北海道には、手のひらにのせて愛でることのできる尻があるという。 しかも、赤ちゃんの肌のようにぷにぷにで、「食べちゃいたいくらいかわいい」その尻は、実際においしくいただくことができるのだ!
「銘菓」ではなく「迷菓」
その尻を作っているのは、北海道は様似(さまに)町にある御菓子屋「梅屋」。昭和初期創業の老舗だ。そして、この店で誕生以来、ネットでも話題沸騰の迷菓が「尻餅」だ。「銘菓」ではなく「迷菓」と記したのは筆者の意向ではない。実際にパッケージにそう記されているのである。
同店2代目店主の平田能久(よしひさ)さんによると、迷菓誕生のきっかけとなったのは、80年代に始まった一村一品運動だという。「当時の北海道知事だった横路さんの提唱で、うちの街でも名産品を作ろうということになったんです。そこで、この地域のお土産といえば海産物が定番だったんですけど、何か変わったものができないかなあと考えまして……」。
その結果として尻餅が生まれたとはどういうわけだろう?
「JR様似駅は、日高線の“どん尻”の駅(終着駅)にあたるんですよ。加えて、町のみんなで集まって酔っぱらって話してた時に、『"尻餅をついた"っちゅーけど、ついた餅は見たこともない!』っていう話題が出たこともきっかけですね」。
"それなりにリアル"を目指し
いかにも飲みの席ならではの話題を元に、本当に商品化に向けて動き出しちゃうのが、平田さんのすごいところ。
「最初はね、砂や雪の上で転んで打撲してひっこんだお尻を作ってみたんだけど、それじゃあ何だか面白くなくって。次にお尻の丸みをしっかりと再現したら、今度はリアルすぎて(笑)。じゃあ腰の部分まで作ればいいかな?と考えて作ってみたところ、いい感じに"それなりにリアル"に仕上がったんです」。
思考も言葉選びもユニーク極まりない平田さん。当時を振り返りながら話してくれるその口調からも、制作を楽しんでいることが伝わってくる。
「餅の色も最初は肌色にしてたんですけどねえ、やっぱりリアル過ぎるのが気になって、赤く染めることにしたんですよ。味は甘さ控えめです。上新粉で作ってるんで、すあまと同じですね」。
近づきたいあの人には「おしり愛」を
こうして誕生した「尻餅」は、またたく間にその名を全国に轟(とどろ)かせた。更に最近では、「尻餅」が2個セットになった「おしり愛」も人気だ。
「"あなたと私はおしりあい"ってことで、おしりあいになりたい人、おしりあいになった人にプレゼントするために購入される方が多いですね。バレンタイン時期は問い合わせも多くいただきますね」。
「あなたとおしり愛になりたくて……」なんて差し出された相手はどぎまぎしちゃいそうだが、そのシチュエーションを想像しながら購入するのもまた一興なのかもしれない。
●information
梅屋
北海道様似郡様似町本町2丁目115