一般的な乗用車にとって唯一のエネルギー源は燃料タンク内に残っている燃料なので、自動車メーカーは燃費とCO2排出量を改善することを目的として、エレクトロニクスを含むあらゆる自動車システムでエネルギーの節約を追求しています。性能と安全性を向上させ、買い手にとって魅力的な新機能を採用するために、自動車に搭載される電子システムの数が増加を続けている現状で、各電子制御装置(ElectronicControlUnit:ECU)で少しのエネルギーを節約するだけでも、燃費が大きく向上する可能性があります。

チップ設計者はさまざまな手法とアプローチを通じて、供給するデバイスの全体的な消費電力を削減できるようになってきました。複数のデバイスの機能を単一のシステム・ベース・チップ(System Basis Chip:SBC)内で組み合わせ、さまざまな電力管理方法を実装することによって、全体的なシステム消費電力は引き続き減少しています。このような進歩により、内燃機関を使用する現在の自動車は、消費する燃料を少なくし、排出するCO2を減らして、快適性と安全性を維持することができます。

強化されたシステム・ベース・チップ

SBCは、ドア・モジュールのように車両のバス(CANまたはLIN)に接続されたさまざまなモジュールに対して、電力、ドライバー、および接続機能を提供します。通常、SBCは、コントローラとセンサに電力を供給する電圧レギュレータ、ハイサイド・ドライバやローサイド・ドライバ、トランシーバ・インタフェース、ウェイクアップ・ピンやウォッチドッグ・ピンのような他のシステム接続機能を統合しています。単一のモノリシック・デバイス上で、これらの機能を内蔵型のパワー・マネジメント機能と統合すると、ディスクリート・コンポーネントを使用する場合に比べて、消費電力、コスト、サイズの利点を実現できます。最新のテクノロジとパワー・マネジメント機能により、現在のSBCは約20μAのスリープ電流と約60μAのスタンバイ電流を達成します。

代表的なSBCでは、オンチップ電圧レギュレータは通常、図1に示すように低ドロップアウト(LDO)リニア・レギュレータです。この理由で、LDOの消費電力が比較的大きいことから、設計者の主要な課題は、熱管理分野に存在します。安定化電源電流が5V、150mAの場合は、SBCは最大1.3Wの電力を消費する可能性があります。SBCLDOに内部パス要素が存在する場合は、この電力はSBCパッケージ内で消費されます。より多くの電流を必要とするモジュールに対して電力を供給するSBCの場合は、代表的な消費電流は250mAを上回り、通常は外付けパス要素を使用する設計を採用します。この場合は実質的に、SBCと外付けMOSFETの間で電力が消費されるので、適用可能な周囲温度範囲を拡大することができます。

図1 LDO電圧レギュレータ付き従来型SBC

たとえば、一部またはすべてのオンチップLDOの代わりにスイッチング・モードDC/DCコンバータを使用する方法で電源回路の効率を向上させると、自動車全体で各CANノードにあるSBCで失われる電力の量を減らすことができます。この方法は、燃費の改善に加えて、熱管理の簡略化に役立ちます。

コンバータのアーキテクチャを注意深く選択すると、スイッチング・モードDC/DCコンバータを採用したSBCは、エンジンの自動的な停止/開始(マイクロ・ハイブリッド)テクノロジを採用した最新の自動車で重要な利点を実現できます。自動的な停止/開始機能を使用すると、信号待ちなどで自動車が停車したときはエンジンを停止させ、ドライバーがアクセルを踏んだときにエンジンを自動的に回転させることにより、市街地走行では燃費を最大15~20%向上させることができます。その結果、ドライバーが意識している限り、システムは実質的にほとんど手間がかからず動作します。CANバスに接続されているすべてのシステムが継続的に正常に動作できるように、エンジンをクランキングしている間にバッテリ電圧が最小2.5Vに低下した場合であっても、このアプリケーションは引き続きすべての機能を果たす必要があります。この場合は、昇降圧DC/DCトポロジを採用することにより、必要とされる安定化出力電圧をSBCがあらゆる動作条件下で供給できます。

図2 DC-DCコンバータ付きSBC

パーシャル・ネットワーキング

今日の自動車には多数のECUが搭載されていることが多く、ハイエンド・モデルでは最大でおよそ100個にも達します。したがって、すべてのECUとは言えないまでも、ほとんどのECUはCANバスに接続されており、通常それらは常時動作しています。エンジンが回転していない場合でも、リモート・キーレス・エントリ機能などが機能するように、一部のECUは継続的に動作している必要があります。バスに接続されているこれら多数のECUは、総合的な消費電力に大きな影響を及ぼします。

パーシャル・ネットワーキング(PN)は、この消費電力を低減すると同時に、ECUがウェイクアップ・コマンドに応答できるようにする目的で使用される手法です。システムは特定の瞬間ごとに、必要に応じてネットワークの一部のみをアクティブにし、他のノードは低消費電力状態にとどまります。PNはいくつかの方法で実装できます。自動車を対象にして発行されたCAN規格であるISO11898-6では、高速メディア・アクセスを使用してPNを実現する手段として、選択的なウェイクアップ機能を定義しています。特定のECUを動作させる必要がないときは、この特定のノードに対して特定のコマンドが送信されていない限り、このECUをCANネットワークから切り離すことができます。

PN機能をサポートするために、個別ノードで「選択的ウェイクアップ機能」を専用トランシーバに組み込む必要があります。この選択的ウェイクアップ機能を使用すると、非アクティブなECUに流入する電流を、自動車メーカーがしばしば規定している100μAという平均スタンバイ電流の上限以下に低減することができます。このような節減であっても、バスに接続されているECUの数が多い場合は、総合的なバス消費電力、さらには自動車の燃費にかなりの影響を及ぼします。このアプローチに伴う欠点の1つは、追加の選択的なウェイクアップ回路を各ICに内蔵する必要が生じ、それに伴ってシステム・コストが増大することです。さらに、PNのこの実装をサポートするために、ネットワーク内にあるすべてのノードでソフトウェアを対応させることも必要です。この結果、システム開発の負担がかなり増えます。