理化学研究所(理研) 細胞リプログラミング研究ユニットリーダーの小保方晴子氏は4月9日、大阪市内で会見を開き、4月8日付で理研に提出した「STAP細胞」の論文にかかる最終調査報告に対する不服申し立ての内容などの説明を行った。また、同会見には小保方氏の弁護団である三木秀夫 弁護士と室谷和彦 弁護士も同席し、説明の補足を行った。

冒頭、小保方氏は、「このたびはSTAP細胞に関する論文の問題において、私の不勉強、未熟さゆえに、沢山の疑義が生じてしまい、理研や共同執筆者、そして多くの方々にご迷惑をおかけしてしまい、誠に申し訳ありませんでした。責任を感じております」としたほか、「筆頭著者である私から何も情報を発信できなかったことを重ねてお詫び申し上げます」とし、頭を下げた。

ただし、論文の内容については、「多くの研究者の方々から見れば考えられないレベルでの間違いがたくさん生じていると思われるかもしれないが、この間違いによって論文の結論に影響がないことと、なによりも実験は確実に行われており、データが存在することから、決して悪意を持ってこの論文を仕上げたことではないとご理解いただきたい」と、論文の結果に対する正当性を主張した。また、不服申し立てについては、「調査結果は、事実関係をよく理解してもらえないまま判定されたもので、弁明と説明の機会を十分に与えてくれたなら、必ず間違いが起こった経緯を理解してもらえる」という思いがあることから、行ったと説明した。

小保方氏とその弁護団が争点にしようとしているのは以下の6つの疑義のうち、調査委員会が「改ざん」と「ねつ造」とした2つの疑義(2番目と5番目)。

  1. Figure 1f(Fig 1f)のd2およびd3の矢印で示された色付きの細胞部分が不自然に見える点
  2. Figure 1iの電気泳動像においてレーン3が挿入されているように見える点
  3. Methodの核型解析に関する記載部分がほかの論文からの盗用であるとの疑い
  4. Methodの核型解析の記述の一部に実際の実験手順とは異なる記述があった点
  5. Figure 2d、2eにおいて画像の取り違えがあった点。また、これらの画像が小保方氏の学位論文に掲載された画像と酷似する点
  6. Fugire 1b(右端パネル)の胎盤の蛍光画像とFig 2g(下パネル)の胎盤の蛍光画像が極めて類似している点

電気泳動像におけるレーンの挿入問題については、「研究不正と論文掲載の方法が不適切であるということが混同されている」(室谷弁護士)としており、研究の結果がなかったのに、さもあったかのようにすることが「改ざん」という研究不正であり、この件については2枚の写真ともにもともと良好なデータであり、結果自体は存在しているため、こうした行為に当たらず、掲載方法に関する問題であり、「改ざん」という問題には当たらないとの見方を示した。

また、調査委員会が実際に再現しようとしてうまくいかなかった点が、調査委員会が小保方氏の証言を信用できないものとしていたが、弁護団が小保方氏に確認したところ、ゲル2の写真を80%に縮小し、さらにその画像が若干曲がっているため、2度傾けることでまっすぐに直すことで、バンドがすべて一致し、不要な部分をトリミングすることで図が完成するとし、小保方氏の説明どおりずれは生じないことを示した。この手法は不服申し立ての資料としても提出されているという。

調査委員会が最終報告において、改ざんがあったと指摘した電気泳動画像の元となったゲル1、ゲル2の2枚の写真(左)。右は調査委員会が行ったゲル1を拡大することで再現を試みたもの。今回の会見で、小保方氏は、ゲル2を縮小し、角度を調整することで再現できるとした

「このような説明を調査委員会が十分に聞き取りをせずに、自らの検証を元に、誤っている、ずれが生じている、ということを前提にして判断したということに、こちらとしては非常に不服に思っている」(同)とした。

また、「ねつ造」と認定された画像の取り違え問題についても、研究不正と層の異なる問題を混同しているとした。室谷弁護士は、ねつ造の言葉の意味を「理研の規程では、ねつ造の定義はデータや研究結果を作り上げ、これを記憶、または報告すること、作り上げという言葉の意味としているとし、今回の件は、実験を行っていないのに、存在するように画像を作るといった典型的なねつ造例や、実験を行ったものの、異なるデータから存在しない画像を作出したといった行為ではなく、骨髄由来の実験からSTAP細胞の画像を得ているほか、脾臓由来の実験からも画像を得ており、存在しないものを作りだすという行為はまったく行われていないと指摘。掲載された論文では脾臓由来とされるものが取り違えていることが問題であり、「ねつ造」とは別の次元の問題であると考えられ、無いものを載せたわけではなく、そうした混同をしていると判断できるほか、著者自らがこの間違いを発見し、申告し、訂正原稿を提出していることも踏まえ、ねつ造ではないと考えられるとした。

ちなみにこの論文に掲載された画像については、共同研究者が集まって話し合うラボミーティングのパワーポイント資料にのみ使用されたもので、学位論文に用いられたものではないと小保方氏は記憶しているとしており、調査委員会が学位論文では骨髄由来であり、その違いを理解しているはずだとしていう主張が崩れるとした。ただし、ラボミーティングは複数回実施されており、その都度、情報が更新されていくことから、どのタイミングの資料の画像が用いられたまでは小保方氏の記憶にもないという。

「調査委員会の主張は、重要な図であり、間違うはずのないものなのだから、間違うはずがない、というものだが、この論法は合理的な理由が存在しているわけではなく、調査委員会においては調査が不十分であったといえ、再調査を実施してもらい、こうした点を判断してもらい、正確な判断をしてもらいたい」と室谷弁護士は語る一方で、小保方氏は、「データの整理が十分ではなかった。元データを確認していれば、このような取り違えは生じなかったと反省している。しかし、調査が不十分であったという点は否めなかった点、ならびにねつ造という結果が出されたことは納得できなかったことから不服申し立てを行った」と反省の弁と不服申し立てを行った胸の内を述べた。

左がそもそもの取り違えた画像。中央が論文掲載画像と学位論文の比較であり、右が重ね併せてみた結果。最終報告では学位論文に類するものから使用されたとし、その結果、STAP現象の存在を示す重要な図において、骨髄由来と脾臓由来を取り違えるはずはないという判断からねつ造という判定を行った

この会見において小保方氏は論文の作成方法について、「不勉強なままで自己流でやってしまったことは反省している。申し訳ありませんとしかいえない」と何とも反省の弁を述べていたが、一方でSTAP細胞そのものの有無については、「STAP細胞の作製については200回以上成功している」とし、今回の論文についても、「現象論を記述したもので、最適論を記述したものではないという認識。これから最適条件を示すメカニズムを記した論文を準備しようとしていた」と、あくまで今回の論文は、STAP現象というものがあることを示すものであることを強調。実際に多数の研究者などがSTAP細胞を確認しており、名前は伏せられたが、小保方氏とは関係のない外部の研究者がSTAP細胞の作製に成功したことがあることも明らかにされた。

また、最終報告の会見で明らかにされた実験ノートが3年間で2冊しかなかったことにも反論。調査委員会が、ある条件を示した中で、提出できる範囲にあったのがその2冊だけであり、実際には少なくとも4-5冊のノートが存在するほか、ハーバード大学などにもノートが存在するとした。

なお、小保方氏は、論文の撤回について「国際的に、その結論が完全に間違えであったと示すことになると考えている。著者として間違いであると発表することになるので、結論が正しい以上、撤回は正しい行為ではないと思っている」と、あくまでSTAP細胞が存在しているという立場から撤回自体に同意をしていないという考えを示しており、STAP現象の証明のためにも、第3者による再現実験の成功などが必要であるとした。