グラフィックデザイナーの坂野公一氏による講演「クリエイターが語る、Creative Cloudと価値ある機能」が、六本木アカデミーヒルズ 49F タワーホールにて行われた。この講演は、アドビ システムズが「Adobe Creative Cloud」の導入を検討するユーザー向けに行った「Create Now Design Tour Special CS vs CC 徹底比較セミナー・特別編」の一環。実務の現場での活用例が学べるとあり、会場には多くのユーザーが集まった。

ブックデザイナーとアドビ製品は"長いつきあい"

坂野公一氏(welle design/ヴェレデザイン)

現在、第1期33巻が刊行中。全3期で100冊以上になる予定だそう

坂野氏は、綾辻行人、辻村深月、道尾秀介などのミステリー小説を中心に、1,000冊以上の装丁を手がけてきたブックデザイナー。普段から「Adobe Illustrator」や「Adobe Photoshop」を扱うユーザーであり、京極夏彦氏監修の「水木しげる漫画大全集」の復刊プロジェクトでは「Photoshop CC」を中心に活用しているという。講演の冒頭で、坂野氏は「カバーや帯など外側だけをデザインする場合もあれば、内側のページレイアウトまで行う場合もあります。レイアウトはInDesignですが、デザイン作業はIllustratorとPhotoshopを使うので、アドビさんとのおつきあいは長いです」と、自らのユーザー歴を語った。

「塗り・版ズレ」を原画に近づける作業現場

専用に作ったカラーチャートを参照しながら、高解像度スキャンしたデータに塗り調整をし、グレースケール変換した原稿を元にアミがけと着色を行う

「アンディ・ウォーホルの如く」書籍に残っている版ズレ

最初に、「水木しげる漫画大全集」における、原稿の修復作業の概要を解説した。1冊平均400ページ強という分量のため、修復作業は京極氏や坂野氏ほかスタッフ数人が分担して行っている。おもな作業は、主線のかすれや色ベタを復元する塗り作業と、原稿の汚れ除去。「できるだけ初出本のよい状態に戻す」ことを基準に、版ズレの調整やレイアウトの再現、コマの復元など忠実な再現を目指している。色ベタの塗りは、書籍の色アミ点から抽出して作成した専用カラーチャートを用い、モノクロページも含めて2色刷の状態に戻していくのだという。

また、カバーデザインのボツ案や背表紙案、編集会議中の光景など制作現場のエピソードも公開。めったに見ることのできない貴重な画像や内容に、参加者たちは熱心に耳を傾けていた。

ボツになったカバーデザイン案

初期に提案した背表紙デザインのCGモック