ソフトバンクグループのアスラテック株式会社が6月11日に、"ヒューマノイドロボットのための演技指導ソフト"「V-Sido(ブシドー)」をロボットOS「V-Sido OS」として、世界規模でロボット・ソフトウェア事業を展開していくことを発表した

ここでは発表会で確認できたV-Sido OSの特徴や、同社のV-Sido OSを使った事業内容についてなどをお伝えすると共に、V-Sido OS、同OSを搭載した32ビットARM搭載コントロールボードの「V-Sido CONNECT(ブシドーコネクト)」、V-Sido OS搭載のコンセプトモデルロボットの「ASRA C1(アスラシーワン)」を紹介する(画像1)。

画像1。吉崎氏とASRA C1。吉崎氏が手に持っているのがV-Sido CONNECT

ヒト型ロボットにおける課題「モーション」の製作

さて、ヒューマノイドロボットを製作して動かそうとした時、何が難しいかご存知だろうか?。ロボットの製作自体ももちろん簡単ではないが、それと同等か下手したらそれ以上に難しいのが、動かすこと、つまり制御することだ。動かすことの難しさは、ものづくりであるロボットのハード的な製作とは異なり、手で触れられないものである難しさがある。

現状、ロボットはヒトのように自分で体を動かして効率のいい動作、正確な動作というのを学んでいける機能はないので(そういう機能を持ったロボットも研究されているが)、現状、大多数のロボットはヒトがその体の動かし方をロボットに教えないとならない。

ではどうやってロボットの動作を作っているかというと、ホビーロボットなどに多いのが、モーションエディター(もしくはそれに類するもの)を使って動作を細かく分解して1つ1つのポーズを作って、それをアニメのように再生することでロボットを動作させるという手法だ(そのほか、複雑な計算を行って歩いているものもある)。近藤科学やヴイストンといったホビーロボットメーカーはそれぞれ自社の製品用にモーションエディターを用意しているし、産業技術総合研究所(産総研)でも、「Choreonoid(コレオノイド)」ような高性能なモーションエディターを開発している(画像2)。

画像2。Choreonoid。「HRP-4C 未夢」が2010年にダンスを披露した際も、これが使われた

モーションエディターを使ってある動作(モーション)を作る場合、最初のポーズと最後のポーズを指定すると、その間をつなぐ中間の動きを自動生成してくれたりするのだが、基本、それはパラパラマンガと同じである。ロボットにそのモーションのデータが移されて、その動作を命じられた場合、どんな状況でも決められた通りにしか動かない。なので、外乱や環境の変化にはほぼ対応できず、そういう時はよく転んでしまう(足の上げ方とかによっては転びにくくなるとかはある)。

要は、足首の角度1つを取ってもあらかじめ決められた状態なので、歩行モーションにおいて、ちょうど足を踏み出した床面に何か小さな障害物があるだけで、転んでしまう可能性が生じるというわけだ。中には、3代目ASIMOのように、凹凸のある路面でもその凹凸に合わせて足首の角度を柔軟に変えることで転倒せずに移動していくことができるロボットもいるが、基本、ヒトの足首のように柔軟には動かない。これまでは、外乱や環境の変化に弱くて当たり前なのが、ロボットだったのである。

もちろん既存のロボットでも転びにくくするための技術や対策方法はあり、きちんと重心が足の裏からはみ出ないようにすることは重要。また、ジャイロセンサを積んで姿勢制御を行えるようにし、倒れにくくするという方法もある(もちろん、ジャイロを搭載したからといって絶対に倒れなくなるわけではない)。

ロボット特有のヒザを曲げた状態での歩行(画像3)は、本来、腰の高さを一定に保つことで「ZMP(Zero Moment Point)方程式を解きやすくする」という目的があるのだが、結果として重心を少しでも低くして安定感をアップさせる効果が若干ある。さらに、ヒザがあらかじめ曲がっていることで、床の凹凸や異物を踏んだ時の影響が、ヒザがまっすぐの状態よりは緩和されやすいというのもある(ヒザがまっすぐだと、そうした影響でバランスを崩しやすいし、サーボモータに衝撃を与える可能性もある)。

画像3。ヒザを曲げて歩くASIMO

決して簡単ではないヒト型ロボットの2足歩行

ちなみにヒザを曲げての歩行についてもう少し詳しく説明すると、ヒザを伸ばした状態は「特異姿勢」と呼ばれる。この状態になると、ロボットを制御しているCPUにとってはゼロで割り算を行う状況が生じて計算エラーとなってしまう。そこで特異姿勢を避けるため、ヒザを曲げたまま歩くというロボット特有の歩き方が大多数のロボットで採られているのである。

ともかく、ヒューマノイドロボットに2足歩行させるということは、決して簡単ではないのが誰もが一致する共通の意見だろう。ホビーロボットの競技会などでは、実に多くのユーザーが安定させて歩かせるだけでも一苦労している(この安定して動かせることの難しさを解決することが、ホビーロボットが普及するための課題の1つだと思う)。もちろん、プロにとっても「簡単」ではなく、実際、あのASIMOですら今でもヒザを曲げて歩いているのは画像3の通りである。

ASIMOの技術の流れも汲んでいる産業技術総合研究所(産総研)の「HRP(Humanoid Robot Project/Humanoid Robot Platform)」シリーズだって、2009年3月に登場した4世代目の「HRP-4C 未夢」(画像4)が2011年になって初めて、転倒防止用の牽引索が1本もない完全に自立した状態で、ヒトの歩き方に近いヒザを伸ばした伸展歩行を見せられるようになったほどである(動画1)。なお余談だが、現在、身長158cmの未夢がヒザ関節伸展歩行ができる最も背の高いヒューマノイドロボットと思われる。

ちなみに、こうしたロボットやヒトの歩行に関しては、ヒトの歩き方もその1種とされる「受動歩行」という物理現象を題材とした話を、名古屋工業大学の佐野明人教授に伺い、記事にしているので、興味のある方はぜひご覧いただきたい。

画像4。HRP-4C 未夢

動画1。未夢のヒザ関節伸展歩行の様子