【レポート】

iPadで実現! 支援物資の入出庫管理を支えるFileMakerソリューション

みなさんは「フードバンク」というものをご存じだろうか? これは、品質に問題のない余剰食品を集めて福祉施設などに提供することで食品ロスを削減すると同時に、食品を必要とする人々を支援する活動のことである。本稿では、東北地方でこの活動を支えるNPO法人ふうどばんく東北AGAIN(あがいん)(以下、AGAIN)に導入され、寄贈品の入出庫管理で活躍している、iPadとバーコードリーダーを活用したFileMakerのソリューションを紹介しよう。

農林水産省のサイトによれば、米国ではすでに40年の歴史があり、日本では2000年以降にこのような活動を行う団体が設立されるようになったという。2008年に設立されたAGAINもそのひとつだ。農水省のサイトには全国24団体のリストが掲載されているが、現在ではさらに増えていると推測される。

仙台駅から5kmほどのところに、AGAINの倉庫兼事務所がある。ここから、宮城県のみならず、岩手県や福島県へも食料支援を行っている

きっかけはファイルメーカー社のセミナー

AGAINで稼働しているFileMakerソリューションの基本機能は、支援物資が届いた際の入庫管理と、支援先に物資を渡す際の出庫管理である。入庫を記録することで在庫品目や寄贈者がデータベースに保存され、出庫を記録することで在庫の数が更新され支援先も管理できる。

AGAINがFileMakerの導入を検討開始したのは2012年。バーコードから読み取ったデータや写真を簡単に記録できること、FileMaker Goを無償で使えることなどが大きな魅力だった。

「調べれば調べるほど、FileMakerは自分たちの業務にぴったりだと思いました。ほかの選択肢は考えられませんでした」とAGAINの理事・事務局長の高橋陽佑氏は当時を振り返る(高橋氏の「高」は「はしごだか」)。

NPO法人ふうどばんく東北AGAIN(あがいん) 理事・事務局長の高橋陽佑氏

高橋氏は2012年6月に、ファイルメーカー社が仙台で開催した「iOS開発ハンズオンセミナー」に参加した。このセミナーで出会ったのが、システムの開発とトレーニングを担当することになるアイディービー・ジャパン合同会社代表の伊藤盟氏である。その年の冬に助成金を受けられることが決定し、年末に高橋氏と伊藤氏は1回目の打ち合わせを持つ。

アイディービー・ジャパン合同会社代表の伊藤盟氏

2013年の年明けから伊藤氏が開発を開始。その後は何度となく顔を合わせてシステムを構築し、同年5月ごろから実運用が始まった。

伊藤氏は「このシステムが "使いやすいもの" として順調にスタートできた理由は、業務を熟知している高橋さんが明確な目的意識を持ってシステム構築に参加し、FileMakerの習得に取り組んだことに尽きます。運用開始後も、高橋さん自身がシステムの改良を続けています」と語る。

AGAINの事務所で高橋氏と伊藤氏が向かい合って座り、コンピュータの画面共有機能を使って同じ画面を見ながら、話し合いとトレーニングを重ねた

現在のシステム概要と物資管理の流れ

本稿で紹介するソリューションは、Windows PC上のFileMaker Proで品目管理のデータベースファイルを共有し、iPadとiPad mini、各1台ずつをクライアントとして、入出庫を記録するというものだ。このほかに、高橋氏が開発用としてFileMaker Pro AdvancedをMacBook Proで使用している。

支援物資が届くと、iPadでデータベースの入庫管理画面を開く。物資の箱などに印刷されているバーコードを、Bluetooth接続のバーコードスキャナで読み取る。また、商品名と消費・賞味期限がわかる写真をiPadのカメラで撮影して保存し、数量は画面上のテンキーをタップして入力する。

バーコードから読み取った数字が、FileMakerのレコード上で品物に付けられる個別の番号になる。この後、箱の写真も撮って記録する。iPadでの入力は外部団体に業務委託しているのだが、それは後述しよう

その後、コンピュータ上でこのレコードを開き、写真を見ながら商品名などの詳細をテキストデータとしても入力する。 出庫の際にもバーコードをスキャンして在庫と照合し、iPadの画面上に詳細情報を表示。賞味期限などの情報を確認した上で出庫数を入力すれば、データベース上の在庫数が調整される。

取材中に生産農家から届いた夏みかん。通常は流通用のバーコードを利用するが、このようにバーコードがない食品にはFileMakerを使ってオリジナルのバーコードラベルをプリントし、それを貼って管理している

支援物資の入出庫管理が活動の基盤

扱うものが食品なので「先入れ先出し」の基本が重要であり、当然ながら消費・賞味期限に十分注意して管理しなくてはならない。食の安全を守るトレーサビリティを確立するためにも、農水省や寄贈者へ適切な報告をするためにも、さらには必要なところへ必要な物資を届ける「マッチング」のためにも、タイムリーかつ正確な入出庫管理は欠かせない。

寄贈食品は、企業から同一製品が何箱もまとめて届くこともある。どのようなものが届くのかというと、例えばパッケージのちょっとした印刷ミスで市場に出せなくなった製品などだ。一方、個人や生産農家からも品物が寄せられる。したがって、品物も数量も賞味期限もさまざまで、しかも届いて初めて詳細がわかる。このことが、計画や管理を前提とした品目の管理とは大きく異なる点だ。

こうした数々の課題が、FileMakerの導入により大きく改善した。特に、写真を簡単にデータベースに登録できることのメリットは大きい。商品名や消費期限を一瞬で、しかも正確に記録でき、信頼性が高い。

倉庫には、箱も中身も賞味期限もまちまちな食品がたくさん集まってくる。荷姿や品目がまちまちでも、写真なら問題なく記録できる

FileMaker導入以前は、紙の伝票に手書きして、それを表計算のシートに入力したり、伝票のファイルをめくって品目を探したりしていた。それではとても管理が追いつかない。

「ハードウェアとソフトウェアの初期投資額は、およそ10万円でした。これはNPOにとって、助成金で用意しやすい金額です。このほかに開発とトレーニングの費用や時間を確保する必要はありますが、その価値は計り知れません」(高橋氏)。FileMakerにはNPO向けのライセンス価格が用意されていることも助けになったという。

就労支援など思わぬ副次的効果も

iPadでのバーコードスキャン、写真撮影、数量の入力は、精神障がい者の就労支援施設に業務委託している。多くの物資に対応できるということだけでなく、始める前には想定していなかった効果も出てきた。業務をする人たちにとっては、タブレットへの興味やIT機器を使って仕事ができるという達成感が生まれたり、AGAINへ行くことが楽しみで生活リズムが整ったりしてきたというのだ。このほかにも、システムの導入によって整理された業務フローが、結果的に就労支援にも有効な "教育プログラム" になることで、ほかの就労支援NPOとの協働の機会にもつながっている。

障がい者施設の担当者が各人に合う業務をそのつど振り分けるなどの配慮をしていることもあり、順調に業務が進む。簡単な操作で使えるように設計されているので、ほとんどの人が初日だけで業務に慣れるそうだ

冒頭で述べた通り、フードバンク事業はもともとは災害支援と直接的な関連のある活動ではない。しかし2011年の東日本大震災以降、支援活動に対する関心の高まりと生活に困窮する人の増加により、AGAINが扱う支援物資は爆発的に増加した。「FileMakerによる管理のおかげで、人手は不足気味ながらも増加した物資に対応できている」と高橋氏は言う。

今後はフードバンクシステムの標準化やマッチングサイトの開設を目指したい

高橋氏の目は、AGAIN内の支援物資管理の、さらにその先を見ている。

「東日本大震災のときに、全国から助けていただきました。その恩返しをしたいのです。フードバンク事業の団体は増えましたが、管理業務が追いつかず継続が難しい団体もあるようです。そういう状況をぜひ好転させたい。そのために、このソリューションを "フードバンクの標準" として、ほかの団体へもこれから広げていきたいと考えています」

上述のような展望があるため、実はこのソリューションは "AGAIN専用" というわけではない。フードバンク事業に共通する仕様を念頭において開発された汎用的なものである

農水省では、食料支援のマッチングサイトの構築を推進している。AGAINでは今後、FileMaker Server 13を導入し、WebDirect機能でマッチングサイトを開設することを検討している。在庫をWebに公開することで、ほかのフードバンクとの間で食品を融通しあったり、リクエストを受け付けて今以上に必要なものを必要なところへ届けたりするなど、きめ細かくスピーディーで公平性のある支援が継続的にできるようになると考えられる。

NPOの運営に欠かせない時間とお金、支援者の継続的な確保。FileMakerのソリューションが、その実現の支えとなっていくことだろう。



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