ロボットはどこまで人に近い歩き方ができているのか?

ちなみに余談ではあるが、現在、自立できるロボットで、なおかつ最もヒトに近い2足歩行が可能な大型のヒューマノイドロボットは、早稲田大学の高西淳夫教授の研究室で2006年から開発されている「WABIAN-2R」と、産業技術総合研究所(産総研) 知能システム研究部門の横井一仁副研究部門長兼ヒューマノイド研究グループ長が開発した「HRP-4C 未夢」が双璧だろう。

WABIAN-2Rは腰に2自由度があり(ほかのヒューマノイドロボットにはあまり搭載されていない)、ヒトの骨盤に近い動きを再現できることが、ヒトの歩行に近い歩き方を実現しているポイントだ。普段あまり歩く時に意識しないかも知れないが、歩行とは手足を交互に前後させるだけでなく、腰のひねりや上下動などかなり複雑な動きをしているのである。

一方の未夢は、産総研が歩行動作生成技術を改良して、腰を高い位置で上下させることで脚部のヒザを伸ばし、つま先で全身を支えることで歩幅を広げ、足を振り出す動作をヒトに似せたモーションを実現したという。未夢は2010年2月の屋外歩行実験の時点ではヒザを曲げて歩いていたことから、このヒザ伸ばし歩行が撮影された2011年の時点で、同じく産総研で開発された重心位置を自動的に調整して歩行を含めた各種モーションを生成してくれるソフト「Choreonoid(コレオノイド)」(2010年10月発表)などを活用することでこの新モーションを作成したものと思われる。どちらもYouTubeにアップされている動画である(動画3・4)。

動画3。WABIAN-2Rが歩く様子。腰の2自由度によって、ヒザ伸ばし歩行を実現

動画4。未夢が歩く様子。WABIAN-2Rとはまた若干違う感じである

そのほか、ホビーロボットなど小型のロボットでは、ロボットクリエイターの高橋知隆氏が2000年代前半に開発したロボット「CHROINO(クロイノ)」に搭載されたオリジナル歩行モーション「SHIN-WALK(シン・ウォーク)」、先日ソフトバンク系列のアスラテックのチーフロボットクリエイターに就任が公式発表された吉崎航氏が開発したロボット用OS「V-Sido(ブシドー)」(吉崎氏が産業技術総合研究所の研究者時代(2009年頃)に単独で開発した時は、「ヒューマノイドロボットのための演技指導ソフト」とされていた)を搭載したロボット、日本人ロボット研究家のDrGuero(ドクター・ゲロ)氏が近藤科学の2足歩行ヒューマノイド型のホビーロボット「KHR-3HV」をベースに改造した機体、などもある。

SHIN-WALKは実はヒザを伸ばしているとはいっても、ここで取り上げたほかのロボットたちが見せている普段のヒトの歩行というよりは、モデル歩きというか、ふんぞり返った歩き方というか、ちょっと異なるモーションなので、厳密には「ヒトに近い歩行」には含まれないかも知れない。SHIN-WALKに関する動画は、前述した高橋氏のロボガレージのサイト内にあるクロイノの紹介ページからダウンロードして視聴することが可能だ。

V-Sidoを用いた歩行モーションは、リアルタイム性や柔軟性を持つことから、従来のモーション作成ソフトのように、動作を1コマずつアニメの動画のように決め打ちで作るのではなく、極端な話、その場その場で対応しているので、ロボットにとっては倒れやすいヒザ伸ばし歩行でも問題ない仕組みだという(動画5)。ちなみに、吉崎氏のV-Sidoを用いたヒトに近い歩行モーションに関しては、後ほど別記事でアスラテックによるV-Sidoを用いたロボットOS事業への参入記者会見の模様の中でも詳しくお伝えする。

そして、DrGuero氏の改造型KHR-3HVはZMP規範型の歩行ではあるが、受動歩行の1種でもあり、両者のよいところを併せ持った歩行ということのようだ(そのほか、綿密な計算と職人芸的に調整が施されて歩行が実現されている)。こちらは2013年の公開で、YouTubeの動画で視聴することが可能だ(動画6)。

動画5。V-Sidoを用いたホビーロボットの歩行の様子。女性らしく見せるため、モンローウォーク封にされている

動画6。DrGuero氏の改造型KHR-3HVが歩く様子。ホビーロボットは足裏が大きいことが常識だが、とても小さい点がバランスの良さを物語る

また海外では、筆者自身は動画でしか拝見したことはないが、気持ち悪いほど生物的な足運びをすることで有名な、軍での荷役用として開発されている4本足ロボット「BigDog」でお馴染みの米ボストン・ダイナミクス(Googleに買収されたが)の2足歩行型ヒューマノイド・ロボット「PETMAN」も、かなりヒトっぽい歩き方をする。動画では転倒防止用にワイヤーで吊り下げられているものの、気持ち悪くなるほどヒト的な歩行(ちょっとガニ股でヤンチャな感じの元気のいい歩き方)をしており、内部の機構を見せないようにするためか、長い時間作業服のようなものをまとった状態で撮影されているのでヒトが入っていそうな雰囲気もあり、本当にロボットなのか疑ってしまうほどだ(動画7)。

動画7。ボストン・ダイナミクスのPETMAN。ちょっとやんちゃな感じ