4月5日からイベント上映中の『THE NEXT GENERATION パトレイバー』第1章の大ヒット御礼として、押井守総監督がホストとなり、ゲスト招いて行うトークイベント・第1回「マモルの部屋」が、14日に都内の劇場で開催された。

左から押井守総監督、シバシゲオ役・千葉繁氏、司会・小林治氏

今回は、本作にとどまらず押井作品になくてはならない人物、俳優・声優の千葉繁氏を迎え、昔話を交えながら作品についてのトークを展開。押井作品の歴史を知るファンにとっても聞き応えある内容となった。

「ブースに行かない主義」の押井監督が実写映画を作るまで

押井監督作品の"常連"である千葉氏。その出会いは35年以上前に遡る。テレビアニメ『ニルスの不思議な旅』にグスタ(ニルスと共に旅をするガンの群れの一羽)役と各話演出として両氏が参加。その前にも『ガッチャマン』などで接点はあったが、当時は直接言葉を交わすことはあまりなかったそうだ。

アフレコに立ち会っても「基本的にブースに行かない主義」だったという押井監督。声優への指示は音響監督を通して伝えるのが常で、レギュラー出演していた千葉氏とも話す機会はほとんどなかったという。

押井守監督の作品一覧

千葉氏:『ニルスの不思議な旅』出演中、お昼を食べに行った先にたまたま押井監督がいらっしゃったんです。押井さんは普段あまりしゃべらない方なんですよ。しゃべりだすと止まらないんですけど。その時ほんとに二言三言、会話を交わしたくらいですね。

しかし押井監督は、グスタの演技が印象に残り、千葉氏のことはハッキリ認識していたという。『うる星やつら』製作時には、後に「メガネ」となる「生徒A」役に千葉氏を指名し、シリーズを通して"押井版うる星"を象徴するキャラクターとなった。ここでもあまり会話はなかったお二人だが、この時の音響監督・斯波重治氏が、後に映画『紅い眼鏡/The Red Spectacles』製作につながる企画を押井監督に持ちかけることになる。

千葉氏:最初はLP作品(※オーディオドラマ等を収録したLPレコード)を作ろうと言っていたんです。シナリオなどを誰にお願いしようかとなったときに、押井さんのお名前が出て。

押井監督:だから最初は映画じゃなかったんです。多分僕が、どうせなら映画にしません? という話をしたような気がする……。

もともと顔出しの俳優として活動し、スタントマンでもあった千葉氏なら「役者として出てもらったら絶対面白いだろう」という考えから映画を企画したというが、予算もない中で作り始めたものが結果的にけっこうな大事になる。

押井監督:お金がないから録音スタジオを舞台にして、声優をやっている男が、仕事が終わると正義の味方になるという。モデルガンか何か持たせて走り回れば何とかなるだろうと思っていたんですよ。

結局150分近い長編になった作品を、なんとか削って116分に。その後、カンヌ国際映画祭へ出品するという話が持ち上がりフランス語字幕版がプリントされたが、他の作品に譲ったため"幻のプリント"になったという。(※フランス語字幕版は、4月12~18日「キネカ大森開館30周年記念 大感謝祭」にて上映された)

二人が「普通にしゃべるようになった」のは『紅い眼鏡』からだという

続いてOVAに始まる『機動警察パトレイバー』シリーズでは、千葉氏を強烈に印象づけるキャラクター・シバシゲオが登場する。押井監督は、企画の早い段階でこのキャラクターが作られ「シバシゲオという名前がある以上は、千葉氏をモデルにしたことは間違いない」とキャラクター誕生を振り返った。キャストはもちろん指名だ。

千葉氏:(アフレコに)行ったら俺がいたんですよ(笑)。

押井監督:最初にテストでラッシュを流した時に、あっ俺がいる! って。

アニメーションではなく実写作品のアフレコをしているようだったという千葉氏。役作りは基本的に何もしなかった、というより「やらない方がいいと思った」そうだ。

千葉氏:(アドリブは)そんなに入れていなかったと思いますよ。

押井監督:いや、半分くらいはアドリブでやっていた(苦笑)。"張る"芝居はほとんどアドリブ。何を言っているのか本人もわかってないんだよ。たまにとんでもないことを言う時があるので、それは面白いけどダメって(カットする)。

歴代シバシゲオの変遷(写真右)

今回の実写版でもそれは健在だ。実写だけにセリフ以外の動きにもアドリブが多いという。

押井監督:後半ではちょっとシビアな役になってくるんですけど、そこからはちゃんと芝居をしていた。

千葉氏:班長としてやらなきゃいけない部分はきっちりやってます。ただ、若い整備員を叱咤激励するとか、そういったところは基本的にお任せしますと言われましたので。あくまでも整備班長としてのアドリブです。