勝つのは人間かコンピュータか――。将棋のプロ棋士とコンピュータ将棋ソフトによる5対5の団体戦「第3回将棋電王戦」(主催・株式会社ドワンゴ、日本将棋連盟)が、3月15日に開幕する。

昨年12月に行われた「第3回 将棋電王戦」記者発表会」より。ponanza開発者・山本一成(左)と屋敷伸之九段

「将棋電王戦」は2012年、当時の日本将棋連盟会長である米長邦雄永世棋聖の決断によって始まった棋戦。第1回は米長永世棋聖自らが対局するも敗れた。第2回では5対5の団体戦に発展し、結果はプロ側が1勝3敗1分で敗北。人間側の苦戦が続く中、「巻き返しなるか」という期待がかかる戦いが今回の第3回将棋電王戦だ。

本記事では、第3回将棋電王戦をより楽しむために、主にコンピュータ側からの視点でこのを一大イベントを展望していく。人間側については、もうひとつの展望記事「プロ棋士編」を参照されたい。

2014年将棋の旅

最近、将棋がじわじわと注目度を上げている、ように思う。つい先日も『将棋観戦ぴあ』なるムックが出たばかりだ。「ぴあ」というと、春休みにちょっとした旅行をしたいなあなんて思ったときに立ち寄るコーナーに置いてある、あの「ぴあ」だ。自分では将棋を指さないけれど、観戦して楽しむ、そんなファン(いわゆる「観る将」)向けの一冊である。

私は日頃から将棋関連の書籍や雑誌というのは非常に専門的でディープなモノであり、門外漢にとっては『将棋世界』も『思想』も同じに見える、と思っていただけに、こうしたライトなムックが出版されたことに驚いた。当然、それなりの需要が存在すると見込んでのことなのだろう。

ニコニコ生放送で中継された「第2回将棋電王戦」の総視聴者数は延べ200万人を突破

こうした「将棋を観戦中心で楽しむ」流れを加速させたのが、インターネット中継や「ニコニコ動画」の存在だ。特にニコニコ動画の生放送による中継では、全身全霊で対局に打ち込む棋士の姿を、家にいながらにして見ることができる。これはちょっとしたカルチャーショックだった。そのニコニコ動画では第3回将棋電王戦の力が入ったPVを視聴することができるが、これもそのままテレビで流れてもおかしくないような出来栄えである。

将棋は以前にはこうした華やかなメディアとは縁が遠く、わかりやすさとは対極にあって「楽しみたいなら努力せよ」というストイックな雰囲気があった(そこが魅力でもあるわけだが)。ところが最近はネットメディアの発達によって流れに変化が起きている。第3回将棋電王戦をイベントとして見ると、気軽に楽しめる工夫が凝らされた新感覚のパフォーマンス、と捉えることができるだろう。「将棋に興味があるけれど、なんとなく距離を感じていた」という層には、関心を満たすよい機会になるはずだ。

将棋電王戦の魅力

将棋が注目されているらしいことはわかった。しかし「なぜコンピュータが出てくるのか」と疑問に思う方もいることだろう。プロ同士がしのぎを削ることに価値があるのはわかる。だがプロとコンピュータが向き合うことの何がそんなに注目されるのか?

まず、「人間vs機械」という構図そのものの魅力が挙げられる。SFでも人類と暴走する機械との対立は馴染みのあるテーマとして親しまれているが、そうした対立を通して人間という存在について考えさせることがテーマに深みを与えている。たとえば非生物に宿った知性を目の当たりにして「人間性とは何か」という根源的な問いかけに至る、といったことが語られる文学は少なくない。人間とコンピュータに将棋という勝ち負けのはっきりする舞台が与えられたことで、将棋電王戦にドラマ性が備わっていることは明らかだ。

さらに冒頭に書いた通り、コンピュータがプロ棋士に勝っているという現状がある。第1回将棋電王戦で敗れた米長永世棋聖は引退して久しく一線を退いていたが、第2回では現役棋士と戦って気鋭の若手、トップクラスのA級棋士を破ったことで、実力が大きく評価された。チェスでは1997年に専用コンピュータ「ディープ・ブルー」が当時の世界チャンピオン、ガルリ・カスパロフを破り「コンピュータの勝利」と大きく報道されたが、将棋でもコンピュータの実力が人間を超えるか否か、というステージに近づいているわけだ。

「第2回将棋電王戦」に出場したコンピュータ将棋ソフト開発陣。左から竹内章氏、山本一成氏、一丸貴則氏、伊藤英紀氏、金子知適氏

とはいえ、人間がやられっぱなしであとはコンピュータの侵攻を見守るだけ――という状況かというと決してそうではない。第2回将棋電王戦では敗れた3局のうち2局はむしろ人間側が優位に立っていたし、勝った1局はプロ棋士が完勝してコンピュータの欠陥をありありと示してみせた。人間側が勝ち越していても不思議ではなかったのだ。

将棋というゲームの奥深さはもちろん、勝負にとどまらない魅力的なテーマに加え、「どちらが勝つか」とハラハラできる実力的な拮抗。これらが将棋電王戦を盛り上げる要素になっていると私は思う。

さて、次頁からは第3回将棋電王戦の詳細に迫っていく。今回のキモはそのルールだ。……続きを読む