スクートの上級クラス。機材も大型のボーイング777で、LCCとは思えない設備

航空会社には一応、カテゴリー分けが存在する。「一応」と書いたのは、そのカテゴリー分けでは区別がつかない傾向が強まっているからだ。

その昔、航空会社の多くは国営企業だった。JAL(日本航空)や大韓航空、エールフランス航空など国の名前を冠した航空会社のほとんどがそうであり、国を代表するという意味で「ナショナル・フラッグ・キャリア」と呼ばれた。「フラッグ」とは国旗のことで、まさに国を代表する航空会社という意味だ。

その後、日本でいえばANA(全日空)や日本エアシステム(現在は日本航空に統合)、韓国でいえばアシアナ航空など第2、第3の民営の航空会社が成長してきた。今では「ナショナル・フラッグ・キャリア」も多くが民営化されたが、それらも第2・第3の航空会社もサービスや会社の組織構成、運航形態に大きな違いはない。

LCC化するフル・サービス・キャリア

一方で、ここ何年かの間にジェットスターやエアアジア、ピーチなどのLCCの数が増えてきた。LCCとは「Low Cost Carrier」の略。「安いコスト(費用)で運航する航空会社」といった意味で、運航経費も安ければ運賃も安い。ただ、食事や預け荷物などは有料で基本的にサービスはないに等しい。これに対して従来からあった「ナショナル・フラッグ・キャリア」や第2、第3の航空会社の場合、サービスは基本的に運賃に含まれている。

そこで、LCCと区別するため、「サービスはすべて提供する」という意味で、「フル・サービス・キャリア(FSC)」と呼ばれるようになった。歴史があるという意味で「レガシー・キャリア」、日本では「大手航空会社」と言われることもある。

ところが、最近になってFSCなのにサービスを有料にする航空会社が出てきた。預け荷物の重量制限を厳しくして重量オーバーしたら追加料金を徴収する、機内で飲むアルコール類を有料にする、窓側など一部座席を指定するなら座席指定料金を支払う必要がある、そんな動きが目立つようになったのだ。

この背景には、FSCの運賃の値下がりと経費の高騰がある。LCCの人気が上がるにつれてFSCも運賃が高いと乗客が集まらなくなり、運賃を下げざるを得ない。そうなると、経費を賄うために一部サービスを有料化するしかない。そう、FSCがLCCと同じようなことをしているわけである。航空会社の経費の中でも飛行機を飛ばすための燃油代が高騰しているが、燃油はLCCでもFSCでも関係なくかかる経費だから、同じような事情を抱えている側面もある。

エコノミークラスならLCCの方がサービス良質!?

アイルランドのエアリンガスや香港エクスプレスのように、以前はFSCだったのがLCCに看板替えする航空会社も出てきた。LCCにした方が聞こえが良く、乗客が集まりやすいという事情も背景にはある。サービスの内容を見ると、座席の広さはFSCとLCCの中間レベルで、預け荷物を一定の重さまで無料にしたり飲み物などを無料で出すなど、サービスも両者の中間レベルだ。日本国内にはスカイマークやエアドゥのような「新興エアライン」と呼ばれる航空会社あるが、これらもFSCとLCCの中間的な存在といえるだろう。なお、日本の新興エアラインとLCCの違いの詳細はこちら

さらに、である。ジェットスターやエアアジアなどLCCでも規模の大きな航空会社ではFSCのプレミアムエコノミーやビジネスクラスに相当する上級クラスを設けるようになり、またアメリカのヴァージン・アメリカやジェットブルーのようにFSCのエコノミークラスより上質なプレミアムサービスを売りにするLCCも人気だ。そもそも、接客態度にしてもFSCよりはるかに印象の良いLCCはいくらでも存在する。

こうしたLCCとFSCの区別がつかなくなる傾向は今後さらに強まるだろう。航空会社を選ぶ際は、LCCかFSCかではなく、その航空会社の運賃とサービス内容を調べてからチケットを予約・購入する時代になってきた。