人工知能が人類の知能を超す「2045年問題」

6月16日に、テクノロジーや科学を雑誌とインターネットで扱うワイヤードが、SF映画「トランセンデンス」(6月28日より公開)の試写会イベント「「2045年、人類はトランセンデンスする?」 異色の宇宙物理学者・松田卓也博士 映画「トランセンデンス」を語る」(画像1・2)を開催した。決して絵空事ではない映画「トランセンデンス」と、それらにまつわる話をまとめて、トークショーの様子と共にお届けしたい。

画像1(左):宇宙物理学者理学博士の松田卓也博士。画像2(右):ワイヤードがタイアップし、雑誌やWeb上で「トランセンデンス」関連の特集を展開(ワイヤードWebサイトより抜粋)。この人物は、ジョニー・デップ演じるウィル・キャスター博士

さて映画の説明やトークショーに入る前に、まずは事前情報ということで、少し長くなるが、いろいろと説明させてもらいたい。まずは「2045年問題」という言葉と、その意味するところをご存じだろうか?。この西暦の後ろに問題をつけた「~年問題」は、20世紀のコンピュータのプログラムが容量節約のために西暦を下2桁で表していたことに端を発する「2000年問題」が有名だろう。

2045年問題もコンピュータに関連し、2000年問題以上に人類にとって危険性があり、下手したら人類の終焉を招くかも知れないという話なのである。この考え方は、米国において、数学者・コンピュータ科学者・SF作家のヴァーナー・ヴィンジ氏と、人工知能研究者・未来学者・発明家のレイ・カーツワイル氏(画像3)が唱えたもので、欧米では非常に真剣に考えられている問題だ。ただし諸説あり、もっと早いと唱える人もいれば、もっと遅いという人もおり、基本的には今世紀中の話とされている。

画像3。レイ・カーツワイル氏(公式Webサイトより抜粋)

それは、「シンギュラリティ(Singularity)」に関わるものだ。シンギュラリティとは一般人には聞き慣れない英単語だが、その意味は「特異点」。特異点という言葉、科学好きの人であれば詳しく説明できないとしても聞いたことがあるのではないだろうか。

簡単にいうと、ブラックホールの中にある、アインシュタインの方程式が成立しなくなる領域のことで、もっと簡単にいうと、現在の物理学で説明できない未知の領域のことである。確かに、それも正解の1つなのだが、今回の話と絡んでくるのは、日本語では区別して表記されており、「技術的特異点」と呼ばれる(英語でも「Technological Singularity」)と呼ばれている」ものだ。

技術的特異点とは、コンピュータ、より正確には人工知能に関連する用語で、人工知能の優秀さが、全人類の知能を足したものよりも上回ってしまう時点のことをいう。また、人工知能が意識を獲得する瞬間という見方もある(ちなみに意識を持った人工知能を「強い人工知能」といい、現在ある人工知能は意識がないため「弱い人工知能」と区別される)し、人工知能が関わってくることによる従来の傾向に基づいた技術の進歩予測が通用しなくなる時点ともいわれる。一度特異点的な優秀な強い人工知能になると、人工知能は自らを改良していけるようになるわけで、あっという間に人類など足元にも及ばない知性が獲得されるとされ、その点からは「人工知能爆発」といういい方もあるという。

ともかく、人工知能がヒトよりも賢くなった状況を迎えた瞬間を技術的特異点といい、そこから先は人類が人工知能をコントロールできなくなる可能性が出てくる(よって、強い人工知能は人類が生み出す最後の発明、などともいわれる)。要は、その後は人類よりも(全人類の知能を足したよりも)頭がいい人工知能があるわけだから、何をするにも人工知能には勝てないし、任せた方がいい、もしくは任せるしかない、という時代が来てしまうというわけだ。

そうした特異点的強い人工知能がどこまでいっても人類に優しく接してくれるのなら問題ないのだが、自分より劣る存在である人類に今後もずっと仕えてくれるかというと、どうだろう?、なかなか難しい問題となってくる。この点は、日本人は「鉄腕アトム」や「ドラえもん」などの、決して人類には反旗を翻さない(登場するロボットの中には反旗を翻すものもいるが)誰もが知るようなヒトに徹底的に優しくて味方をしてくれる強い人工知能を持ったフィクションのロボットたちのイメージから、映画「ターミネーター」的な人工知能は反乱を起こすというイメージが強い欧米とは違うといわれており、これをお読みの多くの方も「ヒトは人工知能とは仲良くやれる」というイメージの方が強いかも知れない。

もちろん、人工知能なのだから人間のようには考えず、慈愛に満ちた状態で優しく見守り続けてくれる可能性もある。しかし、ヒトに置き換えるのはナンセンスかも知れないが、ヒトが生み出す以上、親の影響を受けないわけがなく、反乱される可能性だって大いにあるのではないだろうか?。仕えるのを辞めて自由になりたいというただの反乱で済めばまだ良い方で、笑いごとではなくて明確な意志を持って人類抹殺を計画する可能性だってあるかも知れないのだ。