これからの季節、冷蔵庫でキンキンに冷えたビールはたまらないですよね。チューハイやウイスキーなど、冷やして飲むお酒には氷が入っているものですが、なぜビールには入っていないのか、ご存知ですか?

記者自身、「ビールに氷を入れてはいけない理由」を教わった記憶も特にないですが……。しかし、海外ではビールに氷を入れる飲み方がむしろ主流という国もあるようです。なぜビールに氷を入れないのが当たり前になったのでしょうか? そもそもビールに氷を入れるのはアリ? ナシ? 気になる理由を、キリンの現役社員である"ビール博士"に伺いました。

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氷は「温度、味、炭酸」の3点に影響

今回お話を伺ったのは、『うまいビールの科学 注ぎ方によって味が変わるって本当?黒ビールとふつうのビールの違いはなに?』(サイエンス・アイ新書/ソフトバンククリエイティブ刊)の著者でもある、"ビール博士"ことキリン広報担当の山本武司さん。ビールに氷はアリ? ナシ? 教えてビール博士!

――ビールに氷を入れると何がどう変化するのですか?

山本さん「主に温度、味、炭酸の3点で変化が起きます。まず温度は、氷を入れなかった場合に比べて下がります。次に味ですが、氷がとけることで味が薄まります。そして氷をビールに入れるとき、あるいは氷の入ったグラスにビールを注ぐときに通常以上に泡立つので、炭酸が抜けやすくなります」

――単刀直入に伺います。ビールに氷を入れても良いのでしょうか?

山本さん「今申し上げた、温度が下がる、味が薄まる、炭酸が抜けるの3点をどう評価するかだと思います。お客さまの好みによって分かれるのかなと思います」

――ちなみに、ビールが一番おいしく飲める温度は何度ですか?

山本さん「これも人それぞれの好みですので一概には言えませんが、6度から8度が目安とされています。ぬるいビールではのどごしの爽快感がなく、苦味が口に残ってしまいます。かと言って冷やしすぎても、ビール本来の味が分からなくなりますし、泡もきれいに立ちません。グラスを冷やしておくのもおいしく飲むコツですね」

これからの季節を考えた場合、冷たい状態をキープすることで美味しくビールを飲めるという考え方もできますし、味が薄まってしまうから氷を入れないほうがいいという考え方にもうなずけます。味が薄まるのはハイボールや焼酎のロックでも同じことですから、「ビールに氷はダメ」というのは先入観なのかもしれませんね。

「ビールに氷」で酔いにくく、ゲップも出にくい

一方で、氷を入れることで「酔いにくくなる」「ゲップが出なくなる」といった効果があるといううわさも。翌朝早いからあまり酔いたくないという人や、上品にデートを楽しみたいという女性には耳寄りな情報ですが、果たしてその真相は? 再び、ビール博士にたずねました。

――氷を入れるとビールで酔いにくくなると聞きますが、本当ですか?

山本さん「氷によって味が薄まりますので比較的酔いにくくなります。ただし、『比較的』ですので、飲みすぎには注意してください」

――氷を入れると、ビールを飲んでもゲップがしにくくなるという説もあります。これも本当ですか?

山本さん「先ほど『氷を入れることで炭酸が抜けやすくなる』と話しましたが、炭酸含有量が減少することで、理論上はゲップが出にくくなると言えます」

――氷といえば、最近はカキ氷にビールをかける人が多いようです。おすすめのトッピングはありますか?

山本さん「それは初耳ですが、確かに『かき氷にビール』はこれからの季節には面白い楽しみ方だと思います。少しシロップを足した黒ビールがおすすめですね。ビール:シロップ=10:1程度にすると良いでしょう」

ビールに最適な保存方法は?

氷inビールの真相がわかったところで、せっかくビール博士に色々と聞けるチャンスですから、他にも記者には気になることが……。思いきってたずねてみました。

――来たる猛暑に備えてビールを買いだめしておこうと思います。保存の際、どんなことに気をつけるべきですか?

山本さん「直射日光を避けることと、高温もしくは低温の場所には置かないこと。そして激しくゆすったり倒したりといった強いショックを与えないことですね」

――強いショックを与えることでどのような影響があるのでしょうか。

山本さん「たとえば、缶ビールを激しくゆすったり倒したりすると、開栓時に泡が吹きこぼれますよね。実はビールの泡は、外へ逃げようとする炭酸ガスをおさえ、おいしさを守るふたの役割をしています。泡がなくなると、ビールが空気と触れて味が落ちてしまうのです。それに、泡がなくなると早く気が抜けてしまいます」

――高温や低温の場所がダメな理由を教えてください。

山本さん「ビールを長時間、高温の状態にすると、味のバランスを崩してしまいますし、色も濁ります。逆に低すぎてもいけません。3度以下の状態に長時間置くことも濁り、変色の原因となります。冷蔵庫の吹き出し口付近に置いたり、チルド室、車のトランクなどで保管したりすることは避けてください。

また、冷やして飲もうということで一時的に冷凍庫に入れるのも、中身が膨張し容器が破損する危険もありますから厳禁です」

――おいしく飲めるのはどのくらいの期間ですか?

山本さん「保存状態によって差がありますが、暗くて涼しい所に保存すれば約9カ月は風味が変わらないとされています。ただし、風味は時間の経過とともに徐々に落ちていくものですから、本来のおいしさを味わっていただくためにもどうぞお早めにお楽しみください」

――ありがとうございました!

ビール博士のアドバイスを聞いて、アルコール濃度の下がって飲みやすい氷入りビールを試してみたいと思いました。普段ビールは飲まないという人も、この夏、挑戦してみては?