「ノアの箱舟」伝説を映画化したラッセル・クロウ主演『ノア 約束の舟』が、世界39カ国オープニング1位の大ヒットを経て、6月13日に日本公開を迎えた。

本作でメガホンをとったのは、『ブラックスワン』『レスラー』で知られるダーレン・アロノフスキー監督。「見る者の期待を超える作品になっている」と自信を見せている監督に、作品に込めた思いや撮影秘話を聞いた。

1969年、アメリカ生まれ。ハーバード大卒。『π』(1998年)で長編映画監督としてデビュー。『レスラー』(2008年)でヴェネツィア国際映画祭金獅子賞を受賞し、『ブラック・スワン』(2010年)でアカデミー監督賞にノミネートされた

――13歳の時に「ノアの箱舟」の詩を書いたことが、本作のきっかけとなったそうですが、なぜ昔からこの物語に関心があったのでしょうか?

「ノアの箱舟」は、人類最高の物語の一つだと思うんだ。ユダヤ教、イスラム教、キリスト教と、主だった3つの宗教の核となる物語で、世界中の人が「ノアの箱舟」の話は聞いたことがあるだろうし、独自の洪水物語を持つ文化もほかに数多くある。この物語には、人類の根源となる何かがある。

――映画化するにあたって意識したこととは?

僕は、聖書に書かれていることを完全な真実の物語として読み、それに命を吹き込もうと思った。小説を映画化しようとする人間が、「これはどういう物語だろう。どうすればこれを尊重できるか」と考えるのと同じようにね。そして、映画の中では、キャラクターに感情移入できないといけない。この作品はかなりファンタジックな部分がたくさんあり、古代の物語なので、真実に根差したところが必要となる。そういう意味でも、みんなが理解できる人物にするということは意識していたね。

――聖書には短い記述しかないですが、どのように膨らませていったのでしょうか?

この物語には「第2のチャンス」、「希望」、「善と悪」などいろいろなテーマがある。そのテーマに忠実に、テーマに真実を与えるということに力を注いだ。実際、聖書の中のノアは、キャラクターがちゃんと描かれていない。彼は単に、神の言う通りにやるというだけの人物で、映画の中では、神の精神的状態をノアのものにした。聖書に出てくる神は、非常に憤りを感じて、怒りに満ちていて、最終的に恩赦のところに行きつくが、それをノアに与えたんだ。

――ノアは、神から与えられた使命を果たすことしか見えなくなります。過去の作品でも、極限に追い込まれる人間を描いていますが、監督自身がそういう人物に魅力を感じているのでしょうか?

凶器というものと、本当に何かを変えようと必死にがむしゃらになるというものの間には、細い線があると思う。どちらに転ぶかわからないという細い線が。僕はそこに興味がある。なぜ惹かれるのかは自分でもわからないけれど、とにかく惹かれるんだ。

――不可能と言われていた「ノアの箱舟」伝説の映像化を実現した本作では、CGI技術も駆使されていますね。

例えば、動物はすべてCGIで作った。本物の動物で撮影しようとすると動物園のようになるだけで、実際の世界中にいる動物は、もっと多種多様なんだ。それを全部映し出すとしたら、CGでやらないとできないと思う。雨は本物だけど、洪水と海もCGIだね。この作品はファンタジーの部分や奇跡がいろいろあるので、CGIにおいても、できるだけ現実的に見せようというのが狙いで、そこにはこだわったね。

――現実のものとして、巨大な"箱舟"を作られましたが、その狙いは?

役者は実際のセットで演じる方が絶対にうれしいと思う。どんなに想像力が豊かな役者でも、グリーンスクリーンの前に立っているより、9m、12mの高さに不規則に組まれた丸太の上に立っている方がはるかに演じやすい。CGIでは驚くようなことができるし、最高のツールだ。それでも、実際に撮影できれば、何か特別なものが生まれることは確かだ。

――監督が映画作りで譲れないものとは?

特にというものはなく、映画によって違うね。それはサイズや予算ではなく、一番達成感があるのは、役者の演技を引き出した時なんだ。その体験自体が、僕にとって財産になる。今回の最高の瞬間は、ジェニファー・コネリー(ノアの妻役)がラッセル・クロウに懇願するところ。あのシーンを撮った時、あの名演技が見られて、そこにいるだけで光栄だった。

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