既存のロボットでも性能向上を図ることが可能になる「V-Sido OS」

以上が、V-Sido OSの3大特徴なのだが、これらによって現在のロボットで何ができるようになるかというと、まずホビーロボットを使った例として紹介されているのが、ヒザ関節伸展歩行を簡単に行えるところだ。1歩ごとにリアルタイムに安定化させながら動作生成を行うため、ロボットにとって重心が高くて不安定な(動作の計算上の問題点もある)ヒザ関節伸展歩行でも普通に歩けるというわけだ。しかも、何かの障害物に当たって、1歩が予定通りの距離を進まないといったことがあってもどうということはない。非常に外乱に強いのである(これが従来のモーション再生方式であったら、簡単に転んでしまう可能性がある)。

実際、動画7のようにモンローウォーク的な腰のクネリが大きい女性らしさを強調したヒザ進展歩行もできるのである。このロボットの身長は60cm程度。動画の中ではものにぶつかったりするのだが、どうということなく歩行する。しかも、ジャイロ、加速度といったセンサは一切搭載されておらず、サーボだけでこの安定性を実現しているという。さらには、ロボットの手を引っ張ることで、先程はロボットを立たせる動画を披露したが、散歩も可能だ。引っ張られ具合に合わせて歩幅や歩行速度を変えて、ヒトの動きについてきてくれるのである。

さらに安定化に関したものが、動画8。雑誌の上にロボットを立たせて、その雑誌を水平方向に揺すっても、V-Sido OSが働いている時はロボットが柔軟に素早くバランスを取って倒れないのが見て取れる。さらに動画8の中では、外乱に対する強さも撮影されている。30cmの小型ホビーロボットに中味の入った缶コーヒーを投げて当てたら、普通は倒れるのが当たり前だが、衝撃をきちんと分散して受け止め、倒れずに立っていられるというもので、これは実に衝撃的だ。

動画7。ヒザをまっすぐに歩かせるどころか、腰をくねらせて歩くロボット

動画8。外乱に対してとても強くなり、よほどのことがないと転倒しない

またV-Sido OSは柔軟性の高さも特徴だ。例えば、ロボットを制御する側の知能はヒトだけでなく、AIやクラウド(AI)にも対応しているし、制御されるロボットの中の駆動機構も、ロボットというと一般的なイメージのサーボモータだけでなく、油圧や空圧などにも対応(画像8)。柔軟性が高いというか、懐が広いのだ。

よって、V-Sido OSがすでに動作しているロボットは幅が広い。全長25.5cmの一般的なサイズのホビーロボットであるhp製(国内の取り扱いはアールティ)「G-ROBOTS(GR-001)」、アールティの1m弱の中型サイズのロボット「RIC90」、それよりも若干大きい富士建の「建機操作ロボット」、そして水道橋重工から1億円で販売されている全長4mの油圧駆動大型ロボット「クラタス」と、実に多様である(画像9)。なお、前の3つはサーボ駆動だ。

画像8(左):知能も複数に対応しているし、駆動機構も複数に対応。しかも、設定を変えるだけで、すぐにどれにでも対応できる。画像9(右):事実上、駆動機構がV-Sido OSに対応していれば、どんなサイズのロボットであろうが使用することが可能

さらにこの駆動システムを問わないという特徴から、V-Sido OSは少々離れ業も可能だ。例えばサーボモータで作っていたロボットを、出力不足の問題から油圧に変更しなくてはならなくなった時、V-Sido OSであれば設定の変更が必要なものの、基本的にはそのまま使えてしまうという。普通、サーボで動作するロボット用に作られたOSだったら、油圧は駆動機構としてあまりにも違うので、そのまま使うことは難しい。柔軟性に加え、懐の広さもあるのがV-Sido OSなのである。

また、クラタスのような開発初期からV-Sido OSをOSとして用いた開発を進めるのではなく、ココロのアミューズメント用の少女型ロボット「I-Fairy」のように、すでに完成しているロボットに組み込むといったことも可能だ。I-Fairyは、会場に実機が展示されており、ジョイスティックで操作する様子も披露された(動画9)。また、スマホでの操作の様子も動画で公開された(動画10)。

動画
動画9。会場に設置されていたI-Fairyをジョイスティックで操作する様子

動画10。I-Fairyをスマホで操作する様子。I-Fairyのカメラがとらえた映像がスマホに表示されている

そのほか、リアルタイムと効率化などの組み合わせといえるのが、マスター・スレーブ方式で1m大のロボットの操作を行えること。動画11では、手元の30cm台のロボットをマスター側の操縦装置として使用し、アールティのマスコットロボットのネコ店長を操作するところを見られる。もちろん、30cm大のロボットと1m大のロボットの手足の寸法などは違うし、普通は手を動かしたら手だけしか動かないわけだが、V-Sido OSはロボット間の差異を吸収できるし、手の動きに合わせて顔やそのほかの部位の動きもそれらしくV-Sido OSが演出してくれる仕組みだ。30cm大のロボットの動きを意訳して1m大のロボットに反映させてくれるのがV-Sido OSなのだ。

これにより可能になるのが、より柔軟な遠隔操縦である。普通のモーション方式のロボットも、もちろん遠隔操縦は可能だ。しかし、あらかじめ用意した限られた数の動作しかできないという大きな弱点がある。それがV-Sido OSなら、その時その時の状況に合わせて操縦できるので、例えば大きさの異なるものを受け取るといった作業も、簡単にこなすことができるというわけだ。ヒトをハグしてあげるというイベントだって、就学前の幼児から成人男性までいくらでもOKというわけだ(そうした辺りも動画11で見られる)。ちなみにこのマスター・スレーブ方式にした場合の反応速度的にはかなり早く、先程のネコ店長に向かってボールを投げて、それを見ながらヒトが操作して棒で打ち返すといったことも可能である。

動画11。30cmのロボットで1m大のロボットをマスター・スレーブ方式で操作する様子

こうした柔軟な遠隔操縦も行えることから、富士建の建機操作ロボットも可能となるというわけだ。なお、なぜ建機に遠隔操縦機能を追加せず、わざわざ遠隔操縦用のロボットに運転させているのかというと、複数の異なる種類の建機があった場合、遠隔操縦機能をそれぞれの建機に追加するよりも、遠隔操縦できるロボット1台を用意した方が、コスト的な面などから効率的だからである。

またなぜ建機を遠隔操縦するのかといえば、福島原発のような、ヒトが近づけない事故が発生した際に、自動運転や遠隔操縦が可能な特別な機体がなくてもいいし、安全な場所からヒトが操作できるので、突発的な事態が起きた時にも対応しやすいといった大きなメリットがあるのだ。

なお、動画12は会場で披露された映像とは異なるのだが、同じ富士建で行われている遠隔操縦ロボット「DOKA ROBO」シリーズの実験の1つで、女性型ロボット「ドカはるみ」が建機を操作する様子である。ちなみにドカはるみは身長155cmもあり、初音ミクのコスプレをする「等身大のミクロボ」としても知られるロボットだ。

動画12。遠隔操縦されたドカはるみが建機を操縦する様子