シャープは6月18日、中小型液晶事業説明会を開催し、中国市場のスマートフォン戦略や、自由な形状にできるフリーフォームディスプレイなどの新技術を発表した。

登壇した代表取締役 専務執行役員 デバイスビジネスグループ担当の方志教和氏

スマートフォン市場では、中国セットメーカーが攻勢に出ており、2013年の販売台数シェア全体の29%を占めた。2017年には40%まで伸長すると見られる。また、同社の中国スマートフォン向けパネルの受注内訳を解像度別に見ると、2013年下期に約3~4割を占めたフルHD(1920×1080画素)パネルが、2014年上期には5割以上に達するのに加え、超高精細のWQHD(2560×1440画素)パネルの受注も始まるなど、急成長とともに高精細化シフトが顕著になってきている。この需要に合わせて、今回500ppiクラスのWQHDパネルを6月から三重第3工場で、400ppiクラスのフルHDパネルを7月から亀山第2工場でそれぞれ量産を開始すると発表した。

現在、シャープは約20社ある中国のスマートフォンメーカーのうち、7社とファーストサプライヤーとして取引している。これが、今後13社となる模様で、デザインインの段階まで進んでいるという。

5.5型WQHD(538ppi)対応のLTPS/CGS液晶ディスプレイ。三重工場で6月より生産が開始される

5.5型フルHD(406ppi)対応のIGZO液晶ディスプレイ。亀山第2工場で7月より生産が開始される

一方で、現在の中小型ディスプレイの競争軸となっているのは、高精細や狭額縁、低消費電力である。低消費電力ニーズは今後も続いていく見られるが、高精細や狭額縁はいずれ限界を迎え、飽和することも考えられる。そこで、シャープが新たな競争軸として有望と見ているのが、デザイン性能、耐環境性能、ユーザーインタフェースである。今回、これらに該当する新技術としてフリーフォームディスプレイ(FFD)とMEMSディスプレイを発表した。

FFDは、IGZO技術と独自の設計手法の融合により、3辺狭額縁化および自由な形状を実現したものである。従来のa-Si技術ではパネルの額縁にゲートドライバを配置するため、ディスプレイの形を四角以外に変形させることはできなかった。これに対し、今回のFFDは、IGZO技術のTFT特性を生かし、ゲートドライバを画素領域に形成して、ゲート信号線を画面内側から外側に向けて駆動させることで、さまざまな形状を可能にした。

FFDは、日本や欧米の自動車メーカーに提案済みで、大半のメーカーが採用に興味を示しており、このうち、2~3社では本格的な採用を検討している。本格的な事業化については、自動車向けは2~3年の検証期間を経てから製品化されるため、2017年以降になるとした。自動車以外の用途は今後マーケティングを進めていく予定。現状、フレームレスな大型TVやマルチディスプレイ、スマートフォンなどに加え、丸型などの形状にすることで小型のウェアラブル機器への搭載も考えられると見ている。同技術については「さまざまな形状をしたディスプレイを作製する技術は他メーカーからも提案があったが、画素内に回路を取り込む技術による形状の自由さは、技術革新度のレベルが違う」(方志氏)と技術優位性を強調した。

インストルメントパネル(インパネ)。上部がメータに合わせて曲線形状になっている

センターインフォメーションディスプレイ。展示は組み込まれた状態を想定

センターインフォメーションディスプレイ。持ち上げると下部の形状に沿って、ディスプレイが形作られていることが確認できた

MEMSディスプレイは、従来のディスプレイ技術では達成できない超低消費電力、耐環境性能、高色純度を実現できる。超低消費電力はカラーフィルタや偏光板を使用しないため、液晶モジュールの倍となる高い光の利用効率により実現されている。また、耐環境性能ではMEMSの構造上、シャッター速度が温度に依存しないことから-30℃の過酷な環境下でも利用できる。さらに、色再現範囲はNTSC比115%を実現している。

展示されたMEMSディスプレイは7型WXGA(1280×800画素、217ppi)で、IGZO技術を採用する。IGZOのa-Siより10倍高い移動度、大型化に対応可能、リーク電流が発生しにくく低消費電力などの特徴が同技術では生きるという。また、透過率をさらに向上させるため、光源からの光を有効活用することを目的に、デバイス内部にはミラー構造が採用されている。

通常モードの輝度400cd/m2の表示

低電力白黒モードの輝度400cd/m2の表示。通常モードの消費電力を100%とすると、低電力白黒モードの消費電力は30%程度になる

2000回/秒のMEMSディスプレイの動作をスローモーション撮影した映像

この他、IGZO技術を応用した医療用イメージングシステムを開発中。被曝量の少ないX線撮像技術を開発することで、手術時間中に継続してX線を照射できる装置を目指すなど、次世代技術の取り組みについて説明した。