KADOKAWA取締役相談役・佐藤辰男氏

こうして見ると、川上会長が述べる通り、2社の統合を「コンテンツ(KADOKAWA)とプラットフォーム(ドワンゴ)の統合」として見るのは一面的だといえる。強いていうならば、「リアル(KADOKAWA)とネット(ドワンゴ)の統合」というのが適切だろうか。

どちらかがコンテンツを生み出し、それがリアルとネット両方のプラットフォームで展開する――。両社が統合することで、ネットとリアルの両方にまたがったメディアミックス展開は、もっとスピーディーかつスムーズになっていくものと思われる。

これが、会見でも繰り返し述べられた「経営統合で期待されるシナジー効果」だが、一方でユーザーとしては懸念材料もある。これまではあくまでも中立的なプラットフォーマーであったドワンゴがKADOKAWAと強く結びつくことで、コンテンツの囲い込みが行われるのではないかという心配だ。

しかし、この点については川上会長が会見できっぱりと否定している。「KADOKAWAはこれからもコンテンツをYouTubeに提供するだろうし、我々もKADOKAWA以外のコンテンツをやっていく」という。

ドワンゴ代表取締役社長・荒木隆司氏

囲い込みが結果として新陳代謝を下げ、コミュニティを衰退させることは、ニコ動を7年以上運営してきたドワンゴなら当然わかっているはず。川上会長の言葉は本心だろう。しかし、KADOKAWA・DWANGOがそうした姿勢を保っていても、外部のコンテンツホルダーがどう考えるかはわからない。集英社、講談社などにとって、KADOKAWAは競合だからだ。「ニコ動の運営元がKADOKAWAになったなら、コンテンツの提供を考え直そう」となる可能性は否定できない。

KADOKAWA代表取締役社長・松原眞樹氏

会見でもこの点について記者から質問が飛び出したが、川上会長は「たぶんそうはならない」と否定する。というのも、KADOKAWA・DWANGOがいかに大きな会社とはいえ、「世界的に見るとちっぽけな存在」であり、「日本のコンテンツ業界がグローバル化していこういう状況では、信頼されるプラットフォームになることでいろんな協力が得られる」というのだ。

これはつまり、今後の海外展開を睨んだ言葉ととってもいいだろう。会見で海外展開の展望がはっきりと語られたわけではないが、漫画やアニメ、動画などのコンテンツをグローバルに展開していくのに、現時点でもっともふさわしい国内プラットフォームがニコニコ動画であることは間違いない。

会見では角川会長の「川上くんという若き経営者を手にした」という発言も

仮にニコ動が海外展開への入り口として信頼のおけるプラットフォームになれるなら、川上会長が言うようにコンテンツホルダーの協力も得られるかもしれない。ただし、それがあるとしても、まだ将来の話だ。当面は、「KADOKAWAのニコニコ動画」という印象を付けないよう、KADOKAWA色を出し過ぎない舵取りが求められることになりそうだ。

2社が経営統合したことによるシナジー効果がどんな形で表れるのか、それはまだわからない。コンテンツを楽しむいちユーザーとしては、意外と何も変わらなかったねで終わるかもしれないし、何か大きな変革が待ち受けているかもしれない。いずれにせよ、答えがわかるのはもうしばらく先の話になりそうだ。