GTC初日の基調講演で発表されたJetson TK1は、Tegra K1を使った開発ボードが販売される。開発ボードには、Jetson TK1とJetson TK1 Proの2つがあるが、一般売りされるのは、Proではないほうの「Jetson TK1」(以下TK1)である。Pro版は、自動車メーカー向けで、車内ネットワークなどに使われるCANインタフェースなどが含まれるなど車載用の仕様で、こちらは、自動車メーカーなどへの直接販売のみになっている。TK1は、4月から米国でオンライン販売が行われるが、日本国内でも代理店から販売が開始される予定だという。

ちなみにJetsonという名称は、日本で1960年台にNHKで放映された「宇宙家族」(原題The Jetsons。最近では、宇宙家族ジェットソンという名称になった)という米国のアニメーションのタイトルから。未来の家族という設定で、エアカーに乗って通勤、ロボットの家政婦などが登場する。また、Transmeta社のプロセッサのコードネームに使われたAstroは、このジェットソン家の飼い犬の名前だった。また同時期に松下電器が米国の家電向けイベントCESで、ロボット家政婦をイメージキャラクタに使ったこともある。

この開発キットは、いわば「スーパーコンピュータ版Raspberry Pi」とでも言うべきもの。Raspberry Piは、ARMプロセッサを使ったLinuxなどが動作するボードコンピュータで、教育向けとして開発されたが、ホビー領域での利用も増えている。

TK1も同じように外付けストレージを用意し、ディスプレイやキーボードを接続すれば、Linuxコンピュータとして動作する。違いは、同じARMコアを使いながら、TK1には、Kepler世代のGPUが搭載されていて、カメラによる物体認識などの高度な処理が可能になる点だ。

製品版には、ファンが付属する。写真右側のコネクタは、外部記憶装置への電源供給用。PC電源の出力コネクタと同じ。そのとなりはミニPCI Expressコネクタで、ノートPCで無線LANモジュールなどを接続するものと同じ

コネクタ側。右からシリアル(RS-232)、HDMI、USB 3.0、ギガビットイーサネット、音声入出力、マイクロUSB(ABコネクタ)。写真右側にならんでいるのは拡張用ヘッダコネクタ。色のついたピンは、タッチパネル用のSPIだという

本体背面側。こちら側にも部品が配置されている

付属のACアダプタとJetson TK1

開発キットには、TK1ボードのほか、専用ACアダプタ(USB給電ではない)と画像認識ソフトウェアなどが付属する。発表写真などでは、Tegra K1チップを見せるために冷却ファンが外してあったが、実際の製品には、CPUには冷却ファンがついている。これは、ロボットなどの内部に組み込まれる場合や、開発中に高負荷で連続処理させるような場合を想定してのことだという。Tegra TK1は、スマートフォンやタブレットに使われる場合には、ファンレスだが、それなりに放熱対策は行われている。しかしTK1では、利用環境が仮定できないため、ファンを付けてあるとのことだ。なお、CPUファンは、PCのマーザーボードと同じような構造で基板上に差し込みピンでとめてあるため、外して、システム側の冷却機構を使うことも不可能ではないだろう。

CPUは、Cortex-A15を4コア(と省電力実行用のコアがさらに1つ)したTegra K1で、メインメモリは2ギガバイト、16ギガバイトのストレージ(eMMCメモリ)、起動用の4メガバイトのフラッシュメモリを内蔵している。ボード上には、ミニPCI Expressコネクタ、シリアルATAコネタク、電源出力コネクタ、拡張コネクタ、SDカードスロットなどが配置されている。

側面には、PCのマザーボードのように各種のインタフェースコネクタがある。それには、

  • RS-232C(DB-15)
  • USB 3.0
  • HDMI
  • ギガビットイーサーネット
  • サウンド入出力(ミニプラグ)
  • マイクロUSB(USB 2.0。ホスト/クライアントが切り替え可能なOTG)

などがある。

また、拡張コネクタはヘッダコネクタになっていて、

  • ディスプレイポート/LVDS
  • SPI(タッチパネル接続用)
  • GPIO
  • UART
  • Camera Serial Interface(カメラ接続用。CSI-2)
  • HSIC(High-Speed Inter-Chip。USBベースのシステム内部接続インタフェース)
  • I2C(2線式のシリアル接続インタフェース)

などの信号(Tegra K1からの信号)が出力されている。

米国での価格は192ドルとされており、1ドル110円換算でも2万1千円ちょっと。Ubuntuディストリビューションが標準になっていて、このうえでOpenGLやNVIDIAのVisionWorks Toolkit、CUDA Toolkitなどが動作する。

2足歩行のロボットにはちょっと大きめだが、タイヤで走行するようなロボット(マイクロマウスみたいな……)ものには簡単に載せられる大きさだ。最近では、前期のRaspberry PiのほかにArduinoなど、ボードコンピュータを使った工作がはやっているが、このTK1は、高価だが高い性能があり、画像認識などの複雑な処理をリアルタイムでこなすことも可能だろう。発売が開始されたら、日本でも流行るのかもしれない。