去る2月8日に、新学術領域研究「環太平洋の環境文明史」主催による公開シンポジウム「環太平洋の環境文明史~マヤ・アンデス・琉球~」が開催され、領域代表である茨城大学の青山和夫 教授(画像1)を筆頭に、鳴門教育大学の米延仁志 准教授(画像2)、札幌大学の高宮広土 教授(画像3)、山形大学の坂井正人 教授(画像4)という具合で、遺跡の発掘といった人文科学系の日本を代表する4名の研究者が集結した。

シンポジウムでは青山教授が「環太平洋の環境文明史とマヤ文明の起源・衰退」、米延准教授が「環太平洋の環境変動:古代文明とのかかわり」、坂井教授が「アンデス文明の展開と環境文明史」、高宮教授が「奇跡の島々(?):先史時代のおきなわ」という題材でプレゼンテーションを実施。また、シンポジウムの最後には、記者会見も行われ、「環太平洋の環境文明史」プロジェクトの成果などの報告も行われた。プロジェクトの概要やその成果についてお届けする。

画像1(左):茨城大学の青山和夫教授。画像2(右):鳴門教育大学の米延仁志准教授。

画像3(左):札幌大学の高宮広土教授。画像4(右):山形大学の坂井正人教授

まず、「環太平洋の環境文明史」プロジェクトの概要について触れていこう。「環太平洋の環境文明史」は、平成21年~25年度において直接経費5億2470万円をかけて行われた文部科学省科研費プロジェクトだ。環太平洋地域では、先史モンゴロイドが拡散して多様な環境に適応していった結果、多様な文化の発展過程があった。しかし、欧米によって植民地化され、歴史の表舞台から消された環太平洋の非西洋型諸文明(メソアメリカ、アンデス、太平洋の島嶼など)も多い。今回のプロジェクトは、それらの盛衰と環境変動の因果関係を明らかにすることを目的として行われたものだ(画像5)。

画像5。環太平洋の環境文明史の調査地点。☆が文明史調査地点で、○が環境史調査地点

研究組織は、研究計画A01環境史班(代表:米延准教授)、研究計画A02メソアメリカ環境文明史班(代表:青山教授)、研究計画A03アンデス環境文明史班(代表:坂井教授)、研究計画A04琉球環境文明史班(代表:高宮教授)の4つの研究班で構成されている。アメリカ大陸とアジア大陸の両方を包括する文系と理系の多様な分野の代表的な専門家から構成されているという。

同プロジェクトでは、共同研究が推進された結果、湖沼の堆積物を用いて復元した精度の高い環境史を軸として、前述した環太平洋の広大な地域に展開した非西洋型の社会の実態を通時的に比較研究し、文系と理系を融合させた形の「環境文明史」という新たな学問領域を確立する土台を築くと共に、従来の西洋中心的な文明史観ではない、バランスの取れた「真の世界史」に近づけていったとする。

また同プロジェクトの主立った成果としては、環太平洋の非西洋型の社会が変動する自然環境によってインパクトを受け、その結果として単純に勃興して崩壊したのではなく、極めて長期間にわたる自然共生型の社会を持続してきたことを実証的に明らかにしたことにあるとした。

例えば、マヤ文明では周辺の文明・社会との地域間ネットワークを巧みに変化させながら社会の多様性を維持し、アンデス文明では乾燥化を乗り切るために居住地を変えると共に水路などの新しい技術を導入するなどして社会インフラを整備し、先史・原史時代の琉球列島では環境調和型の生業を展開したという具合だ。このように、新たな選択肢を見出して社会の回復力(レジリアンス)を高め、戦争、自然災害や人口問題など、社会が被る可能性がある大きな問題を連鎖させないことが、現代社会にとっても極めて貴重な歴史的教訓であるとしている。