【レポート】

日本人のDNAにある"おもてなし"が収益を生む - 鍵は"仕組み化"!

6月10日都内にて、世界を魅了するサービスチェーン研究会主催による「日本式マネジメントシステムが世界を変える」をテーマとしたセミナーが開催された。

先に行われた2020年オリンピック招致活動で話題となった“おもてなし”。しかし、この“おもてなし”という言葉が持つ意味合いは、その重要性は理解しつつも、どのように企業活動へ取り入れていくか悩まれている方も多いという。今回開催されたセミナーでは、その曖昧模糊とした“おもてなし”をパーソナリティに左右されることなく、広く深く浸透させるために重要な“仕組み化”についてパネルディスカッションや導入事例が披露された。

門外不出の「MUJI GRAM」、大人気「俺の~」シリーズ店舗運営に込められた想いなど、貴重な情報が明かされた

パネルディスカッションでは、株式会社フランチャイズアドバンテージ代表取締役社長の田嶋雅美氏がコーディネーターを務め、今やグローバル展開を果たし「無印良品」ブランドが世界に浸透しつつある株式会社良品計画代表取締役会長の松井忠三氏、提供される料理の味や手軽に楽しめるプライスが魅力な「俺のフレンチ」等の行列ができる飲食店を運営する俺の株式会社代表取締役社長の坂本孝氏が登壇した。

コーディネーターを務める株式会社フランチャイズアドバンテージ代表取締役社長の田嶋雅美氏

パネルディスカッションの冒頭、田嶋氏は日本の優良サービスチェーンの競争優位性について、製品クオリティ等に代表される「表の競争力」と日本式マネジメント手法や物作り精神に根付いた「裏の競争力」によって、コストパフォーマンスの高い商品・サービスを「いつでも、どこでも、だれにでも」等しく提供されることにあると述べた。そして、「日本人のDNAに刻まれた“おもてなし”の精神が存在する」と切り出した。「仕組みが9割という無印良品では、“おもてなし”も仕組み化しているのでは?」との田嶋氏の投げ掛けに「“おもてなし”は伝承が難しい」と語る松井氏。しかし、お客さまが満足していただける環境を提供することを仕組み化することは可能だとし、誕生したのが「MUJI GRAM(ムジグラム)」というわけだ。

無印良品の高品質で確かな顧客満足度を実現する要となるのが、この「MUJI GRAM(ムジグラム)」

無印良品が何故仕組み化を推し進めたのか、その経緯を窺い知ることができる貴重なお話をしてくださった株式会社良品計画代表取締役会長の松井忠三氏

この「MUJI GRAM」はケース別に13種、総ページ数で約2,000に及ぶという。松井氏は「100人の店長が存在すれば、100通りの店舗運営方法が存在していた。新たに出店する店長がどの店長の背中を見てきたかによって運営方法が継承されてきたため、画一した基準の必要性を感じた」と「MUJI GRAM」誕生のエピソードを明かしてくれた。また、無印良品の高い満足度を支える屋台骨とも言える「MUJI GRAM」は、定期的にメンテナンスを行うことによりマニュアルの欠点とも呼べる陳腐化を回避しているという。セミナーでは、実際の改訂画面が披露された。実際にお客さまと接する店舗でマニュアル改定案を入力し、エリアマネージャがチェック、本部によって最終的な確認が行われ承認されたのち改訂されるという。そして、驚くべきは改訂された「MUJI GRAM」がほぼ100%履行されるということだ。お客さまに確かな満足度を提供したいという想いから生まれたアイデアであること、そして、お客さまから数多く寄せられた感謝の声が「「MUJI GRAM」に則って行動すれば高い満足度を得ていただける」という実感が良いサイクルを生んでいるからに他ならないのではないだろうか。

また、セミナーでは門外不出の「MUJI GRAM」の一部が披露された。特徴的だったのは、すべての項目に「何のためにそれを行うのか」といった目的が記載されている点だ。「目的が記載されていないとつまらない作業になってしまう」と松井氏。「お客さまに癒やしを」など、目的を明確化することでマニュアルへの理解を促し、能動的に履行へ繋げる仕組みが見て取れる。陳列の善し悪しの例をビジュアルで示す、レジ台の使い方、お客さまとのお金の受け渡しの仕方に至るまで、事細かに記載されていたのが印象的だった。

前述したように、無印良品はマレーシアや台湾といったアジアはもちろん、欧米へも進出しているグローバル企業だ。そこで気になるのが、「MUJI GRAM」は世界でも通用するのかだろう。松井氏は「海外展開を意識して作られたものではないが、日本で徹底的に考え抜いて作られたマニュアルは世界でも十分通用する」と、自信に裏打ちされた笑顔で語っていた。

「俺の株式会社は仕組みが1割」と笑いを誘いながらも、坂本氏の考えるおもてなしには仕組みがある

時折笑いを誘う言葉を織り交ぜながら、自身が考える“おもてなし”や“仕組み化”について語ってくださった俺の株式会社代表取締役社長の坂本孝氏

「日頃予約が取れない、来店時に長時間お待たせすると“おもてなし”とは縁遠いのでは」と冗談めかして登壇した坂本氏。「飲食には素晴らしい力がある」と述べ、「人は食べ物を食べるとエネルギーが湧く。街の一角に行列のある店があると、その街に活気が生まれる。そして、エネルギーに満ちた街でお迎えするのもお客さまへのおもてなしのひとつ」と持論を披露。俺の株式会社が出店する店舗をみても判るように、各店を任されたシェフによりメニューや価格も異なり、一見仕組み化はされていないようにも見える。「俺の株式会社は仕組みが1割」と坂本氏が述べるや会場は笑いに包まれたが、あえて仕組み化していない理由も明かされた。「以前はガチガチのマニュアル人間だったのですが、料理人の個々の顔、技量の違いを楽しんでもらう飲食店をと考えていたら、いつの間にかマニュアル人間はどこへやら。当面は仕組みではなく“行列が30人を超えるか”が指標になった」とのこと。

こと“おもてなし”については、「働いている料理人、もてなしをするサービスマン、ワインソムリエが汗をかいて一生懸命仕事する姿こそが、飲食店にとって大切なおもてなしなのでは」と坂本氏。また、「お客さま以上に料理人を大事にしていく」との言葉も。その言葉には、会社が料理人を大事にもてなすことによって、料理人がお客さまに最大限のおもてなしを提供することに繋がるのだろう。会社、料理人、お客さまを巡る“おもてなし”の連鎖が功を奏し、長蛇の列を生む飲食店となるという良いサイクルを生んでいるのだ。このおもてなしの連鎖は、言葉を借りれば“おもてなしの仕組み化”と言えるのではないだろうか。

お客さまの満足度を自らのおもてなし基準の尺度とし「MUJI GRAM」にて仕組み化する良品計画。一見仕組み化されていないように見えながらも、会社から料理人やスタッフへ、料理人やスタッフからお客さまへ、全力でおもてなしをするという俺の株式会社の好循環。おもてなしの仕組み化という課題に対して両社異なるアプローチではあるが、実際に仕組み化できること、おもてなしが企業成長へと繋がることが伝わるディスカッションとなった。

おもてなしの仕組み化は、文化の壁も越えて世界で通用する

パネルディスカッションに引き続き、株式会社キタムラ代表取締役社長の浜田宏幸氏による「スタジオマリオ」での人材育成における仕組み化、過去名だたる企業で活躍し現在OMOTENASHI NIPPONアドバイザーとして活躍する上田比呂志氏によるディズニーで実践したおもてなしの事例紹介がなされた。

株式会社キタムラ代表取締役社長の浜田宏幸氏

浜田氏によれば、最高のおもてなしを実践するにはお客さまとの相互理解が重要だという。そのために、常にお客さま目線で物事を考えるようにし、自分の枠に囚われないよう心掛けているそうだ。また、「最高のサービスの提供 = おもてなしのひとつ」として捉え、写真館で重要なカメラマン育成に活かされた仕組み化の一部が披露された。カメラマンの世界は徒弟制度が今でも根強く、一人前のカメラマンになるためには時間を要するのが一般的だが、スタジオマリオのカメラマンにはそのような境遇を経た人は少ない。しかも、若い女性が多く活躍しているのが特徴で、紙のマニュアルに加え、撮影シーンの良い・悪いを映像で見せるなど工夫を凝らした人材育成を行っている。カメラマンスキルの見える化、その基準をもとに人材育成のPDCAを的確に行う仕組み化が功を奏している。

OMOTENASHI NIPPONアドバイザーの上田比呂志氏

上田氏は、自身がウォルト・ディズニー・ワールド・リゾートの「ワールドショーケース」で実践したおもてなしの秘話を紹介してくれた。当時、上田氏がワールドショーケースで担当した日本館において、レストランが上手く機能していなかった。その理由を探っていくうちに、食器類を下げたり、リネン類のセッティングを行うバスボーイ部門が上手く回っていないことが明るみに出た。機械的な業務に加え、裏方であるため、誰からも「ありがとう」と感謝の言葉を受けることがなかったことに原因があるのでは?と考えた上田氏は、「お客さまが日本館のテーブルが清潔で良かったと褒めていた」と彼らに対してゲストからの感謝の言葉を伝え、「人を喜ばせることで、自分にも喜びが返ってくる」と彼らに気付きを与えたのだ。この気付きから、おもてなしの精神を頭ではなく心で理解した彼らは、さらにお客さまに喜んでもらおうと日本伝統の折り鶴の作り方を学び、テーブルナプキンすべてを鶴にしてお客さまにサプライズをプレゼント。数ヶ月の後に順調に回り出し、お客さまからのクレーム低減に繋がったそうだ。

上田氏がアドバイザーを務める「OMOTENASHI NIPPON」は、株式会社サニーサイドアップや日本マイクロソフト株式会社などによる複数社が、2014年4月に立ち上げた共同プロジェクト。2020年に向け、注目度がさらに上がるであろう "おもてなし" を世界に発信するプロジェクトで、国内企業の参加を募集している。現在多くの企業からの問い合わせが入っている状況とのことで、国内企業のおもてなしビジネスに関する注目度の高さが伺える。

日本文化に根付いたおもてなし。仕組み化、おもてなしの実践で世界を変えよ!

接遇だけだと思われがちな“おもてなし”。しかし、その本質は、お客さまに対して最高の満足を、最大の喜びを提供したいと思う行為そのものだということがお分かりいただけたことだろう。また、企業、従業員、顧客の3者間において、どのように「おもてなしによる喜びの連鎖」を築いていくかが企業成長のカギを握りそうだ。



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