未来とビジネスについて、ゲストの加藤氏が語る。加藤氏は大学を出て銀行マンになり、銀行を辞めて代理経営や投資のビジネスを始めて、テクノロジー分野という伸びしろがあり、次の世代に何かを残せるジャンルを伸ばすために若い才能、技術に支援行う会社を作る。二足歩行ロボットの技術開発に成功した『シャフト』という会社を支え、さらに投資会社をやっている人物だ。

加藤氏:ビジネス向けの公演でも言うのですが、リアリティの喪失、消滅が大手企業を凋落させているんです。一度大企業の看板を外して「ブランドに頼らずにモノを売る」ということがいかに難しいことなのか、誰もやってない新しいものを売るのがどれだけ難しいかを知らないので、大きくなってしまった企業はどう利益を上げるかを戦略やマーケティングだけで考えて、モノを作って売るというリアリティを失っている。

加藤氏:アニメの現場というのもいろんな場所から異端児が集まってきていて、それはリアリティの集まりだったと思うんですよね。それが具体的なものがどんどん抽象的になり、「アニメ」という看板が付き、マニュアル化していっているのではないでしょうか。昔は企業には戦略とかマーケティングなんてものは言葉すらなくて、体当たりでモノを売っていた。そのノウハウを煮詰めてコンパクト化すると、戦略とかマーケティングという方法論が出来上がる。ですがモノを売るというリアリティを持たずにマーケティングを学ぶと、モノが売れなくなっちゃうんです。

富野監督は大きく頷いた。

富野監督:ボクが言葉にし辛かったのが、そのリアリティの消失です。僕は大学生の時、先輩からマーケティングリサーチというものを聞いて、物事を考える時にマニュアル的なものがあるとわかりやすい、マーケティングをすればモノを売ることができるんだ、と信じ込まされそうになったんです。僕は虫プロに入ったんでそれを考えないで済みましたが、ちょっと頭のいいヤツはこういうものにコロッと引っかかる。そしてそいつらはガンガン嘘をつくんです。今日の今日まで。それでこういう世の中になってしまった……すいません! ここではこれ以上の話はできません!(場内爆笑)

しかしながら、この話題の時、爆笑と共に大きな拍手が会場から起こった。聴衆もこのおかしさを感じていたわけだ。アニメも含めた「社会の構造の問題」というのは、簡単には解決できない。ではどうすればいいのか? ということが次のテーマとなってくる。

富野監督:問題を明らかにして次世代に残す、となった場合、アニメという媒体の素晴らしさによって未来が少し見えてくるんです。アニメとは画を動かすもの、動画です。画というものは「記号性」が高いんです。35年間、ガンダムが人気を保っているのはアニメという「記号」で表現されているものだから。一番一般的な概念、常識というゼネラルに考えられている「100年語り継いでいい」ようなものの考え方、「摂理」を伝えるには一番便利な媒体なんです。

実写だと、作品に時代性が張り付いてしまう。画にも時代性はあるが記号に近いため時代性が実写より薄くなるというのだ。それはあの1979年の時代感というものを含みつつも、今でもガンダムの描かれている景色、作品の世界観が古びれずに残っていることが証明している。アムロは携帯もネットも使っていないが、スペースコロニーのある現代より先の時代にいる人間にちゃんと見える、だから未来に何かを語り継ぐには実写より適しているということなのだろう。