日本マイクロソフトは6月16日、「Microsoft IoT Summit 2014」の開催に伴い、同社の考えるIoT(Internet of Things)の未来像や、IoTに関する最新サービスの概要を説明するブリーフィングを行った。"IoT"は、多種多様なモノがインターネットにつながることで、生活や技術を変化させる技術、概念を指す。直訳すると「モノのインターネット」だが、我々のライフスタイルやワークスタイルに大きな影響を及ぼすのは明らかである。

登壇した日本マイクロソフト(兼 マイクロソフトディベロップメント)の加治佐俊一氏は、「IoTは複雑である」と前置きしながらも、現在のIT業界は2020年までに500億ものIoTデバイスが普及すると推測する。10年後ぐらいまでには、IoTデバイスに組み込むセンサーを年間で1兆個程度は生産する取り組みがあるという(図01~02)。

図01 日本マイクロソフト 業務執行役員 最高技術責任者 兼 マイクロソフトディベロップメント 代表取締役社長の加治佐俊一氏(写真左)。図02 日本マイクロソフトが捉えるIoTの現状。対応デバイスが増加しつつも、定義やアプローチ方法が不明確(写真右)

さらに、IoTについて調査会社やベンダーが異なるメッセージを発信しているため、どのようなアプローチでIoTに取り組めばよいか不明確であることを紹介した。加治佐氏によれば、このような現状はIoT固有のものではなく、新しい技術が世に出回る際にはよく起こる現象とのことだ。

その上でMicrosoftおよび日本マイクロソフトの視点として、「既存のIT資産を活かすところから始めるべきだ」と述べた。その理由として加治佐氏は「既に多種多様なシステムが構築済みである」とし、日本マイクロソフトは、既存基盤から生成されるデータをIoTシステムで活用していることを目指す。2014年5月末に国内で開催した開発者向けイベント「de:code」でも、IoTに関するセッションは行われたが、日本マイクロソフトがIoTに関して大々的に発表したのは今回が初めてである(図03~04)。

図03 既存資産を活かしながらIoTシステムの構築を目指すのが、日本マイクロソフトの視点

図04 既存デバイスをクラウドに接続したうえで、データの統合や、集積データから新たな価値や洞察を生み出すことを目指す

日本マイクロソフトがIoTシステムを構築する強みとして、まず第一に、Windows Embedded(組み込み型)を用いたWindowsデバイスであれば、そのままインターネットに対応していることを掲げた。2つめは、IoTシステムの構築において、必要なデバイスやソフトウェア、サービスを提供できる体制を強調。3つめとして、多くのパートナー企業と連携したソリューションを実現していることをアピールした(図05~06)。

図05 IoTに対する日本マイクロソフトの"強み"として、3つのポイントをアピールした

図06 IoT環境に関するデバイスやサービスとして、大半の部分を提供していることにも触れた

このような背景を踏まえつつ、加治佐氏は「大きな可能性を秘めていながらも、IoT環境は断片化している」と、IoTに取り組もうとする既存の問題点を整理した。例えば、データを1つとっても、加工やアクセス性、各データの互換性問題など、列挙すれば枚挙に暇がないのは事実である。この課題に対するMicrosoftの回答が、「Microsoft Azure Intelligent Systems Service」(以下、ISS)とした(図07~08)。

図07 既存資産を活用したIoT環境の構築時に発生する問題点

図08 「Microsoft Azure Intelligent Systems Service」の概要

ISSは、IoTを実現するために必要な機能を1つに統合したソリューションだ。具体的には、データ管理や処理、エンドポイントにあるIoTデバイスに対してエージェントを展開し、そこから得るデータをWindows Azure上に収集するといった多様な処理を、ワンパッケージで可能にするサービスである。

会場ではISSの事例として、ロンドン交通局(ロンドンの地下鉄)に導入した「London Underground Manager」を紹介。Bing Maps上に駅や路線が映し出され、問題が発生したところやメンテナンス路線が一目で分かるという。さらに、駅構内の温度やノイズ量がタイルで把握できるデモンストレーションも行われた。Waterloo(ウォータールー)駅に設置した監視カメラで、駅構内やホームの状況を映像で確認できる(図09~10)。

図09 ISSの導入事例として紹介した「London Underground Manager」。地図部分はBing Mapsを利用しているという

図10 駅構内に設置した監視カメラで、構内の様子やホームの状況を動画で確認できる

また、エスカレーターの振動が基準値を超えた際のトラブル対処として、保守スタッフの音声呼び出しや、メンテナンス指示の作成も行えるそうだ。各駅の状況を一覧表示するページからは、各スタッフがどこにいるかを簡単に把握できる。1863年から運行を始めたロンドン地下鉄だが、加治佐氏は「ISSの導入で安全性の向上や、管理システムの改善といったメリットがある」と述べた(図11~12)。

図11 エスカレーターなどでトラブルが発生した際は、保守スタッフへの指示なども行える

図12 各所点在する駅の状況は一覧表示可能。さらにスタッフの位置も確認できるという

ISSは、Windowsプラットフォームに固執するものではない。エンドポイントにあるIoTデバイスの種類は制限せず、Linux向けエージェントなどのサンプルコードを提供する予定とのことだ。現時点でISSは限定版パブリックプレビューだが、多数のユーザーを対象したパブリックプレビューは近日中に予定している。Microsoftおよび日本マイクロソフトは、このISSというプラットフォームと関連ツールをIoTの基盤として提供し、IoTソリューションに関してはパートナー企業に任せるという。

Microsoft Azureなどのキーワードを目にすると、今回の話題はエンタープライズ領域のように感じたかもしれない。だが、これからのIoTソリューションは我々の身近に現れる存在だ。1999年にIoTを提唱したKevin Ashton(ケビン・アシュトン)氏や、それ以前から存在する"ユビキタス"といったキーワードが具現化しつつある現在、物事はもっと便利に、そして新たなセキュリティ対策を求める時代が迫っている。

冒頭で加治佐氏が述べたように、今後ますますIoTデバイスは増加し、ビジネスが変化することで我々の社会が変化するのは明らかだ。今回のブリーフィングで、目の前に迫ったIoT時代の一部分が感じ取れた。

阿久津良和(Cactus)