シニアフライトパーサーの大西久美子さん。2002年に入社され、現在ではファースト、ビジネス、エコノミーの全てのクラスで乗務されている

2013年には、英国の航空サービスリサーチ会社であるスカイトラックス社から「ワールド・ベスト・エアライン」を受賞されるなど、世界に多くのファンを抱えるエミレーツ航空。帽子から下がるスカーフを優雅に巻いた客室乗務員(CA)は、ベースであるドバイのイメージも相まって、異国情緒あふれる気品を感じる。そんなエミレーツのCAに、"ここだけの話"をうかがってみた。

「かもめまゆげ」はNG!?

取材に応じてくれたのは、CAとして乗務する傍ら、機内のあらゆるサービスを対象とした商品開発部で活躍されている、シニアフライトパーサーの大西久美子さん。2002年に入社され、現在ではファースト、ビジネス、エコノミーの全てのクラスで乗務されている。なお、CA採用にまつわる話はこちらから。

同社は2008年に新ユニホームを採用し、女性はホワイトのブラウスにレッドとベージュを基調としたスーツを合わせたデザインになっているが、パーサーの大西さんは茶色のユニホームを着用。スカートのプリーツには、刺し色としてベージュが配色されている。CAとパーサーでユニホームのカラーは異なるが、それ以外の規定は統一されている。以下はその一例だ。同社のコーポレートカラーであるレッドは、制服のみならず化粧においてもポイントになっている。

・ピアスはパールかクリアなカラーのジルコニア
・襟に髪がかかるようなら、夜会巻きやポニーテール、お団子でまとめる
・まゆげがつながっていればそる
・手のひらから見て爪が見えないようにする
・マニキュアや口紅はレッドのみ
・腕時計はゴールドかシルバーで、装飾のないアナログタイプ。皮バンドならブラックやブラウン

外国人CAが日本路線を希望する理由

同社の本拠地であるドバイは、世界でも数少ないオープンスカイ(航空自由化)政策を採用している都市ということもあり、同社の就航地も計80カ国142都市と世界を広くつないでいる。そこで活躍しているCAは現在約1万8,000人おり、出身国は130カ国にもなる。そのうち、日本人CAは約450人。日本路線(成田/羽田/関空)では、1機につき最低6人以上の日本人CAが乗務している。

2008年から採用している制服。ベージュとレッドが基調となっている

キャリアによっては国内・国際線のほか、ヨーロッパ路線やアメリカ1路線などと担当路線を定めているところがあるが、日本の国土の5分の1程度であるアラブ首長国連邦内ということで、そもそも同社には国内線という概念がない。また、専門路線もないため、CAは月に8~10フライト、世界の様々な路線で乗務することになる。

路線はシステムで管理されているため、必ず希望が通るというわけではないが、CAは乗務したい路線を申請することができるという。そうなると気になるのが「CAたちに人気な路線」だ。

「日本人CAだと、アメリカやヨーロッパは人気です。CAはもともと旅行好きな人が多いので、乗務と乗務の間のプライベート時間を有意義に過ごしたいと希望する人も少なくありません。また、美容への意識が高い人も多いので、バンコクなどのアジアで美を高めたいという人もいます

一方、外国人CAに人気なのは日本路線です。日本人は時間を守り、席に着けば何も言わずにシートベルトを締め、周りの人への配慮もできるなど、マナーがあることをCAたちも実感しています。また、日本人のジェスチャーも『かわいい』と評判です。例えば、いらないという時に手を横に振ったり、自分を指す時に鼻に指先を向けたり。純粋に『かわいい』という気持ちから、CA同士が裏でまねをしていることもあります。マナーがあるという理由で、ドイツ路線も人気です」。

こんな話を聞いてしまうと、ちょっと海外キャリアに乗るのが楽しみになってこないだろうか。

サプライズに備えてカバンに入れておくもの

機内という特殊な環境で、また、いざという時には「航空保安員」として乗客の安全を守るCAは、その華やかさの裏で様々な努力と心がけをしている。実際、大西さんは健康管理や体力づくりのために、2日あけることなくランニングをしており、バランスのとれた食生活を習慣にしているという。

そして今回は特別に、ふだんどのようなものを持ち歩いているのか、カバンの中を見せていただいた。以下が、そのカバンの中にあったものである。

乗務の際、大西さんがバッグに備えているもの。バッグもエミレーツが支給

スカーフはマジックテープ付きで、帽子からの着脱も簡単

・化粧道具
・コンパクトカメラ
・着圧ソックス
・ホットアイマスク
・筆記用具
・メッセージカード

着圧ソックスとホットアイマスクは、機内で就寝するためのもの。通常、機内の後部にはカプセルホテルのような2,3段のベッドが設けられており、CAたちは交代で就寝している。限られた空間と時間で身体をしっかり休ませるために、この2つのアイテムは手放せないと大西さんはいう。

しかし、メッセージカードは何に使うのだろうか。表には「Get well」「Happy birthday」「Thank you」と書かれている。

「これは、機内でサプライズをしたいというお客様がいた場合などに備えて持ち歩いているものです。日本ではあまり多くはありませんが、『機内でプロポーズをしたい』『誕生日のお祝いをしたい』などとおっしゃるお客様も中にはいらっしゃいます。そんなお客様に差し上げるために用意しています。また、事前に申請が必要になりますが、バースデーケーキなどでしたらどのクラスでも、無料でお出しすることができます(シャンパンは有料)。

過去には機長が、『○○席の○○さんが、今から○○席の○○さんにプロポーズいたします』と、アナウンスすることもありました。このようなリクエストは常にお受けできるわけではなく、状況が許す場合のみの対応となりますが、プロポーズ成功の後は、皆さんが自然と拍手されていたようです」。

自然と身体が……

最後に、"職業病"について聞いてみたところ、「困っている人がいるとつい見てしまう」ということだった。客が求めることをくみ取る、きめ細やかなサービスを心がけているゆえに、日常生活でも周囲の人が求めることに敏感になってしまうのだろう。

こうしたことをお話しいただいている中で、筆者はある"職業病"を大西さんに感じた。「見ていますよ」と話されるそばでやっていた、ボディーランゲージである。正確に言うと"職業病"というよりかは、エミレーツという環境ゆえの習慣だろう。様々な国籍の人たちがいる中でコミュニケーションをとろうとすると、よりダイレクトに、より分かりやすく伝えるための身ぶり手ぶりは有効に働く。

「そういえば日本の友人に、『動作が増えたね』と指摘されることもありました。私自身、全く意識はないのですが……」という。

もうひとつ、こちらも正確には"職業病"とは言えないだろうが、ある単語に対して日本語が出てこないという一面も何度か見られた。様々な国の人と様々な地域で出会うという環境ゆえに、身についた習慣はやはり国際規格のようだ。

インタビュー中も、ジェスチャーを交えてお話してくださった

142都市に就航する、世界トップクラスのエアラインであるエミレーツ。アラブの伝統を生かしたスカーフ姿のCAに、今まではちょっとためらいがちに声をかけていたかもしれない。しかし、今後は「日本人好き」という一面を思い出していただきながら、気軽で落ち着く空の旅をサポートしてもらってみてはいかがだろうか。