンフランシスコで開催されたGoogle I/Oでの取り組みを通じて、具体的な説明を行った。

7月1日付でソニービジュアルプロダクツ株式会社の代表取締役社長に就任する今村昌志氏

今村氏は「4K市場で例えれば、パネルは横軸の糸となる。ソニーは、パネルの工場を待たずに、コモディティ化したパネルに対していかに新たな価値を付加できるかどうかに集中する。パネルに新たな命を吹き込む技術こそが、ソニーの縦糸となる」と語る。「商品戦略の中で、縦糸と横糸をどうタペストリーとして編んでいくかといった取り組みがソニーの4Kになる。2K(フルHD)テレビやローエンドテレビにおいてもそれは同様で、縦糸によってソニーならではの画質を提供していくことができる」と、ソニーによる付加価値の1つが画質であるとした。

また、「Google I/Oで表明した2015年度のBRAVIAの多くのラインアップに、最新Androidとなる『L』を採用する。これも縦糸と横糸と同じであり、ソニーが新たなOSを開発することはあり得ない。世の中にある、お客様が一番便利だと感じるOSを横糸として使い、ソニーのテレビを合わせていく」と、OSは自社製とせず、あくまで付加価値の提供でソニーをアピールする姿勢を示す。今村氏は、「3年前にソニーはGoogle TVを発売したが、そのときとは環境が大きく変わっている。Googleの環境もソニーの環境も違っている。両社の狙いは、プラットフォームをベースとしたエコシステムとして協業することであり、ソニーにとっては、お客様がどのように簡便にテレビを使ってもらえるか、どのように楽しく使ってもらえるかという点で、これを採用することになる」と説明する。

赤字幅は圧縮できたが、新興国の為替変動をカバーしきれなかった

一方で、テレビ事業の黒字化については、「私は、テレビ事業を担当してから、平井一夫社長と一緒にテレビの再生計画を打ってきた。就任当時はテレビ市場が拡大成長期にあり、ソニーが確実なポジションを取るための事業戦略を敷いたが、その後、市場環境が変化するなかで、我々のオペレーション体質が重くなり、体質改善に取り組むことになった。サムスンとのジョイントベンチャーであるS-LCDの事業提携解消による柔軟な体制構築や、製造、開発オペレーション体質の改善、モデル数の削減、ロスの縮小化に取り組んだ。お客様に喜んでいただける価値をいかに作り上げるかというなかで、2013年度は4Kに力を注いできた。しかし、2013年度にテレビ事業の黒字化を達成できなかったことは、私自身忸怩たる思いがある。大変申し訳なく思っている」と語る。

一方で、「2013年度のテレビ事業の赤字は、経営のスピードは十分ではなかったという点もあるが、特にカバーできなかったのが新興国の為替損失。ドルとユーロには強い体質を持っているが、新興国への為替対応能力が十分ではなかった」と、為替変動の影響をヘッジしきれなかったことを赤字の要因の1つとする。だが「現在では、必要な固定費をかけて、自分たちでコントロールする領域を増やすことに取り組んだ。マレーシアの工場では、物流、調達、生産、サービスといった観点からモノづくりのなかに踏み込むことで、昨年と同じマグネチュードがあっても、内部で影響をコントロールできるのものとなった」と、環境変動に対する影響をある程度抑えられる体制を構築できたことを説明した。