――水川あさみさん演じる主人公は画家志望で、表現することの苦しみや葛藤からバイロケが発生してしまいます。役者という仕事も主人公と同じように、そういう精神的な苦しみや葛藤はありますか?

みんな、あるんじゃないですか? どの仕事も一緒だなと。役者だけが特別じゃないと思います。

――ただ、別の人格になりきるという行為は、精神的にも負担だと思います。特に滝藤さんは、追い込まれる役が多いですよね?

確かに、そうですね。でも、精神的に追い込まれるような状態がなくなったら、僕はもうこの仕事をやらないと思います。常に闘うというか、気を緩めるところがないというか。例えば1シーンの少ない出番で手を抜くようになったら、もうやりません。どんな役でも真摯(しんし)に向き合っていたいです。だから、きついのは確か。現場に入ったら毎回、気持ち悪くなるので、あまり食事が喉を通らなくなります。でも、それは今の僕にとても必要なことだと思います。今後どうなるか分からないけど(笑)。

――2012年から2013年にかけて仕事がコンスタントに決まりはじめましたが、それはその中で見いだした答えなのでしょうか。

仕事は、一昨年からコンスタントに決まるようになりましたが、オファーはそれまでも頂いていたんです。でも、1カ月に4本とか、5本とか固まるんですよ。それでスケジュール的にお断りをし、その翌月には何もなかったり。なので、仕事の数としてはそんなに変わっていないですね。

――そうだったんですね。しかし、ここ最近は、「『半沢直樹』がきっかけでブレイク」みたいな周囲の声も聞こえてきませんか。

バンバン聞こえてきますね。だから、いいんですよそれで(笑)。ただ、僕は『半沢直樹』だから力を入れたというわけではなくて、全部同じように全力でやってきた結果、作品自体が世間一般の方にうけて視聴率をとったというだけの話で。僕自身のスタンスは何も変わりません。 評価していただいたことはすごくうれしいですけどね。

――そうすると、周囲の反応も不思議な感じですか。

うーん…でも、まだ「滝藤だ」じゃなくて「半沢の…ほらあの人!いじめられてた人!」っていう感じだから、全然ブレイクじゃないですよ(笑)。

――今後は『半沢直樹』で演じた近藤から脱却していくことが目標だそうですね。

近藤に限らずそれは絶対です。どのように脱却していくかは、今後どのような作品に出るかによりますよね。そのことをきっかけに、視聴者の方々の「半沢の近藤」ではなく、「役者・滝藤賢一」になっていければよいと思います。そういう作品と役が頂ければいいなと思いますけど…なかなか難しいですよね。10年に…1回、2回かな(笑)。

これは、ほかの作品が嫌ということではないんです。誤解をしてほしくないんですけど、原作を読んで、この役をやりたいと強く思ったのは『クライマーズ・ハイ』の神沢と『半沢直樹』の近藤。でも、そういう役に巡り会ったとしても作品自体がヒットしないと、みなさんの印象に残らない。

前は、「『踊る大捜査線シリーズ』の王明才」というイメージがあって、「『半沢直樹』の近藤」でそれを壊すことができたと思うんですよ。そういう感じで、また違う作品で壊さないと、ずっと「ほらほら、机バンバンやられてた人」って言われてしまいます(笑)。

――そこはやっぱり"運"の要素もあるわけですね。

もちろん、そうです。どの作品がヒットするかも分からないので、だからこそどの作品も手を抜くことができないですし、丁寧に積み重ねていかないと生き残れないと思います

――この作品で壊せそうですか?

どうなんでしょう。とにかく、一生懸命やりました。『半沢直樹』だって、制作側は誰もあんな数字をとると思ってなかったですから。『バイロケーション』でまた新しい違うイメージの僕をお見せできたらいいですよね。『半沢直樹』でいじめられてるイメージとは全然違いますから。どんな芝居をやっても面白いんだと思われなかったら、それはもう僕の負けです。

――結末が「表」と「裏」に別れていますが、どちらが好みですか?

やっぱり、ハッピーエンドの方がいいんじゃないですか。僕は、割とハッピーエンド好きですね。バッドエンドだったら、とことん救いのない方にいってほしいです(笑)。

(C)2014「バイロケーション」製作委員会