今でこそ、中国に追い抜かれてしまった感はあるけど、世界でも有数のロケットの打上げや人工衛星/探査機の軌道投入に関する技術力を持っているのが、いうまでもなく我々が住む日本だ。そもそも、こんな資源のない小さな島国で、しかも太平洋戦争で大敗した国なのに、よくぞ独自にロケットを作って飛ばせるまでに至ったものだと、感心してしまう。

今や多くの人が、戦後の荒廃した時代などまったく知らない世代となっても、それがどれだけ大変だったかはちょっと歴史系の本を読めばわかるわけで、それが今や宇宙開発だけでなく、さまざまな分野で世界をリードしていたり、リードしないまでも一目置かれる存在になったりしているのだから、自分の国ながら本当にすごいと思うのである。

宇宙開発に限っていえば、ヨーロッパなんてフランスが中心だけど、複数の国家が集まってESAを作ってやっているわけで、あとは米国、ロシア、そして中国(インドなんかも猛追してきているけど)といった大国ばかり。それらと対等とはいわないまでも、そうした大国にだって一目置かれているし、国際宇宙ステーションの補給などでも「こうのとり」はなくてはならない存在なわけで、何度も同じことをいうが、日本は大したものだと思う。

伝説の水平発射されたペンシルロケットから最新のイプシロンロケットまで、そして「おおすみ」から「ひさき」までの人工衛星や探査機の数々。そんな日本の宇宙開発をカタログ的に網羅しているのが、JAXAの協力を得て、宇宙作家クラブの会員である村沢譲氏が執筆した「世界一わかりやすいロケットのはなし」(KADOKAWA発行)だ(画像1)。今回はその書評をお届けしたい。

世界一わかりやすいロケットのはなし

はてさて、のっけからちょっと否定的な話で申し訳ないのだが、誤解を招いてしまうこそ最大のマイナスだと思うので、ちょっと本書のタイトルに関する話から始めたい。「日本のロケットと人工衛星/探査機をカタログ的に網羅している」と紹介しているのに、タイトルが「世界一わかりやすいロケットのはなし」とは、ちょっと違和感があるように思った方はいないだろうか? 正直、筆者(デイビー日高)も最初はもっとロケットのメカニズム的な話がわかりやすく書かれているのかと思っていた。ところが、そうではなかったのである。

もちろん、ロケットの仕組みと種類の違いだとか、新旧のロケットで利用されていた技術の数々などは解説されているし、最初から順を追って読んでいけば、日本のロケットや人工衛星/探査機に限ったことではなく、技術的に不変な知識も得られるのだが、本書はメカニズム的な話を解説することに主眼が置かれているわけではない。

「カタログ的に網羅」といったように、例えばH-IIAだったら、1号機から本書が執筆された時点での最新号である22号まで、トータルで100機のロケットが紹介されている(人工衛星/探査機もだいたい同数)。ロケットごとにどんな特徴があるのか、また搭載した人工衛星や探査機はどんなものかといったことを、最低でもロケット1機につき2ページを使って、写真もふんだんに用いて紹介されているのが本書なのである。

なので、もっと内容に合致したタイトルにするとしたら、「日本のロケット&人工衛星/探査機パーフェクトガイド」とかそんな感じ(厳密にはパーフェクトかどうかは置いといて)。まぁ、身もフタもない話だが、たぶんそれだと営業的に出版社サイドでゴーが出なかったのだろう。そんなわけで、「世界一わかりやすいロケットのはなし」となったのではないだろうか。ちなみに、米露欧中印など世界のロケットを扱っているようなイメージを受けるヒトもいるかも知れないが、日本で打上げられたロケットとそれに搭載された人工衛星/探査機のみが扱われている。

タイトルに関する違和感は仕方がないのだが、中味は間違いなく本物だ。1600円+税という価格はもちろん安いわけではないが、本来であれば2000円、3000円としてもおかしくないくらいの資料を扱っているので、非常にコストパフォーマンスがいい。これだけの資料性があってオールカラーで、1600円+税というのは安いといってもいいのではないだろうか。

さて内容だが、本書では、黎明期~1970年代、1980年代、1990年代、2000年以降の4つの時代に区分して、打上げられた日付順でそのロケットと、搭載されている人工衛星や探査機のことが詳しく書かれている。最新のロケットはH-IIAは前述したように22号機、H-IIBなら4号機、そしてイプシロンロケット試験機(1号機)という具合である。

ちなみにカタログと書くと、なんか味気ない感じがしてしまうかも知れないが、結構細かいトリビア的なことも書いてある。日本は人工衛星の打上げでは旧ソ連、米国、フランスに次いで世界で4番目であることなどは比較的知られているかも知れないが、ロケットによっては搭載する人工衛星の問題などで打上げが延期されて号数と打上げ順序が逆になったりとか(中には打上げ中止になってしまったものもある)、「はやぶさ」を打上げたM-Vロケットが垂直発射ではなくて斜めに発射していた理由とか、一歩間違えていたら日本はX線天文学を得意分野にできていなかったかも知れなかったりとか、もう驚いたり感心したり。

しかし、何よりも強く感じるのは、日本人は、なんでこんなに技術力が高いんだろう! ということ。でも、実は本書を読み進めていくと、今述べたこととは真逆の事実も見えてくる。ロケットの打上げや衛星/探査機の軌道投入の失敗、および予定していた性能が発揮されなかったことなどは、結構あるのだ。日本は、技術力がないのに背伸びしているのでは? とうがった見方もできるかも知れないが、そこは違うと思う。そうした数々の失敗にもめげず果敢に挑戦し続け、2014年2月28日には23号機の打上げとGPM主衛星の軌道投入成功で、今ではH-IIAの打上げ成功率を96%にまで導いた技術者たちの飽くなき努力がすごいと思う。

要は、本書はロケット&人工衛星/探査機カタログであるのだが、裏を返せば失敗したことも事実として書かれているわけで、まさに「失敗と苦難の道のり」でもあるのだ。ロケットがきちんと打上げに成功したか、搭載衛星は狙い通りの軌道に投入されたか、そして予定通りの機能を発揮して計画通りの運用期間をまっとうしたのかということもすべて書かれており、どれだけ宇宙開発が大変かということもわかる。本書を読み終えれば、それでも諦めず、常に前進している日本の宇宙開発の現場に対し、間違いなく尊敬の念を感じるはずだ。

そして、日本は改めていい国だなぁということ。予算が減らされたり、宇宙開発を含めて科学に金を使ってないで福祉などにお金を回せっていわれたりもするわけだが、それでもイプシロンロケットの最初の打上げ時(0.07秒のズレで自動停止した時)も夏休みということもあって約2万人が現地で応援したわけだし。本当に、いい国だなぁと思ってしまう。ロケットを飛ばせる技術力と、それを応援できる国民性はすばらしい。ロケットのノズルの直下にす巻きにして転がし、爆炎を浴びせたくなるような、わかってない政治家も多いけど(苦笑)。

ともかく、日本の宇宙開発がいつ始まり、そしてどういう道のりをたどってきたのか。それをあえて物語風にまとめるのではなく、成功も失敗もただありのままに綴ったのが本書である。「日本人、もっと自信を持とうぜ!」とか「日本人はすごいんだぜ!」などと、安っぽくあからさまな応援メッセージが書き込まれているわけではないのだが、だからこそかえって、著者の村沢氏による、日本人と、日本の技術力のすごさに敬服する思いと応援する思いが本書からはにじみ出てくるのだ。

宇宙開発やロケットがとにかく好きなヒトや日本の宇宙開発に関する資料を求めているヒトだけでなく、そして「日本てやっぱりすごいじゃん!」を感じたいヒトにもぜひオススメしたい1冊なのである。

世界一わかりやすいロケットのはなし

出版社:KADOKAWA/中経出版
発売:2013/12/27
著者:村沢譲
ISBN:978-4046000989
価格:本体1600円+税
出版社より:「ペンシルロケット」から「イプシロン」まで、日本のロケット全機の歴史を写真で紹介。イプシロンプロジェクトマネージャー森田泰弘氏、コウノトリ・宇宙船技術センター長 田中哲夫氏のインタビューも収録!