「受動歩行」と「受動走行」

そして、受動走行について。受動走行というのは、歩行と同じく2本足(佐野教授の研究では1本の棒の両端に足部をつけたものを縦回転させることで、1本足による走行も実現させている)が内包している物理現象である。ちなみに「走る」とは、両足が共に宙に浮いている瞬間が必ずある2本足での移動方法のことで、両足もしくは片足が必ず接地している移動方法である「歩く」とは異なる。

佐野教授の研究室ではこの受動走行の研究も行っており、足運びは見事なまでにヒトの走り方と酷似しているのが動画8で見ることが可能だ。最高速度は、時速14.5kmまで到達しているという。ただし、受動歩行装置のように手放しというわけにはいかず、上から人が1本の紐を介してエネルギーを上手く与えることで走り続けること ができている段階だという。しかし、この走りを動画2のヒトに似せた外装を持つ下半身だけ受動歩行装置で行ったら、とてもヒトに近い走りを見ることができるのではないだろうか。

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動画8。受動走行の実験の様子

余談ではあるが、筆者が直接取材したり、動画などを見たりした限りでは、現在、完全に自立しての2足走行が可能なヒューマノイドロボットは、ASIMOと、ホビーロボット格闘競技会ROBO-ONEなどに参戦しているユーザーFrosyDesign氏のオリジナルロボット「Frosty」ぐらいしかない(ROBO-ONEのほかのホビーロボットもかなり脚部の回転が速いが、あくまでも歩行の範疇)。

ASIMOは0.1秒というわずかな時間ではあるが、両足が宙に浮いている瞬間があり、3代目は時速9kmでの走行が可能だ(画像4・動画9)。ASIMOがどのようにして走りを実現しているのかは、日本科学未来館で行われていた、ASIMOが自分自身について説明する実証実験の様子を撮影しているので、そちらをご覧いただきたい(動画10)。

画像4。ASIMOの両足が宙に浮いている瞬間を紹介した画面

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動画9。ASIMOが走る様子。実験では、時速10km以上を出しているという
動画10。ASIMOが走れる仕組みを自ら解説(日本科学未来館の実証実験にて撮影)

一方のFrosyは小型のホビーロボットであることと、かなり足の回転が速いので、なかなか宙に浮いているのを確認するのは難しいのだが、2014年6月1日に、横浜市のはまぎん子ども宇宙科学館でロボットゆうえんちが開催した陸上競技系ホビーロボット競技会の「アスリートCUP」の様子を動画で撮影してきたので、その走りの速さをご覧いただければと思う(動画11・12)。その動画から静止画を抜き出したのが、画像5で、ちょっとブレてしまっているが、宙に浮いている感じはわかってもらえると思う。ちなみに、ちなみに動画11を約10倍スローにしたのが動画13(ビデオカメラ自体にスロー撮影機能がないため、動きが少々カクカクしてしまっている点はご了承いただきたい)。

Frosyのこのバネの利いた走りは、文字通り脚部が弾性力を採り入れた構造になっているからで、それによりピョンピョンと跳ねるようにして走れるのである(画像6・7)。Frosyはもう何年も前からROBO-ONEにおいては圧倒的走行速度を持ったロボットとして知られており、2010年の大会では宙返りも披露している。

今回のアスリートCUPで動画を撮影した際のタイムは、手動計測だが5mを4秒34。時速に換算すると約4.15kmという具合だ。その時に2位に入ったのが、ROBO-ONEでも強豪選手のひとりであるくぱぱ氏の「クロムキッド」の6秒89(時速2.6km)だったことから、どれだけブッチギリだったがわかるだろう(1m未満での通常のホビーロボットでは、6秒台が限界ではないかと思われる)。

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動画11。Frosyが走る様子をローアングルで撮影
動画12。Frosyが走る様子を上方から。5mが短すぎるほどである
画像5。Frosyの足が宙に浮いている瞬間
動画13。動画11のスロー映像

画像6(左):Frosyの勇姿。画像7(右):Frosyの脚部のアップ。弾性力を利用する仕組みであることがわかるはずだ

また、ヒトの移動方法に関する進化の話として、ヒトが4足歩行から2足歩行に移行できたことについても、受動歩行の観点からの考え方を佐野教授は聞かせてくれた。受動歩行は筋肉をあまり使わず、その結果として脳もあまり使わないことから負担が少ないというメリットがあり、またその時の人類の先祖がそのメリットを理解できる程度の知能を持っていたこともあって、2足歩行を獲得するのに至ったのではないだろうかという。

ヒトの2足歩行の獲得についてはさまざまな説があり、筆者としても受動歩行の大きなメリットに気がついて2足歩行するようになったという佐野教授の考えにはうなずかされる。1点追加するとすれば、そのメリットに気がついたきっかけは何だったのか、というところだろう。

そのきっかけとなり得るのが、京都大学が2012年3月に発表した、エサを両手で抱えることでより多く持てることから、最初は欲張り(革新的に頭がいいともいえる)が2本足で立つようになったという説ではないかと思う。

欲張りがエサ場で両手を使って大量にエサを抱えたのは良いが、住み処に帰るには当然移動しなければならないわけで、強引に2本足で歩いてみたら、これが予想外に歩けるのを発見。受動歩行の恩恵を受けて、思っていた以上に疲れず、またバランスも保てるまま移動できた、というところではないだろうか(たまたま種族の中でも骨格や筋肉の付き方などで2足歩行しやすい個性を持っていたのかも知れない)。

そうして、その2足歩行をする個体が得しているのを見て、ほかの個体も真似を始めて、伝播していったというところではないかと思うのだが、いかがなものだろう。このあたりは、今後の研究の成果待ちというところがあるが、ともかく、受動歩行という物理現象が、人類の先祖が4足歩行から2足歩行に移行させた要因の1つであることは間違いないように思える。普段、1歩1歩自分の歩き方を意識しながら歩いている人なんてそうそういないと思うのだが、そんな「歩行」が感慨深く感じられるではないだろうか。